あっちへふらふら、こっちへふらふら。
私は不思議なきのみを食べてから、根無し草になった。
場所も時間も関係なく、あちこちに飛ばされる。
それでも平気なのは、帰る場所があるからだ。
穏やかな気候だ。
春島か秋島……と思ったが、そもそもグランドラインではないかもしれない。
平和そうな雰囲気があるのだ。
だが、そう思ったのは勘違いかもしれない。
街の住民たちが騒然としており、ワアワアと声を上げながらそこら中を走っていたので、私はそのうちの1人を捕まえて話を聞いた。
「こんな時に旅人か!? 災難だったな……ともかく逃げろ! 海岸から海賊が来てるんだ!」
「へえ」
その一言で、この街が良い場所であることがわかる。
自分たちが大変だというのに、他の人を気遣う良心を持っている。
だから私は、まっすぐに海岸へと向かったのだ。その海賊とやらの顔を拝むために。
「おや、バギーじゃん。久しぶり」
「お……お前はァ!?」
海岸からやってくる海賊船は見覚えがなかったが、旗のマークからどうにも知り合いのような気がしたので、先制攻撃はせずに待っていたのだ。
上陸してきた船からは案の定知り合いが下りてきたため、私の判断は間違っていなかった。
やたらデカいリアクションを取られたので、驚いてパチパチ瞬きをして返す。
「なんでこの海にいやがる!?」
「なんでと言われてもな。いたらまずいのか?」
「ハデにまずいだろうが!」
まずかった。なぜ。
「おれ様がどうして、わざわざグランドラインから最弱の海と呼ばれるイーストブルーにやってきたと思う!?」
「どうしてー? 教えてバギー」
「グランドラインにゃバカみてェに強い奴らがうようよいるからだッ!」
そうだね、と私は彼の話を聞いて頷いた。
ロジャーの船に乗っていた彼は、それをよくよく思い知っているだろう。
「だからおれ様がハデに暴れられる場所を探してここまで来た……そこにお前みたいなのがいたら、思う存分暴れらんねェだろうが!」
「あっはっは」
つまり私のことを、いわゆる最弱の海にいるには相応しくない強者だと、そう思っていてくれているということだろうか。
――この海シャンクスとかもよくいるけどな。彼はそれを知らないのだろうか。
「今のきみを知らないけど、バギー。私に怒られるようなことしてるんだ?」
「ぎ、ギクゥーッ!」
母親に怒られる子供のような顔だった。
私は腰に手を当てて、バギーの顔を見る。
「当ててみようか。きみは財宝が好きだから、海軍基地が近くにない村や街を襲って金品を奪ったり」
「ギギクゥーッ!」
「派手なことが好きだから、昔開発してた爆発力の高い大砲をいろんなところに撃ったり」
「ギギギッギクゥーッ!」
「正解?」
滂沱のごとく冷や汗を流す彼を見るに、やっていたらしい。
「今ここでそういうことをしていたら、そりゃあ私もきみをボコボコにしていただろうけれど、現場を押さえたわけじゃないからね」
「お……おう! この街にゃ着いたばかりでまだなんもやってねえ!」
「まだ、ねえ」
「これからも何もやりませェん!」
私がこのタイミングでこの島にやってきたのは幸運だったのかもしれない。
昔馴染みをボコボコにするのは心が痛む。やんちゃする方が悪いといってもだ。
「なら私に言えることはひとつだけだ。仲間は大事にしなよ、バギー」
いつまでも彼のそばにいて、悪いことを叱ったり、強いひとから守ってやったりすることはできない。
別に彼もそれを望んでいるわけではないだろうし。
若い頃を知っていると、いつまでも子供に思えてしまう。
バギーもシャンクスも、この時代ならいい大人なんだよな……時の流れとはおそろしいものだ。
私には同じそれが流れない。歳を取る彼らを羨ましく思うこともある。