ふらふら   作:九条空

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ミホーク/ペローナ

 あっちへふらふら、こっちへふらふら。

 私は不思議なきのみを食べてから、根無し草になった。

 

 場所も時間も関係なく、あちこちに飛ばされる。

 それでも平気なのは、帰る場所があるからだ。

 

 手ごろな岩に、ガン、と両腕を叩きつける。

 正確には腕ではなく、私の腕を拘束する、手錠のように巻き付いた()()を叩きつけた。

 ちょっと覇気をこめたが黄金はビクともせず、叩きつけた岩の方が粉々に砕け散ってしまった。

 ウーン、困ったな。まず私、ものすごい金額の黄金を盗んできてしまったという罪悪感がある。

 

 黄金の手錠とは、囚人にしては豪華すぎる装いだ。

 黄金を欲しがるやつらに狙われたら私今両腕使えないし、とても困るかもしれない。

 どうしようかなあと思ったが、ちょっと歩くと、すぐに問題は解決しそうであることに気がついた。

 

 なぜならここがシッケアールで、そこには世界一の大剣豪がいるからである。

 私はミホークのことを手錠を切る便利な男だと思っているのかもしれない。

 うん……あの正直、本当にそう思っている。

 彼に斬れないものはないし、私はよく手錠をかけられてにっちもさっちもいかなくなっているからだ。

 

 少し見ない間にすっかり農地になった土地を中ほどまで進むと、首にタオルをかけたミホークを見つける。

 こういうこと頼むの何回目なんだろうなあ、私の記憶にでさえ3回はあるんだけど、彼はもっと記憶してんのかなあ……。

 勝手に気まずくなりながら、ミホークに声をかけた。

 

「あのさミホーク……」

「なんだ」

 

 私は無言でずい、と黄金に縛られた両腕を見せた。

 ミホークはこちらを一瞥すると、ため息をついた。

 このリアクションを見るだけで、たぶん私、未来でもっと手錠かけられてんだろうなという予感がする。

 

 彼は手にしていた農業用の鎌で、トマトを収穫するみたいに簡単に、黄金の手錠を両断した。

 実際トマトは生っているため、本当についでだったかもしれない。

 私は自由になった腕で万歳をし、喜びを表現した。

 

「さすが大剣豪、黄金も斬れるんだね」

「なぜそんなことになっている」

「いや私もよくわからないが……」

 

 旧友と普通に食事をしていたはずが、少々浮足立つ感覚を覚えたために「ちょっと席を外すかも」と告げたら次の瞬間には両腕に黄金の手錠がはめられていたし、はめられたはいいが私もそのまま能力でふらっと移動してしまうしで、なぜそんなことをされたのか原因を特定できずじまいであった。

 何か怒らせるようなことしたのだろうか。申し訳ないな。

 意図せず黄金泥棒になってしまったし……私は両断された黄金を拾って、ミホークに差し出した。

 

「斬ってくれたお礼にこれあげる」

「要らん。持って帰れ」

「こんな重いものを?」

 

 能力の都合上、私は常に身軽でいることを心掛けている。

 捨ててはならないものを持っていると、いざというときに手がふさがって困るからだ。

 すべての所有物は私の身から離れた時点で、いつでもその場に置いていってしまうリスクがある。

 

 ペローナは欲しいだろうか?

 彼女は暗くてじめじめしたかわいいものが好きなので、ピッカピカに光る黄金は趣味ではなさそうだ。

 このシッケアールでは換金も難しいだろう。

 

「礼というなら手伝え」

「え、やらせてくれんの! やるやる!」

 

 私は黄金を放りだして、ミホークが持っていた鎌を喜々として取り上げた。

 

「どっからどこまで斬っていいんだ?」

 

 うきうきして鎌を構えると、ミホークは無言で私の手から鎌を回収していった。

 私がいつも要らんものばっかり斬っているのを思い出したのかもしれない。

 しょんぼりしていると、代わりにはさみを渡された。

 

「ガクが反り返っているものだけ収穫しろ」

「はい先生、ガクってどこですか!」

 

 ミホークは丁寧に熟れたトマトの見分け方を教えてくれた。

 この男、七武海よりも農家の方がよっぽどしっくりくるな。

 

 食べ頃のトマトをハサミでチョキチョキ切って収穫していると、私にも農業の楽しさがわかる。

 実際は食べられるようになる野菜を育てるまでに大変な苦労があるのだろうけれど。

 農業っておそらく、私が最もできないことだからなあ。

 一つ同じところで、長いこと畑の面倒を見続けるなど、この悪魔の実を食べてからは夢物語である。

 トマトを持ちながら妙にノスタルジックな気持ちになってしまった。こういう未来もあったのかな。

 

 その後おにぎりを持ってきたペローナは私を見て「いるならいるって言えよ! 数が足りないだろうが!」とぷんすこしていた。

 ちょっと前まで私は彼女を殺そうとし、彼女は殺されるかもしれないと怯え切っていたような気がするのだが、なにがあったのだろう。結構仲良しになっているようだった。

 友達は多いに越したことがないので、まあ、悪くはないと思った。おにぎりはおいしかった。

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