あっちへふらふら、こっちへふらふら。
私は不思議なきのみを食べてから、根無し草になった。
場所も時間も関係なく、あちこちに飛ばされる。
それでも平気なのは、帰る場所があるからだ。
目の前で本を読むロビンを見て、老人みたいな思考になる。
時を右往左往する私は、自分の年齢を理解しないが、こうして知り合いの子供や子孫を見ると、やはり自分は年寄りなのだなあと思わされるのだ。
本当に似てはいるが、やはり別人だ。
私の知るオルビアは、いつだって鬼気迫っていた。
知識を求めることが楽しいと、そう言っていたことも覚えている。
だがいつのまにか、彼女は楽しさからではなく本を読むようになった――。
過去に沈みそうになる私に、ロビンは声をかけた。
そういえばここどこだろ。船の中だというのはわかる。
「あなたが食べた悪魔の実は、図鑑に載っていないのね」
「えー。なんでそう思うの」
「それらしいものが書いてないから」
「まあそうか」
ロビンが、読んでいた本の表紙を見せてくれる。悪魔の実図鑑だ。
私も読んだことがある。ちゃんと勉強になる本だ。
正直、その本に載っている悪魔の実の能力者には、ほとんど会ったことがあるような気がするし。
「そういうのもあるんじゃないの?」
「ふふ。私が知る限りはないわ」
「そうかー。ロビンが知る限りないなら、相当ないなそれは」
なにしろポーネグリフが読めるくらいだ。
世界の中でもかなりの物知りだろう。
私はこの船の名前が突然分かった。サウザンド・サニー号だ。
今もルフィたちの気配が、そこかしこからするのだ。
期待をしてしまう。
前に空島で見た彼女も相まって、ロビンは私たちの船に乗ってくれたのではないかと。
「どんな悪魔の実なのか、興味があるわ」
「私は悪魔の実の能力者だと、きみに言ったことがあるかな」
「いいえ。けれどこうは言ったわ。悪魔はきみひとりではないよ、と」
なんかキザなことを言っているな、未来の私は。
そして今聞かされても私は覚えていられないだろうから、その時の私は本当に思ったまま、それを言うのだろう。悪魔の子と呼ばれたニコ・ロビンに。
私の能力は確かに悪魔の実のそれだが、そうであることをこの口で肯定することはできない。
少しでもあやふやにしておきたいのだ。
だが、面と向かって知りたいと、そう言ってくれる友に、私は少しだけ迷った。
「正直に話すには……どうしてもためらいがある。この気持ちは、きみならよくわかると思うけど」
「ええ。話しても大丈夫だと、あなたは思えないのね」
「……ああ。大切な人たちをできる限り危険なことから遠ざけておきたいと思うのは、おかしなことだろうか」
「いいえ。けれど、あなたひとりに重荷を背負わせるのを、悲しむ仲間もいるわ」
「うう゛ん……」
私だってそこまで自意識が低くはない。
これだけちゃらんぽらんで、いつでもいたりいなかったりするような無責任なやつでも、彼らに仲間だと思ってもらえていると信じている。
そんな彼らを、どれだけ悲しませたとしても。
この私ひとりで抱えてしまえば、それで済むのなら、それがいい。
私は傲慢なのだ。彼らを守れると思っている。
本当はどれだけ彼らに守られてきただろう。
いつかはひとりで戦えなくなる時が来る。
だが、その時が来るまでは、ほんの一秒でも長く、私だけで苦しみを留めておきたい。
「ま、大丈夫だ。ラフテルに着く前には言うよ」
「そう。楽しみね」
「うん」
本当に楽しみだ。それはまだ、私も知らない未来だから。