あっちへふらふら、こっちへふらふら。
私は不思議なきのみを食べてから、根無し草になった。
場所も時間も関係なく、あちこちに飛ばされる。
それでも平気なのは、帰る場所があるからだ。
ウソップの腹を枕にして寝ていたら、ぎゅむっと足を踏まれて起きた。
私を踏んだことにも気づかず、どたどたと走り抜けていく人影を見て、首を傾げる。
誰だろう。周りを見れば、いたはずのゾロとナミが見えない。
あー眠い、さっきまですごい騒いでいたから……傷に響くので飲酒はしなかったが、疲労でふらふらする。
気持ちよく寝ているウソップ、ルフィ、サンジはそのままに立ち上がる。
あくびをしながら外に出ると、随分ざわざわしていた。
街の住民が右往左往している。近くにいた一人の男に声をかけてみた。
「なにやってんの?」
「そりゃあいつの首をとるため……って起きてる!?」
「だってきみらがうるさいんだもん……」
もう一度あくびをする。
カウボーイ風の格好の彼は、さっきの宴でルフィと楽しく肩を組んで踊っていた男だ。
あのときの楽し気な様子が嘘だったかのように険しい顔をしている。
「知られたからには……生かしちゃおけねえ!」
「え、何を?」
「この街ウイスキーピークが、実は歓迎の街ではなく、賞金稼ぎの街だということを!」
「ええ!? 今言われるまで知らなかったけど!?」
「しまったァーッ! つい喋っちまったァーッ!」
うっかりしすぎだろ!
あんまりぺらぺら秘密を喋るもんだから私も驚いちゃっただろ!
「喋っちまったからには消すしかねえ!」
「えーっ!? きみのせいじゃん!」
「うるせえ!」
あまりに間抜けな理由で拳銃を向けてくる賞金稼ぎの男に驚いてつい両手を上げると、男は発砲する前に後ろから殴られて地面に倒れた。
「なにやってんだ」
「あ、ゾロ。おは……こんばんは? ねえ知ってた? ここ賞金稼ぎの街らしいよ」
「知ってる。今襲われてっからな」
「この大騒動きみのせいか。もうちょっと静かにやってくれよ、起きちゃった」
「はっ。悪ィな」
あくびをかみ殺しながら、ゾロに尋ねる。
「ナミ見た?」
「いや。どっかで盗んでんだろ」
「そりゃそうか。ほっといて平気かな。きみは? 手伝いがいる?」
「要らねェよ」
「だよね。ふぁ~あ、じゃあもっかい寝てくる……なんかあったら起こしに来てね……」
……
ガコッと大きな音がして、全身に衝撃が走ってようやく私はほんのり目を覚ました。
「仲間とは思えないほど乱暴ね!?」
「テメー天使ちゃんになにしやがる!」
サンジと、ナミではない女性の声でツッコミがした。私はいまどこでここはいつだ。
私が転がっているのは甲板か。メリー? メリーだ。じゃあ安心していいか。
寝ぼけ眼をこすりながら体を起こす。
「あぇ? なに、なんかあった、どうした?」
「どんだけ寝てんだお前は」
「うーん、最近あんま寝てなくて……メリーまで運んでくれたの?」
「全然起きねえからだ」
「えー嘘。そんなに寝てたか」
気づけばウイスキーピークを出港しているようだ。
私はおそらくゾロに抱えられてここまで来て、たぶん甲板にぶん投げられて、それに入ったツッコミで起きたのである。
しかも船に一人増えている。水色の髪の女性だ。ラブーンのところで見た覚えがある。
「なんか乗ってる、なんだっけ、ミス……ミスなんとかの……」
「ミス・ウェンズデーよ。でも、本当の名前はビビというの」
「へー。コブラのとこのお嬢さんと同じ名前だね」
「……コブラは父の名よ」
「……海賊船に王女が乗ってる理由はなんだ!? 私寝てる間に大事なことがあったみたいだな!?」
一気に目が覚めた。なんか見逃したか私は!?
せっかくここにいるのに!? 寝てる場合じゃないじゃん!?
私が挙動不審になるほど驚いていると、ナミに言われる。
「アラバスタ王女の名前、知ってるのね」
「私は局所的な物知りだからね。詳しいジャンルがあるんだ」
主に人である。知人が多い。
あーっとまずいぞ。コブラは私を知っているが――娘さんと関わるとなると、麦わら海賊団の前で会う可能性がある?
一国の王と知己なのは、言い訳が、言い訳が追い付かねえかもしれねえ。
……未来のことは置いておこう。いつもその場でなんとかしてきたのだ。
「それでなんで王女乗ってんの? ついに国に身代金を請求するとこまで来た?」
「あら。それ儲かりそうね。……冗談よ」
ナミのそれは全然冗談だと思えなくて、一瞬真顔で黙ってしまった。
アラバスタ、バロックワークス、イガラム、ミス・オールサンデーについての話を大雑把に聞き、私は頷いた。
「面白そう。いいね。守ってみせよう、お嬢さん」
次に行くのはリトルガーデン。
それまでどこかに飛ばされないと良いが……この時代なら、そこに知人がきっといるはずだ。
まあ彼らあそこにいて長いし。今は何戦目の戦いをやっているのだか。
考え事をしていたようであったビビが、しばらくして私に言った。
「私、あなたを知っているかもしれない」
またか。またこれか。
私の方は相変わらず心当たりがないのだ。
どうにも、私が先に知られているパターンが多い気がするな。
私が相手を先に知っているのと、相手が私を先に知っているの、確率的には同じなんじゃないのか?
私が相手を先に知っている場合、私は困らないから記憶にないだけか?
それも、知っている
私は困った顔を隠さずに、眉を下げたまま彼女に聞いた。
「どっかで会ったかな」
「いいえ。私が一方的に見ただけよ。……アラバスタにいたことが?」
「行ったことはあるよ。いいとこだよね。好きな国だ」
暑いのも寒いのも得意ではないが、あのカンカン照りを我慢してでも行きたいと思う国だ。
賑わっていて、美味しい店も多い。
しかしトナカイのチョッパーには暑すぎてしんどい場所だろうな――とは口にすることができない。
彼はまだこの船に乗っていないようなので。
ルフィは私に言った。
「なんだお前、行ったことあんのか?」
「うん。あそこでリンゴは買わなくていいよ、そんなにおいしくないからね」
「なにィ? そうなのか」
「ビビもそう思うだろ」
「……金色のリンゴのことを言っているのなら、そうね」
「だってさ」
私がいた頃には、金色に塗装したリンゴを不老不死の薬として売る、観光客向けの詐欺が大流行していた。時が経って、もはや古い詐欺になっているのかな。
ビビは私を知っているかもしれないと言ったが、どう知っているのかは教えてくれなかった。
まったく、焦らさないで欲しい。
恥ずかしいことで知られていたらと思うとそわそわしてしまうじゃないか。ビビに聞く。
「かつてきみが見た私は悪いことしてたかな? 恥ずかしいところを見られていないと良いけど。できる限りいい子にしているつもりだが、よく暴れまわって山賊百人斬りとかしてるから……」
「いい子はそんなことするか!」
ウソップにつっこまれたが、いやいやそんなことはないはずだ。
山賊は悪党だから斬る側が正義のはずだ……これはやはり暴論か。
硬い表情ばかり浮かべていたビビは、ここにきてようやく少し微笑んだ。
「いえ。いいの。この船にあなたが乗っていて嬉しいわ」
未来の私、王女の前でなにか変なことしたんかなあ……。
好意的な感じではあるので、そうおかしなことはしていないと信じていいだろうか。