あっちへふらふら、こっちへふらふら。
私は不思議なきのみを食べてから、根無し草になった。
場所も時間も関係なく、あちこちに飛ばされる。
それでも平気なのは、帰る場所があるからだ。
「お、冬島だ」
ゴーイング・メリー号の船べりには、まだうっすらとしか雪が乗っていない。
島についてから、さほど時間は経っていないようだ。
しかしメリー号はすでに人がおらず、残っているのは船を守る役だけだ。
「……なにやってんの、ゾロ?」
「訓練」
訓練……。
上半身裸でストレッチを始めたゾロが船べりに足をかけたので、私はさすがに驚いた。
「待って、訓練という名前で、なにをするつもりなんだ」
「寒中水泳」
「か、寒中水泳……!?」
ドラムは冬島だ。今も雪がちらついている。
これから強くなって吹雪いてもおかしくはない。
間違いなく気温は氷点下だろう。正気なのか?
ゾロの顔をまじまじと見れば、彼はこともなげに言った。
「お前もやるか?」
「やるわけないだろ!」
いっしょにやりたくて顔を見ていたわけがあるか。
「ルフィたちは医者を探しに村に行った。まだそんな遠くねェだろ」
追いかけたらどうだ、と言われたが、私は首を横に振った。
ナミのことは心配だが、みんながついている。
それにドラムには世界一の名医がいるから、必ず治るはずだ。
「船に乗っているのが好きなんだ」
このゴーイング・メリー号に乗っている時間が大好きだ。
別れる時が来ることを知っている。だからこそ、乗れる時間を大事にしたい。
いつも船からいつの間にか降りているくせに、とか言われるかと思ったが、ゾロは何も言わなかった。
そして宣言通り、極寒の中、海に飛び込んだ。
最初のうちは心臓が止まっていないか心配で、泳ぐゾロを見ていたのだが……彼は鉄でできているのかもしれない。
平気そうだったので早々に目を離し、私はメリー号の上から、雪のちらつくドラムロックを眺めていた。
じー、っと目を凝らしていると、山のてっぺんから降りていく影が見える。
それは空飛ぶソリだった。馴染みの彼が引くソリには、古い友人が乗っているのだろう。
そうしてしばらく懐かしい気分に浸っていたのだが――ゾロが戻ってこない。
私はふと気づいた。
「……しまったァ! ゾロ絶対迷ったァ!!」
私は甲板から立ち上がって、頭を抱えた。
今メリー号が停泊している海は、島を流れる川につながっている。
そうか、川って――
寒中水泳なんて訓練ようやるわ、いつまでやってんだろ、とか呑気している場合ではなかった。
「こんな冬島で寒中水泳したまま迷子!? し、死ぬ!!」
私は慌ててゾロが脱いでいった上着と靴を抱え、メリー号を飛び降りた。
見聞色でゾロの気配をたどっていく。……おいどこまで行ってる!?
川の中も死んでしまえるほどに冷たければ、陸に上がっても凍り付くような風が吹いている。
川から上がっても冷えた体をさらに冷やすことになるし、ゾロは水の中でも陸の上でも方向音痴だ。
しかも災難なことに――なんと雪崩が起きた。
私は空中を蹴って、流れてくる雪より高い場所まで飛んだ。
雪崩が収まった頃に、雪の上に再び立つ。
「上半身裸で雪崩に巻き込まれてたら、さすがに死ぬ……!」
着こんでいても全然死んでしまえるというのに。
ゾロの名前を叫んで呼ぼうとすると、瞬間、私は見知らぬ大地を踏みしめていた。
――やばい! ゾロの靴と上着持ったまま飛ばされた……!
私のせいで凍死してたらどうしよう……!
てか……ていうかなんだけど……!
「……アラバスタなんだが……!」
私が踏みしめているのは砂だ。
見渡す限りいっぱい、砂が広がっている。砂漠だ。
街は遥か彼方、しかし多少は見えるので地形的にもここがアラバスタだということがわかる。
乾燥した風を頬に受け、じりじりと照らす太陽に皮膚を焼かれながら、私は思った。
寒暖差で風邪ひくわ……!