あっちへふらふら、こっちへふらふら。
私は不思議なきのみを食べてから、根無し草になった。
場所も時間も関係なく、あちこちに飛ばされる。
それでも平気なのは、帰る場所があるからだ。
「いいかお前ら、アラバスタに着いたら荷物を持って、すぐに国王軍の格好で路地を進むんだ……」
内緒話を聞くのはいつでも気まずいが、それが悪いことの相談だと、聞いてしまってもまあいっかと思う。
アラバスタに国王軍の変装をして潜入したい組織は一種類しか知らないな。
私はマストからひょいと顔を出し、向こう側にいた男を見た。
「あ、バロックワークスだ」
「うおおおお前いつの間に船にィ!? そして秘密結社であるおれたちの名前をなぜ!?」
……そういえばバロックワークスって秘密結社なんだったっけ。
かなり目立っているから、時折忘れてしまうな。
「どこに向かって何運んでるの、おーしえて」
「バカヤロウッ! いくらおれたちがビリオンズという末端であろうが、ボスからの命令は絶対! 口を割ったりなんかしねえ!」
「へー、きみたちビリオンズなんだー」
「あーッ! カマかけやがったなァ!?」
いや、かけてない。勝手に君たちが身分を名乗っただけだ。私は一本、指を立てた。
「バロックワークスにおいて、命令違反を処罰するのはアンラッキーズ」
「お前……バロックワークスに関して、かなり詳しいようだな……」
「こないだボッコボコにしてきたからね、アンラッキーズを。だからきみたちがちょっと命令違反をして、私に内緒の話をしてくれたからって、処罰はないだろう。その役は今不在だ」
「なんだと!?」
幹部を倒した話をすれば、ビリオンズの一人はさすがに動揺した。
「だが、ボスが生きている限り、おれたちは……」
「クロコダイルならもうすぐ捕まるけどな」
「英雄クロコダイルが? 何の話を……」
「あ、そっか。バロックワークスのボスがクロコダイルだとはご存じない?」
そりゃ秘密結社なんだから、ボスが誰かも知らなければ、誰が構成員なのかも知らないのだったな。
私が頷いていれば、ビリオンズの男は驚愕し、冷や汗を大量に流した。
「な、なんつー秘密を言ってくれちゃってんだ!? それが真実なら、知ったおれたちは殺される!」
「だからアンラッキーズはボコボコだし、クロコダイルもボコボコになってる予定なんだけど……」
今のうちにすべての悪行から足を洗って、アラバスタから遠く離れたところに逃げるべきだ。
そういう助言をしようかと思ったのだが、やめた。
「ま、海軍の方が許してくれないか」
私の今乗る船に、飛び乗ってくる男が一人。
馴染みの顔だったので手を振って迎えたが無視された。
「海上だぞ!? どうやって……!」
確かに、と思ってスモーカーが飛び出してきた海上を見れば、そこには水上バイクが浮かんでいた。
能力が動力源になるタイプの専用機だ。かっこいい。
瞬く間にビリオンズは煙によって捕縛され、船のマストに縛り付けられた。
電伝虫で海軍に連絡を取るスモーカーを見ながら言う。
「きみの能力って平和で羨ましいな」
「平和だ?」
「不殺での捕縛」
羨ましい悪魔の実の能力だと思う。私に使いこなせるとは思えないが。
モクモクの実の煙人間になったら煙草を吸わなきゃ力が出ないんだろうか?
それとも煙人間になると煙が大好きになるということなのか。マゼランのことを考えると後者かな。
いっぱい煙が出るし、やっぱりキャンプファイヤーも好きなのだろうか、とスモーカーを見た。
「で、おれはお前をダンスパウダーの運搬で現行犯逮捕すりゃいいのか」
「……そうなるのか!? 確かにヤバいもの積んでる船に乗ってるわァ!」
バロックワークスの仲間でないと証明する方法が、何一つ存在しない。
逃げるか、戦うかしなければならないのかと視線をうろうろさせたが、スモーカーは十手を振り上げることもなく、ゆっくり煙を吐き出した。
「冗談だ」
「冗談で本当に良かった。結構ひやひやしたぞ……今、捕まっても全然おかしくなかったからね……」
「アラバスタの件にも手を出してやがんのか」
「
今この時間軸で言うと……アラバスタでは、反乱軍と国王軍がぶつかりあっているかもしれない。
私がいてもあまり役に立てないだろう。そちらにスモーカーがいてくれた方が良かったのに。
彼の誰も殺さずに捕縛する能力は、海兵の中でも抜きんでている。
どちらも死んでほしくない戦いとなっては尚更。あとはヒナちゃんとかもいてくれたら最高。
「クロコダイルの暗躍にいつ気がついた」
「難しいな。そんなもんは
ミホークくらいだな、面倒を嫌ってちゃんと面倒から逃げられてる男。
しかし彼は面倒を嫌う割に面倒見が良く、戦いを求める割に平穏が好きなので、ミホークのバランス感覚が素晴らしいのだろう。
「ね、きみアラバスタに戻る? 乗せてってくれない?」
「一人乗りだぞ」
「そこはさ、羽のように軽いから平気だぜ、とか言うとこじゃない?」
自分で言っておいてなんだが、スモーカーにそんなこと言われたら失神するかも。
先の発想はサンジに毒されすぎているかもしれない。キザって慣れるものなのだな。
スモーカーは私の首根っこを掴んで持ち上げた。
急に猫みたいに扱われ、足をぷらぷらさせながら、さすがの私も困惑する。
「ま、ガキみてェなもんか……」
「体重を確認したのか? なあ?」
バイクの積載量とかがあるのかもしれないか、それにしたって確認の方法があるだろう。
結局乗せてくれたんだが、喜んでいいのかわからない。
エースのストライカーよりはるかに乗り心地が良かったが、スモーカーに言ったら海賊と仲良くしてんじゃねェと怒られるだろうし、エースに言ったら拗ねられそうだった。
ストライカーって単純に暑い。