あっちへふらふら、こっちへふらふら。
私は不思議なきのみを食べてから、根無し草になった。
場所も時間も関係なく、あちこちに飛ばされる。
それでも平気なのは、帰る場所があるからだ。
気づけば、海軍基地の近くだった。
私はふと思い立って、海軍基地の扉を叩いた。
人のよさそうな顔をした海兵が出てきたので、私はお願いしてみる。
「最近出た手配書が欲しいんですけど、頂けませんか」
「ああ、まだ在庫があったはず……何枚欲しいんだ?」
「1枚ずつで結構なんですが、遡れる限り欲しいです、いっぱい」
「少し待っていてくれ」
言われた通りに待つ。
ふと思い出したのだ。私が会ったチョッパーは、私が手配書を集めていると言っていた。
今のところ、私はそんなことをしていなかったので、やらなきゃならんのである。
能力の都合上、荷物を持っていることがあまりできないので、集めた手配書は船に乗せておかなければならないだろう。
……とすると、こうした手配書の収拾は、麦わら海賊団が近くにいるときに行わないと無意味だったか?
しばらく分厚い手配書の束を持ったまま移動しなければならないかもしれない。
戻ってきた親切な海兵は、50枚くらいの手配書の束を持ってきてくれた。やべえ。多い。
「すまない、待たせたな」
「いえいえ、全然待ってないです。お仕事が忙しいのに、対応してくれてありがとうございます」
「いいんだ。市民の安全のためだからな」
この親切、無碍にはできない。
こうなってくると意地でも私はこれを船に持って帰らなければならない。
両手がふさがったままどこまで行動できるかな……私は手配書を両腕で抱きしめるように抱えた。
すると、手配書が一枚すり抜けて飛んで行ってしまう。すでにこんな調子では、船に戻るまでに何枚飛んで行ってしまうか――目に入った手配書は、馴染みの顔だった。
「あ、麦わらのルフィだ!」
「ああ、最近話題のルーキーだな」
海兵はやっぱり親切で、落ちたルフィの手配書を拾って、私の抱える手配書の一番上に戻してくれた。
私はにっこりした。一番好きな顔が、一番見える場所にあるのは嬉しい。
「噂じゃそろそろこのローグタウンに来るという話だが、任せてくれ。ウチにはスモーカー大佐がいる! あの方がこの街に就任してから、
「す、すげェー! スモーカー大佐って、すげー!」
「そうだ、すごいんだ!」
すげーすげーと2人で言っていると、海兵はハッとした顔で私の背後を見て、即座に敬礼した。
「スモーカー大佐! お疲れ様です!」
「え、噂の!? お疲れ様です!」
私もつられて敬礼しそうになったが、手配書で両手がふさがっていたので、足をきちんとそろえることしかできなかった。
スモーカー大佐と呼ばれた男は、なんと葉巻を2本もくわえていた。
葉巻なんて太いものをくわえ煙草するとはすごいな。顎は疲れないのだろうか。
思わず顎を眺めていると、スモーカーも私の顔をまじまじと見た。
「あァ? てめェ……」
すっご、葉巻2本銜えたまま喋れるの……いや、刀銜えながら喋れるウチのゾロの方がすごいか……とか考えている場合ではない。
……おい、この顔の見られ具合、まさか知り合いか?
「生きてやがったか」
知り合いだった。
しかもまた、生存を確認されるタイプの知り合いだ。
毎度毎度、私はいろんな人の前で死にかけているのか? ――そうかもしれない。
この感じからいって、彼は私を海賊とは認識していない。
さすがに海軍基地の前で海兵と海賊が会って、よう久しぶりだな、で済むはずがないからだ。
つまり私は善良な一般市民として彼に接するべきだが、彼に会った頃の私は、彼が海兵だということを知っていただろうか?
今大佐という地位ならば、たぶんそれなりに前から海兵に所属しているはず……優秀そうだから、一気に地位を駆け上ってはいそうだが……。
いいや、知っているにベットだ。
「生きてるよ。きみは大活躍しているようでなにより」
「ハッ。そっちはまだわけのわからねェ暴れ方をしてやがんのか?」
わけのわからねェ暴れ方ってなんだろ……聞くか。
「私、きみの前でなんかやばいことしてたっけ?」
「山賊の殲滅。海賊と紛争。奴隷商人と殺し合い」
「うわぁ」
「自分で引くな」
確かに覚えのあるようなことばかりだが、覚えがあるのに彼のことを覚えていないわけがないので、それを私はこれからやるってことだよな?
すでに似たようなことは何度もやってるけど、私はまだまだそういうことをやるというわけだ。そりゃうわぁと言いたくもなる。
特に奴隷商人との殺し合い。まあ、見ると殺してしまいたくなるのでそれはしょうがない。
殺しても殺しても出てくる方が悪いだろ。
「いい加減、海軍に入る気はねェのか」
「いい加減ってなんだ!? 入らないよ!?」
海軍と疑われたのはローが初めてだったが、正直、海軍に誘われるのは初めてではない。
見る目がないなと思いながらそのたびに断っている。
まさか彼も誘ってくるタイプだとは思わなかった。
「一人でふらふらそんなことしてっと、あっという間に死ぬぞ」
「それなら安心してもらっていい。仲間ならいるからね!」
手配書で両手がふさがっていなかったら、私は両手を腰に当てて胸を張っていたことだろう。
そもそもそんなこととは何を指すのだろう。私が好き好んで山賊や奴隷商人を狩っていると思っているのだろうか。
思っていそう。私は今手配書の山を抱えているのだから、これからそれを狩りに行く賞金稼ぎだと思われるのが自然だ。
「というかきみに会ったときだって仲間いたからね!」
これからの未来で彼に会うというのなら、そのときの私は既に麦わらの一味だ。
だから一人でふらふらしていたわけでは――いや、所属があるというだけでふらふらしていることに変わりはないのだが。
「そのわりにゃ一人で戦ってただろォが」
「いつも迷子になっているだけだよ!」
「今もか」
「今もだ!」
ドドン! と効果音付きで言ってやった。
スモーカーは、ため息とともに煙を吐き出した。
「だから基地に来たのか」
「え、迷子のご案内もしてくれるの? 知らんかった、海軍って最高じゃん」
「入――」
「入らんよ!?」
そんなにしつこい勧誘をしてくるように見えなかったので、思わず驚いて食い気味でつっこんでしまった。
スモーカーはくつくつ笑った――冗談だったらしい。でもたぶん、最初の勧誘は本気だったよな。
「一人で野垂れ死なれると寝覚めが悪ィだけだ、早く仲間のとこに戻るんだな」
「それができりゃ苦労しねんだ……! 私の迷子スキルを舐めるなよ……!」
「誇れねェだろ」
ぐぬぬ、と歯噛みする。
私だっていつでも麦わら海賊団の船に乗っていたいとも。
「まあいいや、この顔見たら私に教えてくれよな」
「また暴れるつもりか」
麦わらのルフィの手配書を見せて、スモーカーに言った。
「うーん、そうなったら悲しいけど、そういうこともあるかもね」
そのとき、私が暴れる相手はスモーカーになるだろう。
悲しいが、私は海賊なので、海兵とは戦わねばならぬときがある。
この短時間の会話で彼のことを気に入ってしまったので、出来るだけ長く仲良くできればいいけれど、と思った。