あっちへふらふら、こっちへふらふら。
私は不思議なきのみを食べてから、根無し草になった。
場所も時間も関係なく、あちこちに飛ばされる。
それでも平気なのは、帰る場所があるからだ。
なぜこんな目に。
私はゾロの服を頭から被って日除けにしながら、アラバスタに向かった。
太陽光で死ぬか、男の汗にまみれるかの二択なら後者を選ぶ。
ないものはない。あるものでなんとかするしかないのだ。
直前にいたのが冬島だったからかゾロの服は汗臭くないのでセーフだ。
アラバスタにたどり着き、ここがナノハナであることを知る。
服屋に行くべきか、迷う。私は普段、春か秋の服を着ている。
いつどこに行くかわからないので、中間の季節の服で妥協するしかないのだ。冬の装備で夏島に飛ばされるのは脱げばいいが、夏の装備で冬島に飛ばされたら死んでしまう。そういう細かいことを考えるのがしんどいので、多少の暑さ寒さは気合で耐える。
だから私はまず、飯屋の前にできている人だかりの方に向かった。
「お嬢ちゃん、近づかないほうがいい……! ありゃ砂漠のイチゴだ!」
「親切にどうも。でも知り合いなんで」
知り合いの気配がすると思ってきたらこれだよ。飯屋のカウンターで、料理の皿に顔を突っ込んでいる男の耳を引っ張って怒鳴りつけた。
「コラァーッ! 人様に迷惑をかけるなァーッ!」
「いででででで!」
言ってから気づいたが、これは海賊を叱りつけるにふさわしいセリフではない。
耳を引っ張られて起きたエースは、顔中を米粒まみれにしながら、私を見て笑顔になった。
「あー! こんなとこで会うなんてな!」
「まずは顔を拭きなさい顔を!」
「そうだな」
エースは私が被っていた服をひっつかんで顔を拭いた――ゾロの服-ッ!!
これは勝手に日除けにしていた私が悪いのか……!?
「人の服で拭くなァ!」
「いでェ!!」
どう考えても人の服で勝手に顔を拭く方が悪いので、エースの頭に容赦ないチョップをかました。
容赦のなさとはつまり覇気のことである。ロギアめ、チョップするのにもひと手間いる。
「マキノのマナー教室を忘れたのか……! ぶん殴ったら思い出すか!?」
「そりゃダダン式の教育だな」
私はため息をついて、エースの隣に座った。ポケットからあるだけのコインを取り出してカウンターに置く。たぶん無銭飲食をする気だろうし。
「あ、つーかお前がいるってことはルフィも……!」
「いやごめん、それはわかんない。私ルフィの船に乗ってもふらふらしてるからさ」
エースはルフィを探しているらしい。私がいるとこにルフィがいるわけではないため、否定しておく。
「そりゃそうか。ストライカーでグランドラインを逆走して思うが、お前があちこちにいるのって、それより速いスピードで移動してんのか?」
「おお。良い質問だね、エース」
つまりそう疑問に思うほど、私はエースとあちこちで出会うということだ。嬉しい未来なのでにっこり笑って、しかし疑問には答えない。というか答える前に邪魔が入った。
「白ひげ海賊団2番隊隊長が、この国に何の用だ。ポートガス・D・エース」
そっちも馴染みだったので、私はエースの代わりに笑顔で答えた。
「えー! スモーカーくん、こんなとこで会うなんて!」
彼ってローグタウンの担当じゃなかったのか? アラバスタというグランドラインに担当が変わったのだろうか。彼の実力からすれば当然か。
「てめェ、火拳のエースと楽しくお喋りたァ……」
「楽しくお喋りなんかしてない! めっちゃ怒鳴りつけてた! この私が! 珍しく!」
「はい。怒られてました。スンマセン」
エースが立ち上がって、折り目正しい礼をしながら謝罪したので、これにはスモーカーも少し唖然としていた。
「火拳を尻に敷いてやがんのか?」
「尻に敷くってなんだよ。私のケツに耐熱性はないぞ」
そしてエースを潰せるほどケツがデカくもない。
「エースは私の――」
説明の途中でゴムゴムのバズーカが飛んできて、エースとスモーカーがぶっ飛ばされて行った。これは……正直面白い。
ルフィが私に気づかず――まあたった今ぶっ飛ばした2人のことにも気がついていないので当然だが――飯に飛びついたので、その隣で頬杖をついた。
「ルフィ、おいしい?」
「ふぉらふぉんふぁええふあぐぁ」
「いいや、後でもっかい聞くから」
長年の付き合いだが、何言ってるのか何もわからなかった。私はとりあえず、自分の用を済ませることにした。
「あのさ、これゾロに返しといて欲しくて」
あ、テーブルの上に靴を乗せちゃったけど、食事の場でやることじゃなかったな。すでにカウンターの一部どころか食堂の壁までぶち抜かれて木片まみれだったので、そこまで気を遣えなかった。
ぶっ飛ばされたエースとスモーカーのうち、早く戻ってきたのはスモーカーの方であった。ルフィはスモーカーのことを知っていたようで、その顔を見た瞬間、口の中に目の前にあった料理を全部突っ込んだ。そして私はルフィに俵担ぎにされ、店から飛び出すことになった――ぞ、ゾロの靴-ッ!
「市民誘拐だぞ麦わらァ……!」
足を煙にして追ってくるスモーカーが言った。大量の料理を飲み込んだルフィが私に聞く。
「市民ってなんだァ?」
「たぶん私だ」
「お前市民だったのか?」
「え、どうなんだろ。違うんじゃないか? スモーカー、私アラバスタ市民じゃないけどー!」
「疑問に思うなら誘拐の方だろォが!」
スモーカーの律儀なつっこみに、それもそうだと頷くしかない。私はルフィの耳元で、こそこそ言った。
「……たしかに。ルフィ、いきなり女性を俵担ぎして爆走するのってたぶんマナー違反だ。マキノさんに怒られるかもしんない」
「なにィ!? そうなのか!?」
ついさっき兄の方をマナー違反で叱った手前、弟だけ甘やかすのもよろしくない。