あっちへふらふら、こっちへふらふら。
私は不思議なきのみを食べてから、根無し草になった。
場所も時間も関係なく、あちこちに飛ばされる。
それでも平気なのは、帰る場所があるからだ。
私は変わらず空島にいた。
右腕は上がらないので、左腕を何とかまげて、私は胡坐をかいて頬杖をついた。
しんどい。ここまでしんどいのも久々だ。なんか、体もだけれど、精神的にしんどい。
周りにこれだけ仲間がいるのに。メリーのメインマストが折れているからだろうか。
彼の死の近さを感じてしまうからだろうか。誰一人欠けて欲しくない旅だというのに。
私はため息をつく。
「も~動けんくらい疲れた~。足手まといすぎるからここに放置してっていいよもう」
「そんなことできるかァ!」
チョッパーから怒られたが、私は余計にしょんぼりした。
「あ~~もうちょっと元気だったらな~~~あの流れのまま敵みんな斬ってきたのにィ……そもそも今誰と戦ってんの?」
「神様らしいわ」
「スケールでかァ~~」
……なんかしれっとロビンがいるな。質問に答えてくれてようやく気がついた。
あれ? 私の記憶ではアラバスタで敵対していたような気がしたんだけど……なにがどうなった?
まあいいか。いつか未来の私が知るだろう。
なんだか仲間みたいにそばにいてくれるのは新鮮で嬉しいな。ちょっとだけ元気になった。
念のため、神についてルフィに尋ねた。
「こっちにいるガン・フォールじゃなくてだよね?」
「変な騎士って神なのか?」
「だと思ってたんだけどこの感じなら違うな。じゃあ元神かも」
「元神の変な騎士かァ」
今が麦わら海賊団が結束している時間軸だとすれば、私がガン・フォールと出会ったあのときはおそらく……10年近く前だろう。……20年かも。
「知らん間に内紛起きて権力者が変わってるな。あ゛~もうめんどくせェ、なんも考えたくねえ」
「まずお前はなんで空島にそんな詳しいんだ」
「……」
ゾロにすごい基本的なことを聞かれた。そうだね。本当にその通りだね。
そんなこと疑問に思われるに決まっているのに、私はそう質問されたときの返事を何も考えていなかったね。
血が足りねっす。助けて~。私はひとまず、正直に言った。
「来たことある」
「なにィ!? そうだったのか!?」
「ウン……」
「言えよ先にィ! ずりぃぞ!」
ルフィに文句を言われた。
空島に来る直前にも、私は彼の近くにいたということだろうか。
まだ私の記憶にはない出来事だ。いい未来がありそうでよかった。
私はルフィに空島のことを言わなかった言い訳を考えた。あまりいいのは思いつかなかった。
「でも先に言ったら楽しみを奪っちゃうじゃん」
「それもそうだな!」
「納得すんのかい!」
納得したルフィにウソップがツッコミを入れた。
私はいつでも彼らにネタバレをしないよう、気を遣っている。
未来予知を伝えるとロクなことにならないと、私は知っているのだ。
可能であれば、未来を知っているということでさえ、知られない方が良い。
ロビンは彼女の母とそっくりな顔で、私に尋ねた。
「知っていることを教えてくださる?」
「私が言っていいんかな。ガン・フォールのが詳しいとは思うけど。まあいつ起きるかわからないか。しかし私は忘れっぽいからなァ……ちょっと違う風に覚えてるかも」
歴史は苦手なのだ。
時に、私にとってそれは過去ではなく未来だから。
みんなが私の話に集中しているのを居心地悪く思いながら、私は昔を思い出しながら語る。
「今私たちのいる場所はアッパーヤードと呼ばれている。空島にはない土があるから貴重で珍しい。空島を統べる者がここに住み、神と呼ばれていた。かつてのガン・フォールがそうで、私はそのときの彼を知っている。アッパーヤードは知っての通りジャヤの一部だから……」
私はそう言ってから、少し黙って、空を見上げた。
空島の空はやっぱり違う。高度が違うからだろう――現実逃避も厳しい。
みんなの顔を見るのが今だけ怖い。空を見たまま聞く。
「……知ってる?」
「そうなんじゃないかとは思っていたわ」
「っぶね、あぶねえ、口が滑る」
ロビンにそう言われなかったら、泣いて逃げ出していたかもしれない。
このまま世界の秘密まで喋ってしまいそうだ。
ルフィはよくわかっていなさそうな顔で聞いているので、とにかくまあ、セーフだった。
私はさっきより慎重になって、話を続けた。
「この土地が空に登って来た時、土地だけが来たのではない。そこには人が住んでいた。だが、この土地を珍しがり神聖と崇めた空の人々に、元から住んでいた者たちは追い出された。だから彼らはこの土地を取り戻そうと戦っている。先祖の誇りにかけて」
ここまでは歴史の話だ。
これからは私の主観になる。
「ガン・フォールはその戦争を止めようと頑張ってたんで応援してたんだけど、まあ駄目だったんだろな。今神を名乗っているやつがどんなのかは知らないけど、ロクなやつじゃなさそうだ。この森で暮らしてるくせに、炎を使うやつが部下なんだから。……あー斬っちゃった! めっちゃ斬っちゃった大事な木! あれだけ育つのに何年かかんのもうイヤーッ!」
「植物にも愛を注ぐ、君こそが本当の天使ちゃんだ!」
サンジの賛辞を聞いて、私は体を起こすのをやめて寝っ転がった。
大体説明した、と思う。
これ以上は重症具合からの判断能力低下で、まずいことまで話してしまいそうだ。
黙る代わりに、私は愚痴を叫んだ。
「だから嫌いなんだ剣持つの! あーいや! もうなんも斬らん! イヤッ! 一生やらねえ!」
とか言っていっつも結局最後には持つんだ。自分が嫌になる。
あの程度の敵も斬れないくせに、私に剣を持つ価値などあるものか。