あっちへふらふら、こっちへふらふら。
私は不思議なきのみを食べてから、根無し草になった。
場所も時間も関係なく、あちこちに飛ばされる。
それでも平気なのは、帰る場所があるからだ。
何度目だ。
行き場のない怒りを覚えながら、私は海しか見えない場所で、空を駆けていた。
今日は鳥も見えない。
次の島にたどり着く前に、本当に餓死するんじゃなかろうか。
そうなる前に悪魔の実の能力は発動するのだろうか。
クソーッと叫びたくなるのは我慢していた。
なぜなら体力を温存しなければ、死ぬかもしれないのだ。
悪態をつくことで、一歩前に踏み出す力を失うのは恥だ。
絶望感に苛まれながら空を走っていると、前方に船が見えた。
私は顔を輝かせたが、一瞬にして喜びから一転、動揺した。
――その船は、ゴーイング・メリー号なのである。
いつだってメリー号のところにいれば安心していた。
仲間とともに過ごせる時間は貴重で、愛していた。
しかしこの会い方はどうだろう。
メリー号に乗っている彼らのところに、空中闊歩で突撃するのはさすがに非常識というものなのでは?
彼らは未だ、覇気どころか六式も知らんのに――と迷っていると、目が合った。
正確には、望遠鏡を覗いてこちらを見ているウソップが見えた。
……詰みかこれは。頭が痛い。
もう行くしかあるまい。私は気分を落ち込ませながら、メリー号へと歩を進めた。
その間に、望遠鏡はウソップからナミへ、ナミからゾロへ、ゾロからルフィへ、ルフィからサンジへと回っているのが見え……なんの仕打ちなんだ? 私が何したってんだ?
こんな公開処刑酷いよ。
望遠鏡など必要ないほどの距離まで来た。
私は一際大きく宙を踏み込んで、一息にメリー号の船べりに足をかける。
もういいか。ここまで来たら開き直ろう。
私は船の全員に注目される中、片手をあげて挨拶した。
「よっ。いい天気だね」
「そうだなー」
「天気の話をしとる場合かッ!」
船長といつも通りの会話をすると、ナミから常識的なツッコミが飛んできた。
メンバーからおおよそは推測できるものの、今の時間がいつかわからなかったので、ルフィに聞いた。
「次の島はどこだって?」
「ローグタウンだ!」
「ああ。観光名所がたくさんあるよね」
「普通に会話をするなーッ!」
ウソップにも突っ込まれてしまった。
「普通の会話しかできないよ。こんなにも普通な私なんだから……」
「空飛んできたやつが何言ってんだ!」
「あー、見た?」
「そりゃもう見えるわ。みんなで見たっつうの」
「ええ。何回見ても見間違いかと思ったわよ」
「天使ちゃんはやっぱり天使だったんだねェ~!」
意外にも、私がとんでもない方法で船に乗り込んできたことを気にしたのは、ナミとウソップだけだった。
ルフィは私が変なことをするのには慣れっこだし、サンジは私に羽が生えているとでも思っているらしい。
ゾロはわからない。昔彼に妖怪だよ~んって言ったことがある気がするのでそれを信じられているかもしれない。妖怪・空中スキップ女だと思われているかも。
ともかく、常識人のナミとウソップを納得させなければなるまい。
私は口を開いた。
「しょうがない、話すか……実は! 空っていうのはー! みんな飛べまーす!」
「なにィ~!? 本当かァ~!?」
「方法知りたい人ー!」
「はーい! はいはいはい!」
「おれもおれも!」
「こいつら単純かよ」
私が突如始めた空中散歩講座に飛びついたルフィとウソップを見て、ゾロが言った。
まさかこんなにも早く空でステップを踏めることがバレていたとは思わなんだ。
これから先も、かなり長いこと彼らに配慮していた気がするが、あれは無駄だったということか。
私は人差し指を一本ピッと立てる。
「じゃあ初級編、海の歩き方」
「初級で海を!?」
「右足が沈む前に左足を前に出す!」
「次言うことがわかったぜ……」
真面目に聞くルフィとウソップとは裏腹に、ゾロは額に手をやって呆れた。
私は構わず続ける。
「そして左足が沈む前に右足を出す。これを繰り返し続けるとどうなる?」
「……歩ける!」
「そう正解!」
「すんげェー!」
「単純すぎるわよ……」
私の解説に感動するルフィとウソップに対し、ナミも呆れていた。
私はそれにも構わず続ける。
「空を歩くのも同じ原理だね。こうして右足を上げます。この右足が地面に着く前に左足を前に出します……これを繰り返すと! 空を飛べる!」
「おおおおお!!!」
「おいルフィ! やってみようぜ!」
……よし。船長と狙撃手はなんとかした。
コックは私にメロリンして話を聞いていないため除外。
「というわけでちょっと空中散歩してきただけだよ。疑問は解消した?」
「いや。余計に深まった」
ゾロに言われ、私は口をへにゃっと曲げた。
やっぱり彼も納得はしていないらしい。
「これ以上言うことはないんだよ、ほんとに。これに関しては、言った通りの技術で飛んでるからね」
「だってこれだけで、急にいなくなったり、急に出てきたりしている原理が説明できるとは思えないもの」
「うん。それはまた別の原理が働いてる」
「やっぱなんかあるんじゃないッ!」
「だって今回は空飛ぶ話だろっ!?」
ナミに掴みかかられて、より詳しい説明を求められ、困る。
何を言うか決めないまま口だけ開くと――ザバーン! と大きな水音がした。
「大変だーッ! 水面歩こうとしたルフィが海に落ちたーッ!」
「能力者のくせになにやってんだァーッ!!」
「やっばいごめんルフィ! 浅いところで練習しないと危ないっていうの忘れたァ!」
サンジが海に飛び込んでルフィを助けてくれたが、私は2人にごめんごめんと100回謝った。
私は海に入れないから助けてあげられないというのに、同じく泳げないルフィを海に駆り立てるようなことを言ってしまった。
とてつもなく素直な船長なのだから、こうなることを想像くらいできたはずなのだ、何年彼を見てきたのだ、私は何をやっているのだ。
私があんまりめそめそするので、ナミはこの場での追及を止めてくれた。
体育座りして、自分の両足の間に頭を突っ込むくらい俯きながら、懇願した。
「ルフィ、やっぱり頑張って空飛べるようになってくれ……海に落ちて欲しくない……私は助けに行けないんだ……」
「よし、んじゃもっかい――」
「海の上じゃなくても練習できるだろ!?」
ルフィがもう一度海に飛び込もうとしたので、私は急いでルフィを羽交い絞めして止めた。
凹んでいる暇もなかった。