あっちへふらふら、こっちへふらふら。
私は不思議なきのみを食べてから、根無し草になった。
場所も時間も関係なく、あちこちに飛ばされる。
そんな人生に疲れ切っていた。
私はコブラとの人生相談を経て、再びルフィと出会ったどこかの森のどこかの木にもたれかかっていた。
あれからは、どこにも飛ばされずに数日が経っている。
悪魔の実の能力が失われたわけではない。ただ漠然と、今は大丈夫なのだという感覚があった。
近くの村の名前はフーシャ村で、ダダンという山賊がいる。
祖父の名前はガープで、ルフィを海兵にしたくて無茶なトレーニングをしてくる。
憧れの海賊はシャンクスで、いつかはルフィも海賊になるために海に出る。
日々やってきてくれるルフィの話を聞いて、すっかり絆されてしまった。
私はルフィのことが好きだ。ともすれば生きる理由になるほどには。
その日のルフィは様子が違った。
「……なんだって私と同じくらいの怪我を?」
「言えねえ!」
大怪我を負っているにも関わらず、ルフィはにししと笑った。
良いことがあったのだろう。怪我の痛みも気にならないほどの。
「よかったね」
「ああ!」
場合によっては怪我を喜んでいるように捉えられる私の発言だったが、ルフィは肯定した。
彼はもうここには来なくなるかもしれないな、と私は思った。
しかし、私の思いとは裏腹に、ルフィは再び私の元を訪れた。
それも今度は、見知らぬ2人の子供を引き連れて、である。
「なんだよこいつ」
「おれのともだちだ!」
「どうも、ルフィのともだちだよ」
彼らのことはルフィから聞いて知っていた。
そばかすの方がエースで、帽子を被っている方がサボだろう。
「こんな森で死にかけてるヤツがまともなわけねえだろ」
「とても真っ当なことを言われているね」
エースにまともなことを言われ、私はいっそ感心してしまった。
ルフィがあまりにも普通に仲良くしてくれるため感覚がおかしくなっていたが、森の中で突然死にかけている人間は通常信用に値しない。
「海賊か?」
「いや」
サボの問いを否定する。今の私はなんの肩書も持たない。
その間、エースはルフィを怒鳴りつけていた。
「お前、最近毎日飯持ってどっか行くの、ペット飼い始めたのかと思ってたが、人間じゃねェか!」
「ペット。ははは」
今のところ、ほとんどそんなようなものだ。
「自分でまともに飯もとれねえのに人に餌やってんじゃねえよ!」
ルフィを殴ろうとしたエースの腕を掴んで止めた。
指一本さえ動かすのが億劫だったのに、それが嘘のように簡単に腕が上がった。
「う、動かねえ……!」
「ルフィには恩がある。傷をつけるつもりならまず、
「おい、やめろよっ!」
ルフィが間に入ったので、私はエースを見つめるのをやめた。
「エースもサボも敵じゃねえ! おれはエースと、サボと、お前に、なかよくしてほしいから紹介したんだっ!」
「……そうか」
私は眉を下げ、エースの腕を離した。腕を離されたエースはルフィも私も殴ろうとはしなかった。
つい過剰に反応してしまったが、彼もきっとルフィを本気で殴ろうとしたわけではないのだろう。
「すまなかったな。子供の扱いは知らなくてね、脅しすぎた」
「おれはガキじゃねえ! てめえなんかに殺されるかっ!」
「ああ。きみたちは手ごわそうだから、本気で戦うことになっていたら困っていたところだ。一度言った手前、おれは殺されるまで戦わなければならない。そうなったら、
先の発言は脅しのつもりではあったが、嘘を言ったつもりもない。
目の前で友人が傷つけられるのは、死んででも止める。
そもそも今の私はあまり生死に頓着がないので、大した覚悟の話ではない。
しかしルフィには死にかけのヤケっぱちには見えなかったようで、瞳をキラキラさせていた。
「よくわかんねえけど、かっけぇ!」
「よくわからんか。あっはっは」
細かいことは気にしない質なのだろう。私が突然
一応、あんまり舐められたら困るかなと思って、胸の傷を押さえるために包帯も巻いていることだしと、男のふりをしてみたのだ。
「ま、おれに言う権利はないが……ルフィと仲良くしてやってくれ。死にかけてたら教えてくれると助かるよ。助けに行くから」
「おれはそんなに弱くねえぞ!」
「ルフィ。本当に強い男というのは、人に頼ることを知っている」
どう見ても死にかけている人間から助けに行くと言われて反発心を覚えるのは当たり前だ。
私はルフィに言った。
「自分にできないことは人に頼めばいい。他の人にできないことは自分がやってやればいい。なにもかも自分でやっちまったら、ひとりっきりのまま死んじまうぞ」
ルフィにはまだ難しい話だったようだ。
あまり理解した様子はなく、代わりにエースが歯を食いしばった。
なんだかこじらせてそうだな。ま、だれにでも思春期はあるものだ……。
「海賊になるんだろ。海賊はひとりぼっちか?」
「いや! 仲間がいる!」
「だったらおれにも頼りな。きみを助けられたらうれしいよ」
すると、ルフィがさきほどよりも顔を輝かせた。
「お前……おれの仲間になってくれるってことかァ!?」
「うーん? きみがそうしたいなら、いいよ」
「じゃあ仲間だ!」
「じゃあ仲間かァ。あはは!」
なんだかさっくり、彼の仲間になってしまった。
こんなんでいいのかな、とルフィと自分に対して思うが――自分の心からは、いいんだ、と返ってきた。
「うれしいよ。ひとりっきりのまま、死にたくないからな」
言葉にして初めて、ああそうだったのか、と思った。
もう死んでもいいやと思ったのは、獣が来たからだ。
死ぬときひとりぼっちなのが嫌で、最期に見るのが人間じゃなくたって構わないくらいだった。
本当に死んでしまわなかったのは、ルフィが来たからだ。
死なれたらいやだと言われたから。
私も、それが知らない人だったとしても、看取りたくないと思うから。
「よろしく船長」
何もかも失った私は、この世界でまたひとつ手に入れた。
彼を失う恐怖より、彼と共にいる未来を楽しみに思えた。
失わないよう、奪われないように、また生きてみようと思えたのだ。