ふらふら   作:九条空

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コブラ

 あっちへふらふら、こっちへふらふら。

 私は不思議なきのみを食べてから、根無し草になった。

 

 場所も時間も関係なく、あちこちに飛ばされる。

 それがどんなにつらいことか、誰かにわかってほしかったのかもしれない。

 

 ここがどこだかわからなかったが、目の前にあるものがなにかはわかった。

 ポーネグリフだ。これがある場所は限られている。

 座っている地面を手で触ると、砂でじゃりじゃりしていた。

 じゃあアラバスタだ、きっと。

 暗くて周りはあまり見えないが、見えたところでポーネグリフが読めるわけでもない。

 

 自分の膝に顔をうずめた。

 たった一人だ。この場に誰かがいたとしても、私はそう思うのだろう。

 

 せっかく友達がひとりできても、すぐにこれだ。

 結局私は根無し草で、一生誰かと共に過ごすことはできない。

 ルフィは子供だったから、すぐに私のことを忘れてしまうだろう。

 勝手にどこかに行った私を責めるかもしれない。

 

 だがこれで良かったのかもしれないと思う自分もいた。

 いつルフィが来るかもわからないあの場所では、私は死ぬことができない。

 この静かな場所ならば、私はゆっくり眠れるだろう。

 

 しかししばらくして、カツカツと足音がしたかと思えば、扉が開いて人が入ってきた。

 人がいることに驚いたのか息をのむ音がし、私はため息をついて客人を迎えた。

 こんなに誰も来なさそうな場所であっても、私はゆっくりできないのか。

 

「勝手に悪いね。たまにはこうして歴史と語り合いたくなる時があるんだ」

「私もだ」

 

 私が無理矢理ひねり出した軽口に乗ってくれたのは男だった。

 たしか……アラバスタのポーネグリフは、王家の墓の奥にあったはずだ。

 王でなければ入れない場所なので、つまりこの男はアラバスタの国王である。

 

 こんなところにいては、墓荒らしか、それ以上の冒涜を行う犯罪者と思われて当然だが、男は騒ぎ立てる様子がないどころか、私の隣の地べたに座った。

 

「あんま床とか座んないほうが良いんじゃないの?」

「たまにはいいだろう。先祖とお前しか見ていない」

 

 いいのかな、ご先祖……。

 しかし、王族である彼がたまには地面に座りたいと思うのなら、彼のご先祖様もそうだったのかもしれない。多少はお目こぼししてくれると信じよう。別にお目こぼしされなくても私は困らないが。

 

「悩み事かね」

「そう思う?」

「ああ。私も悩んでいるところでな」

「悩み事は静かな場所でしたいもんね……」

 

 だから私はここに来たのだろうか。

 不審者に対して平気で話を続ける男を、私の方が不審に思いながら、私は再び軽口をたたいた。

 

「きみの悩みから聞こうか?」

「うむ。実は最近子供が生まれて……」

「待って、私が言ったんだけど本当に話すやつがあるか?」

「なんだ、聞いてくれんのか」

「いや、聞くのはやぶさかではないけれど、こんな怪しい意味わからんやつに国王の悩みを話すやつがあるか、という話をしているんだ」

「意味わからんことはない。お前は私の友人だ」

「は」

 

 ()()()()()ことだったので、私は息をのんだ。

 

「なんだ、覚えていないのか? あまり人から忘れられたことがないので新鮮だな」

「そりゃ国王だもんな」

 

 よくよく考えれば――ありえないことではないのだ。

 この先も生きていれば、私は未来で、過去の彼と出会って友人になることもあるだろう。

 私は今、そんなことはありえないと本気で思っていた。私が今死んでは、彼が私の友人であるはずがない。

 私はこれからも生きていくのだと、強引な方法で証明されたのだ。

 

 泣きたい気分だったし、笑いたい気分でもあった。

 さっきまで世界にひとりぼっちのつもりだったのに、急に友達がいっぱいいるかもしれないって言われたら、こんな顔にもなる。

 

「じゃあ、その……申し訳ないが本当に忘れてしまったので、きみと私の出会いを聞いてもいい?」

「あれは私が城の窓から脱走した直後、足を捻ってうずくまっていたとき……」

「早々にヤンチャすぎるエピソードから来たな」

 

 私にとっては初対面の男だったが、未来の私が友人になる男だ、コブラとは非常に気が合った。

 最終的には、王族と大怪我人がするにはふさわしくないほどの大口を開けて笑い合った。

 

「ああいけない、これ以上笑ってはご先祖様も起きてしまうかも」

「たまにはいいだろう、たまには」

「いいのか?」

 

 いつかこの墓に入るコブラがそう言うのなら、そうなのかもしれない。

 笑い疲れた私は、いつもなら絶望の予感に等しい()()()()感覚を覚えても、不思議と平気だった。

 

「非常に根拠のない自信だが、私は今、望んだ場所に行ける気がするよ」

「好きなところにいけるはずだ、お前なら。今いる場所を好きと思えるだろう」

「……きみが言うと説得力があるなあ」

「昔のお前が言っていたのだ。今いる場所を好きになれるのが、自分の特技だとな」

 

 なんだか悔しい想いだった。未来の自分に生きる気力をもらうことになるとは。

 良いこと言うじゃんかよ。未来の私がそう思える人生を歩むのなら、もうちょっと頑張ってみようかなと、思えてしまう。

 

「また会おう、コブラ」

「ああ、必ず。まだ娘の顔も見せていないからな」

 

 その約束は果たされると、今の私なら信じられた。

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