ふらふら   作:九条空

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麦わら海賊団

 あっちへふらふら、こっちへふらふら。

 私は不思議なきのみを食べてから、根無し草になった。

 

 場所も時間も関係なく、あちこちに飛ばされる。

 それでも平気なのは、帰る場所があるからだ。

 

 嵐の中、ふと気づいた。

 

 この嵐からは、ドラゴンの気配がする。

 

 もう随分顔を見ていないような気がしたので、気配をたどって会いに行こうかと思ったが、今いる場所は、荒れる波で大きく揺れるゴーイング・メリー号であった。

 息子の船出を見送りに来たのか。ならば、会いに行くのは少々無粋かもしれない。

 

「ほんとに置いてきてよかったのかよ!?」

「アイツなら大丈夫だ!」

「大丈夫っつってもルフィ、船もねえのに追っかけてこれねえだろ!」

「でも大丈夫だ!」

 

 豪雨で隣の人の声すら届きにくい中、大声でなにやらもめているようなので、私は彼らに声をかけた。

 

「誰か置いてきた? 連れ戻そうか?」

 

 既に少々遠いが、無茶をすればローグタウンに戻れるくらいの距離だろう。

 彼らの前で空中散歩するところを見せなければならないという意味での無茶だ。

 体的にはそんなに問題がない。

 今日は少々治りかけの縫い傷があるというくらいで、大きな怪我もないからだ。

 

「ギャアーッ! おばけーッ!」

「……どこだ!?」

「いやお前だよッ!」

「なんで私死んだことになってる!?」

 

 私の顔を見て、ウソップとナミが泣き叫んだ。

 遺憾過ぎたので憤った。ウソップに十字を切られながら聞かれる。

 

「どっから出てきた!?」

「どっからって……」

 

 難しい質問だ。私も知らないかもしれない。だからナミに聞いた。

 

「見てなかったのか?」

「見てなかったわよ!」

「じゃあ私も知らないよ。困るな。見ててもらわないと」

「なんで私が責められてんのよッ!」

 

 それは私も知らないよ。

 揉めていると、ルフィだけはにししと笑った。

 

「な? 言ったろ。こいつなら平気だ!」

 

 ルフィから信頼を得られているのが嬉しかったので、私はピースした。

 

「私なら平気だ。いつだって置いて行ってくれ。いつの間にか船に乗っているから」

「やっぱりおばけなのかよ!?」

 

 なぜそうなるのか。私は眉を下げ、ウソップに問う。

 

「おばけだったら乗せてくれないのか?」

「……! お、おれは……! クッ……!」

 

 ウソップは苦悩の表情をした末、大声で叫んだ。

 

「おれを祟ったりしねえんだよなー!?」

「しないよ。仲間だろ、ウソップ」

「じゃあ……! おまえがおばけでも……! おれは構わねえ!!」

「生きてるよ、バカだな」

「バカとはなんだァーッ! オメーのために悩んだんだろうがァ!!」

「ごめん」

 

 まさかそれほど真剣に悩んでくれていたとは思わなかった。

 私は近くにいたサンジの背中を、ポンと叩いた。

 

「本当に幽霊だと思われるとは。だって体にも触れるのに」

「今おれは天国にいるのか? 暖かく優しい天使の手を背中に感じる……死んでいるのはおれだったのかもしれねェ……」

「あれ? 幽霊を増やした?」

 

 私が触ったらみんな幽霊になるのか? 困ったな。

 

 茶番を繰り広げながらも嵐の中航海は続く。

 しばらくして、海の先に明かりが見えた。灯台のようであった。

 これからグランドラインに入るのだ。あれが目印だ。

 

 サンジは樽を引っ張って来て、進水式でもやろうと言った。

 

「おれはオールブルーを見つけるために」

 

 サンジが樽に足を乗せる。

 

「おれは海賊王!!!」

 

 次にルフィ。

 

「おれァ大剣豪に」

 

 それからゾロ。

 

「私は世界地図を描くため!!」

 

 ナミが笑う。

 

「お……お……おれは勇敢なる海の戦士になるためだ!!!」

 

 ウソップも、樽に足を乗せた。

 樽にはちょうど一人分の足の置き場があって、皆が私を見ている。

 

 私はなぜグランドラインに入るのか?

 私にとってグランドラインとは、普段、いつの間にか入ったり出ていたりする場所なので、きちんと考えたことがなかった。

 ()の私が、()()()()、グランドラインに入る目的は――ひとつだ。

 私は樽に足を乗せた。

 

「ルフィを海賊王にするために」

 

 ルフィはそれを聞いて、ニッと笑った。

 それを見て、私もニッと笑った。

 

 彼に会う前の私は、誰かのために生きることを知らなかった。

 そんなことをするくらいなら死ぬと思っていた。

 人は大きな契機があれば変わるもので――私にとってそれは、大切な人の死と、ルフィとの出会いだったのだ。

 

 樽の割れる音が、嵐の海に響いた。

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