ふらふら   作:九条空

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アイスバーグ

 あっちへふらふら、こっちへふらふら。

 私は不思議なきのみを食べてから、根無し草になった。

 

 場所も時間も関係なく、あちこちに飛ばされる。

 それでも平気なのは、帰る場所があるからだ。

 

 小綺麗な執務室だ。

 

 窓の外は暗く、日が落ちてしばらく時間が経っているだろう。

 執務机には一人の男が座っており、私が突如としてこの場に現れたのを、たぶんしっかり見られている。

 困った。不法侵入だし、なにより。

 

「しまった、アポがない」

「ンマー、もう退勤後だ。構わねえよ」

 

 退勤後という割に仕事部屋にいるのは、それはそれで心配だな。

 私はアイスバーグの顔を見て、今の時間軸を考えた。

 カリファが傍にいないというのなら、麦わら海賊団と会った後だろうか。

 

「古い友人が訪ねてきたんだ。予定があっても全部キャンセルする」

「真面目に仕事しな?」

 

 ()()と言ったので、彼は私のことを覚えているようだ。

 うーん、こないだパウリー経由で会った時も、特に言及されなかっただけで、気づかれてはいたのだろうか。

 

 私は彼を大企業の社長だと思っていたし、それは間違っていないが、実は市長も兼任しているらしい。

 間違いなくウォーターセブンのトップで、この街は最早彼の独擅場だ。

 アイスバーグが働かねば困る人は多いだろう。

 名残惜しくとも、ある程度のところで彼の元を離れなければな。夜更かしで明日に響いては申し訳ない。

 

 しかしアイスバーグとの話は弾んだ。

 トムズワーカーズ時代の昔話、麦わら海賊団がウォーターセブンで暴れた時の話、サウザンド・サニーの最近の調子。

 そろそろお茶が欲しいなと思ってきた頃に、私はふとアイスバーグに聞いた。

 

「やたらフランキーのことばかり聞くね。そんなに仲良しだったんだ」

 

 たしかに彼もウォーターセブンに住んで長かったようだし、表のトップと裏の番長で繋がりがあったのかな。

 疑問に思って聞いたのだが、アイスバーグは眉をひそめた。

 

「ンマー……もしかして本当に気づいていないのか? あいつがカティ・フラムだってことに」

「ふーん……え!?」

 

 私は驚いて、驚きすぎてもう一回驚いた。

 

「え!?」

「あいつも言わねえのか」

 

 言われたことがない。

 しかし、私は時系列を無視して存在しているため、これからの未来に言われる可能性はある。

 トムさんトムさんと背中を追いかけ、そのくせトムの教えを無視して勝手に戦艦を作っていた頃の彼を思い出す。

 ……髪色くらいしか同じじゃなくないか。彼普段サングラスかけてるから顔つきが分かりにくいというのはあるけど……いやあんな顎割れてたっけ!?

 

「あんなにかわいかったのに、あんな変態に!?」

「ンマー、あの頃からかわいくはなかった」

「かわいかっただろ! きみも!」

「おれがかわいいなら、あいつもかわいいだろうな」

「そうだよ! でも今のフランキーは全然かわいくないけど!?」

「時の流れってのは恐ろしいもんだ」

 

 と……時の流れで顎が割れるのか……!?

 しかしフランキーは改造人間なので、理知外のことが起きるか、と納得もできる。

 彼がそうだったのか。愛称が同じであることには当然気づいていたが、同一人物とは思わなかった――骨格が違いすぎて。

 ウォーターセブンにいるのに、どうにも会えないなと思っていたのだ。

 死んだわけでなくてよかった。本当に。

 

「えー。アイスバーグは未だにかわいげがあるのにね」

「ンマー……やっぱり目がおかしいぞ」

 

 やっぱりってなんだよ。

 

「昔を知っていると、大人になろうがいつまでもかわいい坊やに見えるものだ。そう考えるとフランキーもかわいく思えてきたかも」

 

 そうか。見る目が変わったな。

 次会ったらもう少しかわいがろう。

 

「あのフランキーが立派になって……」

「ンマー、それはおれも思う」

 

 2人してしみじみとフランキーの手配書を見つめ、昔を思い出した。

 そして、私の知っている手配書から写真が変わっていることに気がつく。

 鉄人フランキー、そこに映る写真は。

 

「完全ロボになっとる! おもかげねーじゃん!!」

「一緒にいるんじゃなかったのか」

「あれ!? ここまでロボじゃなかった気がするけど!? 気づかなかっただけで、現実はこうだったのか!?」

 

 ……やっぱり目がおかしいのか、私は!?

 

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