あっちへふらふら、こっちへふらふら。
私は不思議なきのみを食べてから、根無し草になった。
場所も時間も関係なく、あちこちに飛ばされる。
それでも平気なのは、帰る場所があるからだ。
昔よりはこの悪魔の実を制御できているような気がする、と思ったのはやっぱり嘘かもしれない。
瞬きした瞬間海の上に放り出されたので、私はもう、呆れながら宙を蹴った。
悪魔の実の能力者は泳げなくなる。
しかし私の悪魔の実は本当にどこにでも飛ばしてくるので、こうして地面のない、海の上にも投げ出すのだ。
そうなったときに死なないよう、私は人生の早い段階で、空を跳ぶ技術を覚えていた。そうしないと死ぬからだ。
こういうことができる人もそう少なくないらしい。
私としても慣れてきた。感覚的にはスキップをしているのともはや変わらない。
とてつもなく早く何度も空中を蹴ることででっかいジャンプを繰り返して移動しているので……まあ本当にスキップかもしれない。
空に鳥が飛んでいてよかった。
大抵の場合、鳥が飛んでいるということは、近くに島があるということである。
鳥もずっと空を飛んでいるわけではなく、休む場所が必要だからだ。
だから私もこうして海しか見えない場所に放り出されたときは、鳥がいたら、その飛んでいく先に向かうようにしている。
たまに根性入った種類の鳥がいて、着いて行っても一生島にたどり着けないこともあるのだが――ついて行った鳥に3日飛び続けられた時は本当に死ぬかと思った。
ふと、近くに船が浮かんでいるのを見つけた。
しかも私の知っている船だった。これ幸いと私は鳥を無視してその船に近づいて、ひょいと船縁に足をかけた。
瞬間、甲板にいる船員が一斉に戦闘態勢を取ったので、私は両手を上げた。
「ワア」
無断乗船は海に投げ捨てられてもおかしくない罪なので、このリアクションも当然と言えば当然なのだが……見知った船と思ったのは私だけだったらしい。私が乗るのは今日が初めてなのだろうか。
ちらほら見たことのある顔もあるが、知らない顔もある。
一番見たことのある男が前に出てきて、私に問うた。
「親父になんか用かい」
「そういうわけじゃないんだけど」
「そういうわけじゃねえんかよい……」
呆れられてしまった。
微妙なリアクションなので、
私の知っている姿より、たぶん歳食ってるような気がするから、知り合いだと思うんだけど……確か彼フェニックスだったよな?
不死鳥の成長速度は人間と同じなのだろうか。朝青年で夜老人だったりしないか? 今夕方だから中年なだけだったりするか?
私は疑心暗鬼になっていた。悪魔の実って不思議すぎるからな……。
「ちょっとそこを通ったんで、旧友に会いに来たということにしてもいい?」
「ちょっとそこを通るにしちゃ、なんもねえ海の上だよい」
「本当に? やっぱあれ気合の入った鳥か……模様似てたからもしかしてと思ったんだよな……うん。モビー・ディックがいてくれて助かった。じゃあお礼を言うために来たということにしよう」
「言うこと変わりすぎじゃねえかい」
再び不眠不休で3日以上海の上を跳び続ける羽目になるところだった。
これでも主治医に安静を願われている身なのだ。
足場が現れてくれて本当に助かった。恩人、恩海賊船である。
「安心してくれ。白髭海賊団を襲いに来たんだとしたら、もうちょっと元気な時にやるさ」
「面倒を持ち込まれちゃ困る。あんたを傷つけられるくらいの敵と事を構える余裕はねェよい」
ここにきてようやく、彼が私を知っていると認識できた。
よかったよかった。私が対人上最も気を付けなければならないのは初対面の時だ。
私と相手、それぞれ初対面の時が異なるので、配慮しなければならない。
今はどっちも知り合っている状態なわけだ。私はちょっとリラックスして言った。
「それも気にしなくていい。きみらがもともと事を構えてる相手だろ、
それなりに長い間四皇というポジションのメンバーは変わっていないようだったので、たぶん今いる時間軸でも同じだろう、と思って言ったのだが。
私の発言で、肌でわかる程度には場がピリついてしまった。ありゃ。失言だったようだ。
それもそうか。四皇はお互い接触するだけで世界中がピリピリするのだ。
もし私がどこかの四皇と戦って――もし、もなにも戦っているが――その結果別の四皇のところに逃げ込んできたとあっては、バランスが崩れてしまうかもしれない。
といっても私が喧嘩をしてきたのはかなり若い頃のカイドウなんだけど、今の時代がいつなのかもわからんし。
マルコが一般的な歳の取り方をするのなら、うんやっぱり、かなり前のカイドウだ。
結構でかい失言しちゃったな。どうしよう。
私が悩んでいると船の巨大な扉が開いて、巨人が出てきた。
「ったく、大の男どもがガキ一人にいつまでガタガタ言ってやがる」
「親父!」
「おれの客だ。いつも通り急に来やがる。また迷子か」
「ワハハ。そりゃこの海の名前も知らないさ」
でもたぶんここはグランドラインだ。
3日続けて飛行できる気合の入った鳥を前に見たのがそうだから。
白髭は私の体に巻かれた包帯を見て、言った。
「カイドウか」
「あれ、なんで一発で当たるんだろ」
一応、他の四皇って白ひげ以外に3人いるはずなのだが。
「お前なら、他の奴らはうまくあしらえるだろ」
「あはは。そういうもんか」
私はニューゲートの鼻につながる呼吸器と、腕につながる点滴を見た。
「土産の酒もないと申し訳なく思ってたが、その様子なら禁酒したほうが良いね、ニューゲート」
「友が訪ねてきた。例外も許されるってもんじゃねえか」
「いやァ、見ての通り私もボロボロだからな。酒飲んだら主治医に怒られる。きみもだろ?」
マルコが腕を組んで深く頷いている。後方主治医面だ。
よし。今日は私が彼を禁酒させることにしよう。
酒がなくとも楽しい話をしていれば気はまぎれるものだ。
「ニューゲート、カイドウって性格悪いぜ。傷見る?」
「見たかねえ」
「見せたいくらい趣味悪いんだよ。マルコ見る?」
「主治医に診せろい」
それもそうだが、つい先ほど診せてきたばかりだ。
「じゃあたぶん脇腹の傷が開いてるからそこだけ診てもらってもいい?」
「それを早く言えよい!」