ふらふら   作:九条空

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ブルック

 あっちへふらふら、こっちへふらふら。

 私は不思議なきのみを食べてから、根無し草になった。

 

 場所も時間も関係なく、あちこちに飛ばされる。

 それでも平気なのは、帰る場所があるからだ。

 

 薄暗く、じめじめとした場所だった。

 ブルックの姿が見えたので、私は嬉々として彼に近づいた。

 

「あれっ!? 一瞬姿が消えましたが、どこにいらっしゃったんですか?」

「一瞬で済むとは運がいいね、ブルック」

 

 彼の傍には、ついさっきまで別の私がいたようだ。

 まだ私が急にいたりいなかったりしているところを、彼は見ていないらしい。

 とはいえルンバー海賊団の船に乗った時はそれをやっているので、彼が理解するのもすぐだろう。

 ブルックの背後に襲いかかる人影を、私は蹴り飛ばした。そして首を傾げる。

 

「なんか手応えが変だな……」

「気をつけてください、()()()の群れです……!」

 

 ブルックの言葉の通り、うぞうぞと、動く死体の群れが現れた。

 私はそのゾンビの顔を見て、一瞬、息をするのを忘れるほどの激情に襲われた。

 

「……あ゛?」

 

 ――怒りだ。

 

「な、なんだ……!?」

「体が動かねえ……!」

 

 空気がビリビリと震え、ゾンビたちの足は一度止まった。いけない。

 

 すー、はー。

 私は深呼吸をして、己の怒りが覇気として漏れ出るのをなんとか抑えた。

 

「そうか。ゲッコー・モリアがいろんな人から影を盗んでるって話は聞いてたけど。影を何に入れてるかって――()()なんだな」

 

 この場所……スリラーバークといったか。

 ここに降り立つのは2度目だ。最初はブルックを追いかけて、彼と内緒話をするためだけに上陸した。

 話ができたので満足して、どうしようかな、一旦サニー号に戻ろうかなと迷っていたところで再びどこかに飛ばされてしまったので、私はここについてなにも知らなかった。知らない方が良かったのかもしれない。

 こんなのは、はらわたが煮えくり返って、全部斬り尽くしてしまいそうだからだ。

 

「己の無力を感じるよ。私は友達を静かに眠らせてやることすらできていなかった……どうやったら止められる?」

 

 動く死体を止める方法など知らない。

 これが悪魔の実の能力だというのなら、本体であるゲッコー・モリアを叩けばいいのだろうか――ああそうか。

 

「真っ二つにでもすればいいのか」

「いえ! 口の中に塩を入れると影が出てきます!」

「そうか。友達にひどいことをしなくて済みそうだ」

 

 ――モリアを真っ二つに斬ろうかなと思っての発言だということは、一旦黙っておくことにした。

 死体に塩で済むのなら、ひとまずはそれでいい。

 彼らと戦って傷をつけるのは、まさに死人に鞭を打つ行為だ。可能ならそんなことはしたくない。

 

 幸いなことにブルックが塩を所持していたため、それを貰って、彼らを物言わぬ死体に戻した。

 本当なら彼らを再び埋葬してやりたいが、正しい墓の位置も知らない。

 他に動く死体が山ほどいる今は、このままにしておくしかあるまい。

 ブルックが言葉を選びながらも、私に尋ねた。

 

「その、知り合いでしたか」

「うん。……随分いろんなところから墓を暴いているみたいだね。あちこちで覚えのある顔がたくさんある。死んだことを今まで知らなかった奴らもいる。ああ……こんな形で知りたくはなかった」

 

 この目で見さえしなければ、きっと彼らは今もどこかで元気にやっているに違いないと思えたのに。

 私は――私はいつも、その根拠のない妄想で己を支えてきたのだ。

 友が今はもう死んでいるかもしれないことを、考え続けては足が止まってしまうから。

 

 だが彼らは死んだ。もうずっと前に。

 死んで墓を暴かれた。私はそれを、彼らに代わって怒らなければならない。友として。

 

「切り替えた。友のために()()を尽くす」

 

 私はゾンビの持っていたサーベルを拾って、右手に握った。

 

「それが友でなくとも――死んでからこんな目に遭うなんて、あまりに不名誉だ。私が止めよう」

 

 もともと、ブルックの影を取り戻すつもりだ。

 それに、死体たちの安眠を取り戻すという目的が増えても、さほど変わらないだろう。

 

「てっきりリンリンみたいな運用してるんだと思ってた。あの野郎。恥を知れ」

 

 ここはトットランドよりよっぽど酷い島だ。

 あそこは住人の同意を得ているし、入れ物も死体なんていう倫理を忘れたようなものではない。

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