ふらふら   作:九条空

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サカズキ/ガープ

 あっちへふらふら、こっちへふらふら。

 私は不思議なきのみを食べてから、根無し草になった。

 

 場所も時間も関係なく、あちこちに飛ばされる。

 それでも平気なのは、帰る場所があるからだ。

 

 飛んだ先で抗争が起きていたので、私は一旦適当な家の屋根に避難した。

 困るんだよな、こういうどっちの派閥に味方すればいいかわからないような争いは。

 見るからに海軍と海賊の戦いなのだが、じゃあ海軍が善で海賊が悪ですね~とはならないのがこの世の本当に嫌なところだ。

 

 数分観察したが、両軍真面目そうだった。

 真面目な海軍と真面目な海賊だ。つまり治安のために戦う海兵と、略奪のために殺す海賊というわけである。一般的なイメージ通りでなによりだ。

 

 私はおもむろに屋根の瓦を剥した。瓦をフリスビーのように投げ、海賊の後頭部に当てる。

 私は投擲にはそこそこの自信があるのだ。剣より得意だと思っている。

 忍者になって手裏剣を投げる道もあったんじゃないかな。

 どうやったら忍者になれるのか知らないので、今のところその道はないが。

 

「邪魔をするな!」

「おん?」

 

 いくつか瓦を投げて海賊を昏倒させていると、文句を言われた。それなりに若いサカズキだ。

 彼は老け顔なのであまり年齢がわからないけど、たぶんまだ赤犬とは呼ばれていなさそう。

 

「今のは邪魔っていうかお手伝いじゃない? きみらがもっとまじめに働いてたら、私もあちこちでいちいち暴れる海賊を潰さなくてすむんだけどな」

「海軍の仕事じゃ……! 手を出すな、なして賞金首になっとらんのかもわからん半端もんが」

 

 私はサカズキに、歯をむき出しにして笑ってやった。

 

「なぜお目こぼしされているのか、理由も教えてもらえねえくせにでけェ口叩くな」

「貴様ァ……!」

 

 急激な温度変化に空気がゆがむ。

 サカズキは過激派だし、出世も早かったし、上からまだ私のことを聞かされていないことの方が意外だ。話した結果こじれることを懸念しているのかな。

 

「五老星は私に死んでほしくない。そのほうが彼らにとっても都合がいいからだ。だからDEADのつく手配書を出さないし、私の顔も売らない。海賊にも海軍にも私という人間の存在を隠す。それだけやっておけば、私を本気で殺そうとしても、殺せるほどのやつは来ない」

 

 懸賞金のかかっていない私は賞金稼ぎに狙われる理由がなく。

 あるいは高い懸賞金の首を取って知名度を上げようとする海賊にも狙われず。

 手配書自体がないから、海賊であると証明できない海軍にも早々襲われない。

 ――まあ露骨に海賊っぽいことしてたら当然海兵には狙われるし、そこまでやってなくても、海賊ということに()()()()()()殺そうとしてくる海兵はかなりいる。

 

「私を殺したいのなら最低でも七武海か三大将じゃねェとお話にならないからな。その辺にはなんとなく話は通ってんの」

 

 一応、私だって海軍がカメラ持ってたら全員ぶちのめしているが、その程度のことで賞金首になることから逃れられるほど甘くはない。私は特に()()()()し、サンジのように似顔絵でも良ければいくらでも首に金をかけられる。だがそうなってはいない。世の中黒と白だけじゃないのだ。

 

「私を殺す力もないと思われている()()()()()は哀れだね」

 

 今限定の挑発をしてやる。どうせすぐ大将になるんだからさ、若い間にいじるくらいいいじゃん。

 

「そこまでじゃ」

 

 一触即発の空気を吹き飛ばしたのはガープだ。

 まず間違いなく現時点でガープのほうがサカズキより位が高い、ので真面目なサカズキはあんまり無茶できない。ということを見越して私は彼に喧嘩を売ったのだ。殴り合いになったらあんまり勝てる自信がない。殴り合いにならない保証があるときにいっぱい文句を言っておきたい。

 

「お前、煽る力が年々すごいことになっとるのォ」

「アーハハ。ほらァ、私を殺せるから、上から事情を聞かされてるガープくんが来たぜ」

「おい、もう十分じゃろ! これ以上怒らせんな!」

「アハハハハァ。困るのはガープだから」

「いい加減にせんかァ!」

「いたァ!!」

 

 二つ名通りのゲンコツが降ってきた。

 

「あ、お前まさか……飲んどるな!?」

「悪いかァ~! たまにゃ飲むだろ人間だもの」

 

 酒とマグマの熱で火照った頬を手で仰いで冷ます。

 あちぃ、クザンいない? 今かき氷とか食べたいかもしれない。

 

「厄介なんじゃお前が酔っぱらうと! もう飲むな!」

「いやだよ~ん! 元気だったら飲むもん、今日は右足の靭帯断裂してっけどなァ!」

「だから逃げんかったんか! ったく、医者じゃ医者ァ!」

 

 私はガープに俵担ぎされた。

 内臓が無事だったら元気だと思っている節がある点を私も反省しよう。

 まともに歩けない時点で健康ではなかったな。

 これではニューゲートにとやかく言えない。飲む前から靭帯は断裂していたので。

 

「サカズキ、こいつは海賊ではないんじゃ、そんな目くじら立てなくてええじゃろ」

「いや海賊――」

 

 カープに腹部を締め付けられ、私の言葉の続きは「ぐえっ」という嗚咽に変わった。

 サカズキをなだめ、私を黙らせることを諦めたガープは、私を俵担ぎしたまま走り出した。

 

「まだ誤魔化せる範囲じゃろ! これ以上知名度上げるでないわ!」

「おめ〜の孫に言いなァ!」

「ルフィは海兵になるんじゃ!」

「ならねーよ〜ん! 息子もならなかったんだから諦めろ!!」

「ぐおお貴様ーっ!!」

 

 酔っぱらって未来予知してしまったことを後々反省したが、これはダダンたちでも予想できる範囲のことだからそこまで問題ではなかっただろう。たぶん。

 問題なのはいまだにルフィが海軍になると思っているガープの方だ。絶対無理だろ、現実を見たほうが良い。

 

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