ふらふら   作:九条空

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アーロン/麦わら海賊団

 あっちへふらふら、こっちへふらふら。

 私は不思議なきのみを食べてから、根無し草になった。

 

 場所も時間も関係なく、あちこちに飛ばされる。

 それでも平気なのは、帰る場所があるからだ。

 

 ミホークに斬られてから瀕死のゾロはなんとかハチを倒した。

 サンジも魚人空手を扱うクロオビを倒したし、ウソップも逃げたかと思いきや、しっかりチュウを倒して戻ってきた。

 

「よし、時間稼ぎ交代だ。この私にまかせろー」

 

 ババン! と効果音をつけて、私は自分の顔を親指で指さした。

 ふざけた登場だが、アーロンはしっかりと、私の顔を見た。

 

「てめェ……おれの見間違いかと思ったが……」

「ふ。見間違いじゃないか? 私はきみと喋ったことないぜ」

 

 ……仕方ない。船の皆にどう思われるかは一旦置こう。

 今結構限界で、タイヨウの海賊団の元一員とタイマン張るにはしんどいのだ。

 私は腕を組んで、アーロンを見た。

 

「人間不信のフィッシャー・タイガーだって、私とは喋ったのにな」

「……! やはりあの時の女!」

 

 よし、食いついた。……釣りみたいだな。

 かなりの死にかけなので、できる限り戦いたくないのだ。

 あんまり言いたくないことを言ってしまってでさえ、彼とは話し合いで時間を稼ぎたい。

 

「ジンベエは元気だよ。ただ、ジンベエの方は、きみがこんなに元気なことを知らないだろうな」

「てめェ、七武海とつながってやがるのか?」

「まあ友達はいるが。敵もいるし、敵もいるし……うん。ちょうど半分くらいだ」

 

 七武海は途中で入れ替わるが、この頃のメンバーなら……。

 クロコダイル、ゲッコー・モリア、ドフラミンゴ。

 ミホーク、くま、ハンコック、ジンベエ。

 

「半分くらいは倒して、半分くらいは味方につける。予定」

「シャーッハハハ! 最弱の海出身の海賊が、七武海に入るつもりか」

「いや。なるなら四皇」

 

 というかなる。

 

「海軍は苦手だから、ルフィが七武海って名前のかっこよさに惚れたとしても止めるかな。シャンクスと一緒だよって言った方が釣れるだろうし、うん、四皇」

「あまりにでけェ口を叩きやがるから、開いた口もふさがらねェ……」

「ギザギザの歯が見えてキュートだよ」

 

 ――滑った。

 

「お、お前……あんな魚人がタイプなのか……?」

「そんなやつよりおれにしてくれー!」

「大丈夫だ、全然タイプじゃない。今のは超滑ったギャグ」

「このタイミングで言うことかよ……」

 

 あまりに滑ったので、まずギャグであること、滑ったことをドン引きしかけたウソップとゾロ、アーロンの恋敵になろうとしたサンジに説明しなければならなくなった。

 苦行過ぎる。これも私の傷があまりに深いから……だから冗談がつまらなくなっているんだ……。

 そう思わないと泣いてしまいそうである。

 

「私は魚人より人魚の方がタイプだ!」

「いや知らねェよ」

「きみが聞いたから答えたんじゃん! 純情をもてあそぶなよウソップ!」

「おれのせいかァ!?」

 

 そうして、涙をぬぐってやってきたナミを、アーロンは「お前は永久にウチの測量士だ」と脅した。

 しかしナミはアーロンに生かされるつもりはもうないようで、村人に「一緒に死んで!」と言った。

 村の人たちを生かすために、8年間一人で戦い続けたナミの覚悟を、私も受け取った。

 

 ふー。……腹立つわ。

 皆にここまで頑張ってもらったのだから、私も仕事をしなければ。

 遠くで噴水のように水しぶきが上がる――ルフィだ。

 サンジに合図をして、海中に助けに行ってもらった。

 そしてアーロンも、ようやく本気になったようだ。

 

「バカ話は終わりだ……()()()を知るお前を生かしちゃおけねえ」

「私としてもジンベエが可哀想だから、きみはここでちゃんと潰すとも」

「シャハハッ、その傷で何ができる?」

「この傷でもきみと心中くらいできるけど」

 

 私はハチが落としていった刀を一本拾った。……重! え!? 100kgくらいある!?

 魚人族の膂力を無駄遣いしている気がするな。これを6本持っているのは気が知れない。

 鞘はないので、抜身のまま刀を腰に据える。

 重い刀は私と相性が悪いが、()()()()の理由で弱くなるほど、伊達に剣を握ってきてはいない。

 

「袈裟懸け」

 

 下から上へ、アーロンの右腰から左肩を切り裂く剣筋で抜刀した。

 プールの水から、地面、後ろの塀、もっと遠くのヤシの木までを切り裂いたが、アーロンは横に飛びずさって私の剣を回避した。

 私は狙いが大雑把なので、要らんもんは斬るし、斬りたいものはなかなか斬れない。

 アーロンは悪態をつく。

 

「15年前からまったく変わってねえバケモノが!」

 

 それ以上は年齢バレのリスクがあるので、黙ってほしいな。

 次の一撃は、剣を真横に構える。狙うはアーロンのちょうど腰のあたり。

 しゃがんでも飛んでも微妙に避けにくい高さ――このくらいかな。

 

「一文字」

 

 真横に伸びた斬撃は、アーロンの背後にあったヤシの木や雑草たちを、再び大量に伐採してしまった。

 しまった、後ろをアーロンパークにしていたらついでに斬れたのに。

 アーロンは一瞬、プールに飛び込んで私の一閃を避けた。なるほどその手が。

 失血で頭が回っていないので許してほしい。

 プールから上がったアーロンは、余裕のようだった。

 

「シャハハハッ、どうした? そんなのろまな剣じゃおれは殺せねえぞ」

「ま、これ以上は船長に任せる――」

 

 そろそろ時間稼ぎも終わりだ。私はここでの役目を十分果たしただろう。

 ちょっと休みたい、さすがに。

 にゅっと伸びてきたゴムの手が、私の腰のあたりを掴んだ。

 

「は?」

「交替だ!」

「おいまさか……ちょっと……飛ばす意味ないだろーッ!?」

 

 コラァーッ! と叫びながら、私はルフィの腕で掴まれ、後方に吹っ飛ばされた。

 し、死にかけてんのに、なにすんだ、びっくりするわ。海に落ちたら死ぬんだけど!

 

 私はギリギリ海に落ちない場所で着地し、地面に転がった。

 ルフィの勝利を疑うことはないが、できる限り早く勝ってもらえると助かる。

 失血がね……ちょっとやばくて……。

 

 結局私はこの戦いで重傷者を出さなかったが、ゾロが既に私より重傷だったので、医者を先に譲った。

 そうだった、ミホークに斬られているタイミングだった。おのれミホーク。

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