あっちへふらふら、こっちへふらふら。
私は不思議なきのみを食べてから、根無し草になった。
場所も時間も関係なく、あちこちに飛ばされる。
それでも平気なのは、帰る場所があるからだ。
バラティエの席に案内されて、美味しい食事を皆でとる。
噂を聞くに、ルフィは罰として一年間のタダ働きを命じられたようだ。
我々はそれを聞いて――大爆笑である。
「雑用て、アハハ!」
「船の旗ァ描きなおすか」
「ゼフ……丸くなったなァ……それくらいで許してくれるんだ……」
相変わらず腕についたままの海楼石で、力が出ないので、控えめに微笑むくらいしかできない。
というか正直、食卓についているだけで精いっぱいだ。
「昔の知り合いってんなら、お前が言ったらなんとかならねえのか?」
「はァ……今は、弁償するお金も、持ってないしな……」
私はポケットをひっくり返して、ぱらぱらと砂だけが出てくるのを確認した。
「しょうがない……ほんとに、1年働かなくちゃ……いけなく、なりそうなら。料理長のとこに……私が腕一本落として、謝ってくるよ」
「やりすぎだろ」
私が腕一本斬ってでも、この手錠を外したいだけだ。
この不誠実さではゼフも許してくれまい。
ウソップが私に聞く。
「そこまでルフィが大事なのか?」
「うん。その理由は……きみらなら……もう、理解できるんじゃない?」
皆で顔を見合わせて、笑う。
それ以上は、野暮だった。
「はー……飯食っても死にそう……ちょっと寝る……」
「お前のそれは何の病気だ?」
「うつらないから安心しなー……」
危険があるとすれば、かろうじてルフィだけだ。手錠に触れさせなければ問題ない。
私はテーブルにうつぶせになって、少しだけ目を瞑った。
皆の話し声が耳に入っているような、入っていないような。
うたたねの状態で、しばらく、息をすることだけに集中していた。
……
ふと、馴染みの気配がしたので、私は立ち上がった。
……が、海楼石ですっかり弱っていたので、椅子から転がり落ちてしまった。
椅子やテーブルを支えにしながらなんとか体を起こし、甲板へのドアに向かう。
「おい、あぶねえぞそんな体で……!」
「いいんだ……平気平気……」
「平気には見えねーよッ!」
「大丈夫大丈夫……あ」
どんがらがっしゃんすっころんで、転がりながら外に放り出された。
「ほらみたことかーッ!」と私を心配するコックの声が聞こえる。
体に力が入らないので、まったく受け身も取れなかった。ちゃんと全身痛い。
「なにをしている?」
「みほーく」
呆れた顔で、棺船から私を見下ろしているのは、鷹の目のミホークである。
海楼石でこんなことになっていなければ、私も彼に呆れていたところだ。
ヒマつぶしでグランドラインに入ったばかりの船いっぱい沈めるなよ、かわいそうだろ。
それもグランドラインから東の海まで追いかけてくるなんて、ヒマにもほどがある。
「でっかい鳥……見なかった……? 海楼石の……手錠のカギ……飲み込んで、飛んでったんだけど……」
しまったな。あのときすでに海楼石で力が抜けていたため、手錠のカギを奪って飛んで行った鳥がどんな姿をしていたか記憶があいまいである。
ジョニーかヨサクなら覚えているだろうか。ヨサクも死にかけてたから覚えてないかな。
ジョニーもサングラスかけてるから色わかんなかったりして……わはは。
「見てないなら……ちょっと、斬ってくれないか……腕ごとでいいから……」
手錠のかかった腕を、力なく上げる。
ミホークはたまに使う短剣ではなく、背中に背負う黒刀を抜いた。
目を瞑って斬られるのを待ったが、納刀の音が聞こえても、私の腕はくっついたままだった。
手錠だけが私の腕から落ちる。私は途端にはっきりとした意識で体を起こし、ミホークを見た。
「きみ、海楼石斬れるんだ。さすが大剣豪」
「粗悪品だ。継ぎ目はただの鉄」
「なるほど」
まあ鉄なら当然斬れるか。私も斬れるし。
余裕がなくて、手錠の組成など確かめてもいなかった。
だったら何度か殴りつけていたら壊れていたかもしれない。
諦めない心って大事だな……次からは忘れないようにしよう。
「あー、久しぶりに死ぬかと思ったー! ガープと殴り合いの喧嘩したときくらい!!」
ルフィの教育方針について、意見の相違でぶん殴り合いになった時はマジで死ぬかと思った。
私は万歳して喜んだ。
「ありがとミホーク! ついでにもう一個頼みたいことが――」
なんにせよ彼は恩人だ。腕も救ってもらった。
本来ならまずお礼をしなければならないがその前に、ゾロがきみと戦いたがってたから一戦受けてくれないか、と言いかけたところで――私は別の土地を踏んでいた。
……あー! 海楼石で能力が封じられていた反動で、外してすぐ別の場所に飛ばされた!
あまり海楼石に触れたことがなかったので知らなかったが、こんなデメリットがあるとは。
どこにも行かなくて済むのなら、たとえ体に力が入らなくなっても、海楼石を身に着けているのはアリかと思ったのだが……外した途端こんなことになるのなら難しいな。海楼石を外したくなるときはその場で戦わねばならなくなるときだろうに、即座に飛ばされてしまうのなら、意味がない。
老後の選択肢としてはありか? 海楼石でふにゃふにゃになりながら、適当な山奥に小屋でも建てて、静かに過ごすという……私に老後があるのかは定かではない。
ミホークに言ったお礼はきちんと届いていただろうか。
てかすごい人数に見られながら姿を消してしまった気がするな。これ後からフォローできるんだろうか。未来の私、頑張ってくれ。