あっちへふらふら、こっちへふらふら。
私は不思議なきのみを食べてから、根無し草になった。
場所も時間も関係なく、あちこちに飛ばされる。
それでも平気なのは、帰る場所があるからだ。
ナミが泣いていた。
私は心がかき乱されて、一瞬激高しかけるが、なんとか平静をたもった。
「わ、私……!」
「もう大丈夫だよ。全部何とかしてあげる。心配しないで」
麦わら帽子を被ったナミの頭をぽんと叩いてから、私は微笑んだ。
正直――かなりの空元気なので、それが彼女にもわかったのだろう。
ナミの目からこぼれる涙を止めることはできなかった。
で、あれば。言葉ではなく、行動で示すしかあるまい。
「悪い、遅刻だ」
私は速足に、アーロンパークに足を踏み入れた。
遅れてしまったが、まだ戦闘は始まっていないようで、ギリギリ間に合ったと言えるだろう。
「あ、お前!? どこ行ってたんだよ! もちろんお前がいなくともキャプテン・ウソップが事態を華麗に収拾していたが!?」
「さすがだウソップ。なにか石とかないか、硬ければ何でもいいが」
「ねじならあるぞ」
「よし来た」
私はねじを親指と人差し指の間に挟んで、ぐっと力を入れて――ついでにちょっと覇気も加えて――弾いた。
「ぐあああ!」
「なんだ!?」
私が放ったねじは、直線状にいた2人の魚人を撃ち抜いた。
高速で飛んでいったねじに当たれば、銃で撃たれたのと同じようなものだ――つまり、よほど当たり所が悪くなければ死なない。
私は魚人の方を見ながら、ウソップに対して手のひらを出した。
「もっとあるか?」
「……いや何した!?」
「なに、戦うにしてもあまり動きたくなくてね」
「よく見たらお前包帯血まみれじゃねえかァーッ!?」
包帯ってなんで白いんだろう。出血したときに丸わかりである。
出血したときわかるように白いのか。解決した。
私はこうした傷を隠すため、普段まったく露出のない服を着ている。今日だってそうだ。
しかし先ほど飛ばされる前にいた場所で暴れてきたので、少々服は破けているし、服の下の包帯も緩んで、解けた包帯の一部引きずっているのだ。
その包帯が笑ってしまうくらい真っ赤だ。もちろん私の血で。
もうそろそろ液体を吸わなくなりそうなくらいたぷたぷになった包帯を見て、私は言った。
「さっき傷が開いた、思い切り。この村に医者はいるかな。早く診てもらうには彼らをなんとかしなきゃいけないし、私より重傷者を出してもいけない。これは大変だぜ……」
ウソップからじゃらじゃらとガラクタを受け取りながら、私はため息をついた。
「魚人を相手にするのは得意だよ。人間より丈夫だからな……」
丈夫な分、うっかりで殺さなくて済むのだ。
彼らのテリトリーは海中だが、私はそのテリトリーに連れていかれた時点で確殺されるので、彼らのちゃんとした強さというやつは知らない。
なんかやたら丈夫で、筋力もある気がするな……という印象しか持っていない。
「いや! おれがやる!」
「いいけど……おお!?」
ルフィがやる気満々、というか怒り心頭と言った様子だったので、見守った。
その結果……ルフィは地面に両足を突き刺して、そこを支点に回転し、ゴムの力で元に戻る際に生まれた回転で、掴んだ海牛モームを振り回して魚人を弾き飛ばす『ゴムゴムの風車』を見せてくれたが――地面に突き刺した両足が抜けなくなった。
あまりの大きな隙であった。アーロンが魚人の膂力で地面ごとルフィを持ち上げると、海に放り投げてしまった。そのまま沈んでいく。
船長の生死のかかった大ピンチだというのに、私はつい、ぽかんと事態を見守ってしまったのである。
「ルフィ……ちょっとおばかすぎるかも……」
私は口元を思わず手で覆ってしまった。
こんな大事な場面で……でも新しい技を試してみたかったのか……アイディアは良かった……。
私は振り返って、ゾロ、サンジ、ウソップを見た。
「一身上の都合で私は海に入れないので救出は誰かに任せていいか」
「一身上の都合ってなんだよ。悪魔の実の能力者なだけだろ」
「はあ!? 違うが!?」
私はゾロに言い返したが、声はちょっとひっくり返った。
「普通にカナヅチなだけでーす!!」
「今更無茶だぞお前」
「んなことあるかー! まだこの設定で戦える!」
「だったら設定って言うな」
なん……普通にバレているとは思わなかったのでめちゃくちゃ動揺してしまったじゃないか。
え!? こんな序盤でバレてた!? グランドライン突入前!?
「よしわかった。じゃあ私が全員足止めしておくから全員でルフィ助けてきてくれ」
「死にかけのくせしてか」
「きみもだろが! ……その傷で海入ったら死ぬな! よしじゃああのタコの魚人はゾロに任せた、たぶん剣士っぽい、おそらく」
ハチは剣士だったはずだ、一応。
武器……はウソップから借りたねじや釘でいいか。
しかし、サンジが私の前に出た。
「天使ちゃんはそこで安静にしていてくれ」
「天使ィ?」
サンジの呼び名が初耳だったらしいゾロがぎょっとした。
だよね、変だよね。私はゾロに説明する。
「なんか、天使なんだって」
「おれの心を射抜いたキューピッドちゃん♡ でも可だ。なんだか知らねェが天使ちゃんを悪魔扱いしてんじゃねェぞ」
「わかった。アホコック」
「だァれがアホコックだ!」
サンジは加入した直後だと思うのだが、もうすっかりゾロと仲良しであった。