ふらふら   作:九条空

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ミホーク/ゾロ/ペローナ

 あっちへふらふら、こっちへふらふら。

 私は不思議なきのみを食べてから、根無し草になった。

 

 場所も時間も関係なく、あちこちに飛ばされる。

 それでも平気なのは、帰る場所があるからだ。

 

 私は普段から誰に対しても敵意なく振舞っている。

 友人をつくるのに必要なことだし、敵から油断を誘うためにも有効だ。

 奴隷商人とか山賊に対してはまったくそんなことはしないが、彼らの方が例外である。

 奴隷を扱うような人間に嘘でも愛想良くするのは耐えがたくできないのだ。

 

 しかし、動物に対しては逆のスタンスだ。

 動物というのは、こちらが弱そうに振る舞うとすぐに舐めてくる。

 食料にするなら、襲ってきたのを返り討ちにするのは有効な手段だ。

 だが、食べもしないのに殺しまくっては、生態系も崩れるし良いことではない。

 

 だから殺すような事態になる前に釘を刺しておかねばならないのだ。

 

 その動物は鎧を着て、手には槍や剣を持っていた。

 もはや人間に近い知能があるのだろう。人を見て真似たのが戦いとは悲しいことだ。

 私に切っ先を向け、威嚇している。今にもとびかかって襲ってきそうだ。

 息を軽く吸って、彼らに軽く覇気を飛ばした。

 

()()

 

 猿のような生き物は、それで静かになった。

 呼吸すら止めたほどである。

 なるほど、人の言葉を理解できる程度には賢いらしい。

 

「身の程はわかったな?」

 

 猿たちは武器を放りだして、いそいそと何かを作ったかと思えば――白旗を上げてきた。

 すごい。もう人じゃん。

 

「ならよし」

 

 むやみな戦闘は避けたいのだ。

 なにしろ私は今、いつも通り死にかけていて、死にかけの中でも結構やばい方の死にかけであったので。

 

 見聞色にひっかかったので振り返ると、そこには見覚えのあるゴーストがいた。

 気の抜ける顔をした平たいそれは、私に気がついたのか、ひょろひょろと飛んで逃げた。

 

「あれ追いかけるの手伝ってくれる?」

 

 ゴーストを指さして猿に尋ねると、彼らの中でも特にガタイの良い猿が、私を肩に乗せてくれた。

 死にかけているので戦いたくはないが、相手が私の友を墓から掘り起こしたヤツの仲間だというのなら、それは無理をおしてでもやらなくてはならない。

 

 森を抜けると戦場があった。

 しかしそこは随分前の戦場で、今は遺体もなければ戦いの残骸もほとんどなく、死の気配だけが漂っている。

 次に進めば、大量の墓だ。この国でなにがあったのかは想像に難くない。

 

 墓を抜けると、城にたどり着いた。

 追いかけていたゴーストは城の壁をすり抜けて、中へ入っていく。

 

 この中か。ふと、馴染みの気配もすることに気づいた。

 私は驚いて、つい肩に乗せてもらっている猿の方を見た。

 猿は突然見られて驚いたのか、冷や汗をかきながらきょろきょろと左右を見渡した。

 感心する。動作はすっかり人間だ。

 私が下を指さすと、ジェスチャーを理解した猿は私をそっと抱えて地面に降ろしてくれた。

 

「ありがとね」

「キャホ」

 

 ……意外と変な鳴き声だった。

 

 ノックをしても意味がないだろうと、私は城の扉を勝手に開けた。

 中に入れば、ミホークが椅子に座って新聞を読んでいる。

 同じ場所で筋トレをしていたゾロが「お前、なんでここ……」と驚くのを遮って、私も驚きの声を上げた。

 

「2人とも仲良くなったのか!?」

「仲良く……」

 

 ミホークとゾロは、お互いが微妙な表情で顔を見合せた。

 うん、仲良しというには恥ずかしいのだろう。男の友情というやつだ。私も野暮は言うまい。

 にこにこと、笑顔になってしまうのだけは止められないが。

 

「今日はいい日だね、素敵だね。あ〜好きな人と好きな人が仲良くしてるのを見ると気分がいいな。きみもそう思わない?」

「え~~~ッ!? 私に聞いてんのか!?」

「そうだよ」

 

 なにか変なことを聞いただろうか。

 部屋の隅っこでうずくまっていたペローナを見ると、彼女はおずおずと、しかしふよふよと浮き始めた。

 もしかして私から隠れていたつもりだったのだろうか。

 まあ、気分がいいから細かいことは無視できる。

 

「ミホーク、今ならきみとズタズタになるまで斬りあってもいいよ」

「気分いいときにやることがそれか!?」

「おい。おれとの約束はどうなった」

 

 私の提案に引いているペローナと、不満そうなゾロである。

 

「はー? きみとの約束は無傷の時の手合わせだろ。傷はあるだろどう見ても――ほら見ろここ、サカズキに溶かされたんだからな、マジで治んねんだぞ火傷は! 刀傷のほうがよっぽど治りやすくて好きなんだ私は! でも痛えのは全部嫌いだ! ふざけんな!」

「急にキレた!?」

 

 私は今、半死半生だ。ミホークが言う空元気状態だ。

 本能はどこか安心安全な場所を求めていて、それでなぜ湿気ばかりで、妙に血の気の多い猿がいる、こんな場所に飛ばされてきたのかと思えば、何も不思議はなかった。

 信頼できる友と仲間がいるからだ。急にアドレナリンが切れそうになる。

 

「……はー。疲れた。寝ていい?」

「突拍子もねえなお前は!?」

「2階の客室が空いている」

「ありがとー」

「なんで普通に受け入れてんだよお前もォ!」

 

 ミホークは大好きな友達だが、唯一の欠点があるとすれば、あまりつっこんでくれないところだ。

 その欠点を補ってくれるいい娘を見つけたのかもしれない。

 

「友を侮辱されたから、ゲッコー・モリアの関係者は全員たたきつぶしてやろうと思っていたが、見逃してもいいくらいにきみは面白いね」

「ホロロロロッ!?」

 

 ペローナは引き笑いをした。

 私は廊下に出るためのドアノブに手をかけて、笑顔で言った。

 

「殺すのは最後にしてやろう。おやすみ」

「どっちみち殺されるゥーッ!!」

 

 それからどれほど寝ていたのか。

 起きた私はミホークのところに行って、彼の読む新聞の日付が2日進んでいたことから、丸2日眠りこけていたことを知った。

 そして起きてもまだペローナはこの島にいて、ミホークの陰に隠れていたものだから、あまりのいい度胸に私は笑った。

 

「きみを殺すにはミホークを殺さなきゃいけないってこと?」

「そそそそそそうだぞ!」

「知らん。勝手にやれ」

「見捨てられるまでが早いね」

「うわーん! モリア様ァー!」

 

 ついに泣き始めてしまったので、私は彼女をいじめるのをやめた。

 

「今すぐどうこうしないって。私の傷見た? ホント歩くのもしんどいんだからな。見てないなら見る? 傷」

「なんでそんな傷見せびらかしたがるんだよ……」

「あんまり趣味悪い傷だからなんか見せたくて……」

 

 包帯に指をかけると、ミホークが新聞から顔を上げた。

 

「今朝巻きなおしたばかりだ。解くな」

「ごめん。ありがと」

 

 寝ていた2日、私はミホークに看病されていたらしい。

 やっぱり彼は面倒見がいい。だからゾロもここにいるのだろう。

 

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