あっちへふらふら、こっちへふらふら。
私は不思議なきのみを食べてから、根無し草になった。
場所も時間も関係なく、あちこちに飛ばされる。
それでも平気なのは、帰る場所があるからだ。
降り立ったのはメリー号だ。
私は顔を輝かせたあと――すぐに眉をひそめた。
メリーがあまりにボロボロだったからだ。
空島で見た、メインマストすら失っていたあの姿よりはいくらかマシだが、それでも……。
せめて船大工に直してもらえれば、と顔を上げると、ここがどこだかわかった。
「ウォーターセブン? なんだか久々に来た気がするな」
前に来たときと、さほど時間はズレていなさそうだが。
私の感覚だと、前に来たのは随分昔だ。
「ここにも来たことあんのか」
「楽しくていい街には、誰でも行きたいだろ」
船の守りをしていたゾロが、私のつぶやきに反応した。
私の希望で行きたい場所を決めているわけではないが、名前をきちんと覚えているのは、いい場所だからだ。
「ゾロは行かなかったのか。悪いね、私がもう少し早く来ていれば船番を代わってあげられたのに」
「いついなくなるかわからん奴に見張りは任せられねェ」
至極真っ当なことを言われ、ぐうの音もでなかった。
となると、今私がメリーに居続ける意味はそれほどないわけだが……。
「うーん、昔馴染みに会いたい気もするが、会ったら会ったで……叫ばれて面倒そうだ」
「なんで叫ばれんだよ」
「さあ……ゾロ、私ってハレンチか?」
「はあ?」
ゾロは困惑しながらも、私を上から下まで見た。
私はなんとなくセクシーポーズを取っておいた。
まったく知識の蓄積がなかったので、右手を頭の後ろに添えるだけで終わった。セクシーとは?
「常識的な範囲内じゃねえか」
「あはははは」
「何笑ってんだよ」
「ごめん、真面目に答えてくれたのが面白くて。そうか、常識的な範囲か」
「この船でいちばん肌を見せてねえのはお前だろ」
「まあそれもそうだ。怪我が多いからね」
包帯まみれ、あるいは生傷だらけなのを晒したままだと空元気をしにくいというのもそうだが、なにより見苦しい。
治っていても古傷だらけだからな。
幸いなことに顔にはあまり傷が残っていないのでこの通り晒していられるが、首から下はあんまりだ。
本当に悪魔の実の能力者というのは多種多様で、なかには傷跡や後遺症が酷くなる攻撃方法を持っている者も多いのだ。マグマだの毒液だの毒ガスだの……勘弁してもらいたいねもう。
だから剣士が一周まわって好きなのだ。裂傷は比較的治りやすい。腕のいい剣士がつけた傷なら尚更。
しかし刀を持っているから剣士というわけでもないのがこの海だ。困るよねェ……。
「口説きてえ男でもいんのか」
「え!? あははははははは」
予想外のことを言われたので驚いたのち、笑う。
「いやなに、あまり女性に耐性のない男を刺激したくないというだけだ。私は女性らしくないが、それでも噛みつかれるからな」
「女っぽくねェとは言ってねェだろ」
「お気遣いどうも」
私だって真面目に男装するときはちゃんと胸を潰して腹に詰め物をする。
今はありのままの私であり、誰が見たって女に見えるはずだ。
「サンジも刺激したくないからこれくらいでいいな。彼に冗談を言うと、たまに予想外のリアクションが返ってくるんだけど、あれはなにが悪いと思う?」
「知るか」
「私から香り立つ大人の色香が悪さをしているのかな……」
「だっはっはっは」
「こらァ。あんま笑っちゃいけねェとこだ今のは」
……やはり私は大人の女には見えないのだろうか。
かなりの頻度でガキとか言われるんだが、そいつの口が悪いだけだと思っていた。
お嬢さん、レディ、美人、とかも言われることはあるが、比較にならないほど圧倒的にガキとか子供とか言われているような気がするな。
「はー笑った笑った。おれは寝る」
「おやすみ」
ゾロは甲板で座り腕を組んだ。
私は船べりに寄りかかりながら、これからどうするか考える。
浮足立つような感じがするのだ。私はここに、あまり長くとどまることができないだろう。
だからこそ、ここからどこかに行って、なにかしたり、見たり、すべきなのだろうか。
迷っていると、船に見知らぬ男が乗り込んできた。
敵意がなかったので、私は普通に挨拶をする。
「こんにちは」
「船の査定に来た者じゃ」
「お疲れ様ー。よろしくねー」
見覚えがあるような気がしたのは、男の服装であった。
ガレーラカンパニーで、似たような格好の男を見たことがある。
腰に下げているのこぎりだとか。つまり船大工だ。
それ以外でもどっかで見たことある気がするのは気のせいか?
こういう予感を外すことは、あまりない。
たぶん、彼の子供か親と知り合いであるか、彼がものすごく若いときか、逆にものすごく歳取ったときにでも会ったことがあるのだろうな。
「ちょっと待ててめェ誰だ!!!」
「あははははは!」
ゾロが彼を結構長い間ウソップだと思っていたのが面白くて、腹を抱えて笑った。
――あれ? 私が覚えた彼への既視感も、ウソップと似ているせいだったりしないよな?