あっちへふらふら、こっちへふらふら。
私は不思議なきのみを食べてから、根無し草になった。
場所も時間も関係なく、あちこちに飛ばされる。
それでも平気なのは、帰る場所があるからだ。
「誰だ?」
どこかに飛ばされて速攻、武器を向けられることは少なくない。
それなりの警戒心と実力があれば、突如現れた女にとる対処として正しいからだ。
私はその顔を見て口をぽかんと開けた。
どれだけ大きくなろうが、少年だった頃の面影が十分以上に残っている。顔に知らない傷があろうが、誰だかわからなくなるわけがない。
「い、生きてたの……!?」
まさか、これを私が言うことになると思わなかった。いつもは私が言われる側だからだ。
鼻先に突き付けられていた鉄パイプがブレた。
「おれを知ってるのか?」
私は歳を取らない。だから彼が私に気づかないわけがない。
だが彼は、私がサボを知っていることに驚いた。そこから導き出される答えはひとつ。
ミホークのときは間違えたが、今度は当たっているはずだ。私はここでようやく周囲を見渡した。
「ここ、革命軍の船か、てことは」
私はサボの横をすり抜けて、船内を爆走した。
横を抜かれると思っていなかったのか、「おい!?」と驚いたサボが追いかけてくる。途中ですれ違った女の子に「……あの時のお姉さん!?」と叫ばれたがごめん、どのときの子かわかんないし今はそれどころではない!
私は馴染みの気配のある部屋の扉を蹴りあけ、文句を叫んだ。
「ドラゴンお前-ッ! お前ドラゴン、おいッ! サボの話をしろよ! 生きてんじゃねェかァ!」
ドラゴンは読んでいた本から顔を上げ、こともなげに言った。
「お前には話をしたはずだが……」
「……優秀な部下とかいうやつか!? 名前を言え名前をーッ! 聞かなかった私が悪いんか!? 私が悪いなそうだわきみあの時記憶喪失の部下って言ってたァーッ!」
そんなヒントで気づけるか!? 無理だよッ!
せめてどこで拾ったとか、容姿とか……! こいつ、そういう重要な情報を後回しにするから……!
「名を言う前にお前は消えた」
「完全に私が悪かった。ごめん」
私の悪魔の実の能力のせいだった。そもそもドラゴンは重要な話を一切できなかったらしい。
恥も外聞もなく、私は四つん這いになって凹んだ。
そもそもドラゴンは自分の話もロクにしなければ、革命軍の話もめったにしない。それなのに彼が話題にしたからこそ、ちょっとした情報でも――優秀な部下、という単語を私は覚えていたのである。
なぜわざわざ話題にしたのか。その優秀な部下が記憶喪失で、異様に
「めちゃデカくなってんじゃん……」
ドラゴンと知己のように話したからか、追いついてきたサボは私に鉄パイプを向けてはこなかった。代わりに困惑の目で私を見ている。ごめん、本当に私の感覚の中でも10年ぶりとかに会ったのに、死んだと思ってたのに、しかも彼にとっては初対面なのに、こんなに無様でごめん。
「あの、今お姉さんが来ませんでした……!?」
私は深々とため息をついて、一旦落ち込むのを止めにした。目元をこすって立ち上がる。
「私のことなのか?」
「わあ、やっぱり! 覚えてますか、コアラです!」
「……えーッ!? コアラちゃん!? デカ! めちゃデカくなってんじゃん!」
「お姉さんはまったく変わりませんね!」
お互いに両手を取ってきゃっきゃとはしゃぐ。
フィッシャー・タイガーの船で会って以来だ。確かに面影が十分以上にあり、間違いなく彼女だとわかる。さっきは爆走しすぎて顔が見えなかった。
あんなに小さい子たちがこれだけデカくなるだけの年月が過ぎている……? 過ぎてなお、私はその間の彼らに出会えていない……?
私は急に怖くなって、ドラゴンに聞いた。
「ど、ドラゴン今の四皇誰?」
「時代を確認したいなら聞き方を間違えている」
「くそーっ、七武海にクロコダイルいる!?」
「もういない」
「くそーっ! あーっ! 悔しい、私全然革命軍にたどり着けないんだよ!」
革命軍の知り合いと出会える確率は不思議と低い。なんとなく相性が悪いのかもしれない。
サボにもコアラちゃんにもこれまでに会えなかったのはそのせいか。そんなことってないよ。
改めてサボを見る。デカ。そうだよな、生きてるからデカくなるんだ。嬉しすぎる。
私は改めてサボに向き直って尋ねた。
「一応聞くが、きみは私と会うのははじめてなんだな?」
「……ああ。悪いが記憶にない」
「記憶失くした後にも会ってないか!?」
「その場合はアンタが覚えてるんじゃないのか?」
「覚えてないから聞いてんだろ!」
「なんだ、話が複雑だな。そっちも記憶喪失なのか?」
「そんな感じだよ! いいから会ってるのか会ってないのか教えてくれ」
「記憶にある限りでは会ったことはない。すれ違った程度のことだったらさすがに覚えてないかもな」
「くそーっ!」
つまり、未来の私でも、グレイターミナルを旅立ったあとから、今ここで出会うサボまでの時代には会えないということである。最悪の未来を確定させてしまい、私は地団太を踏んだ。
「まあいいや未来がある、うん、まだ大丈夫……」
「いい加減聞いてもいいか? アンタはおれの何だ」
「私はきみの――」
最後まで言う前に、私はまったく別の土地を踏んでいた。私は恥も外聞もなく、四つん這いになって凹んだ。
だから革命軍に会えるのはレアなのに……私はちんたらなにやってたんだバカ……!
サボが生きていた衝撃がでかすぎて……! しかも記憶喪失だったし……!
もっとさ、過去の記憶を取り戻すヒントとかあげられたじゃん……! アホすぎ……!
せめて……せめてドラゴンの電伝虫の番号とか聞けばよかった……! でもアイツすぐ別の電伝虫にかえてそうだから意味ないか……! くやしい……!!