あっちへふらふら、こっちへふらふら。
私は不思議なきのみを食べてから、根無し草になった。
場所も時間も関係なく、あちこちに飛ばされる。
それでも平気なのは、帰る場所があるからだ。
本屋があったので、私は鳥の図鑑を探していた。
私の知っている、飲まず食わずで三日三晩飛び続けることのできる気合の入った鳥がなんという名前で、どんな姿なのかを正確に勉強するためだ。
結構死活問題なのだ。海の上で見つけた鳥がついて行っていい鳥かどうか判断できなければ、私はそう遠くないうちに海に沈んで死ぬだろう。
本屋の店主は立ち読みに厳しい者が多いが、私の気迫が伝わったのだろう。
本をぺらぺらとめくりあれでもないこれでもないとやっている私に、店主が文句を言うことはなかった。
私も生死がかかっているため、金を惜しむことはない。
立ち読みで済ませるつもりはないのだった。今日はちゃんと財布が懐にある。
……と、いうか、専門家に聞いてしまえばいいのか。店主に尋ねる。
「すみません、グランドラインの鳥について詳しく書いてある本はありますか」
「グランドライン? イーストブルーで探すにゃ、ちっと難しい本だな」
ここは東の海だったらしい。
「あったかなあ……」と呟きながら店の奥まで探しに行ってくれた親切な店主を手持無沙汰に待つ。
「それならウチの船にあるぞ」
「わー。びっくりした」
急に後ろから声をかけられたので振り向くと、見知った顔がいた。
左目によぎる三本の傷跡。
「よっ。ひさしぶりだな」
「ひさしぶりー」
麦わら帽子をかぶった赤髪のシャンクスだ。
彼に両腕があることを確認して、私はもう一回言った。
「ほんとに久々だなシャンクス! うわあ!」
「おー。もっかい驚いてら」
持っているというのならばその言葉に甘えることにしよう。
わざわざ探してくれたお礼として、店主にチップを渡そうとしたが断られた。
「赤髪さんには世話になっとるからな」
「ははあ。良いことしてるねシャンクス」
「店主が良い人なだけだろ?」
それもそうか。店主が良い人なだけで、シャンクスが良い人なだけだ。
シャンクスの船に向かいながら、私はしげしげとシャンクスの顔を眺めた。
「きみってあんまり老けないね」
「お? 褒めてるか?」
「もともと老け顔なのかな」
「褒めてなかったか」
「でも言動はずっとガキだしな」
「どんどん貶してるな」
「いや? そういうところが好きという話だ」
ちょうど船にたどり着いたところで、ピュイーッと指笛で迎えられた。
ついでにヤジも飛んでくる。
「お頭が口説かれてるぞー!」
「おい茶化すな、今いい感じだっただろ」
「全然いい感じじゃなかったぞー!」
「うん、全然いい感じじゃなかった」
久々の再会を喜んで、赤髪海賊団の皆に挨拶をする。
全員が知っている顔だし、向こうも私を知っている。安心する。
「どうして鳥の本を探してたんだ?」
目当ての本を持ってきてくれたのはベン・ベックマンだ。
ありがたく借りて、私はページをぺらぺらとめくりながら答えた。
「鳥について行けば次の島にたどり着けるかと思ったら、3日間飲まず食わずで鳥を追いかける羽目になって」
「ブフーッ」
「笑い事じゃないんだ」
もちろん噴き出したのはベックマンではなくシャンクスだ。
「ほんとこないだなんて、モビー・ディックがたまたまいなかったら、鳥の追いかけ過ぎで内臓飛び出てたかもしんないんだからな」
「白ひげのやつめ……」
「なぜそちらにヘイトが?」
「たまたまいるならレッド・フォースでもいいじゃねえか!」
「そうだそうだー!」
「そこは意見一致なんだ」
ヤソップとラッキー・ルウが肩を組んでこぶしを突き上げてシャンクスに賛同している。
若いラッキー・ルウを久々に見たけど、こんなに小さかったっけ。
覚えのある鳥のページにはまだたどり着けず、ぺらぺらとページをめくっていると、向こうは勝手に盛り上がっていた。
「滅多に会えねえ友との再会を祝して! 宴だーッ!」
「「「うおおーーッ!!」」」
静かに本を読むのも難しいなこの船は。
だが、そういうところが好きという話なのだ。