ふらふら   作:九条空

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エース

 あっちへふらふら、こっちへふらふら。

 私は不思議なきのみを食べてから、根無し草になった。

 

 場所も時間も関係なく、あちこちに飛ばされる。

 そういう生活を送らなくなって、しばらくのことだった。

 

 立てるようになる程度には回復したので、私はたまにルフィに稽古をつけていた。

 海賊になるというのなら戦いは避けられまい。そう簡単に死なれては困る。

 立てるようになったが剣を振るうのは無理なので、ルフィの攻撃を避けては、私が隙だらけのルフィの背中を蹴るくらいの簡単な稽古だ。最近知ったが彼はゴム人間らしく、蹴ってもあまり痛くないらしい。手加減が苦手な私にとっては助かることだった。

 

 ルフィと稽古をしていると、たまにエースとサボが参加してくるようになった。

 彼らはルフィよりうまく立ち回るので、こちらも正直苦戦する。

 主に手加減を間違えるのだ。本来なら私が殴られればそれで済むのだが、怪我をしていることもあってうっかり反撃してしまうのである。

 今もエースを強く蹴り飛ばしすぎてしまい、木に激突させてしまった。

 しばらくうずくまっていたエースの前まで来て、屈んで様子を見る。

 

「ごめん。ちょっと力が入りすぎた」

「謝ってんじゃねェ!」

 

 エースに怒られて、私は眉を下げた。男の子って難しい。

 

「次はこうはならねェ。でも今日のところはここまでにしてやる。ドクリツ準備のために、あのクソババアのところに一回戻るからな」

「クソババア?」

「ダダンのヤツだよ」

 

 ダダンとはエースやルフィ、サボもたまにお世話になっていると聞く、ここらを牛耳る山賊だ。

 名前こそ知っていたが、女であるとは知らなかった。

 

「なんだ、ここのトップは女山賊か。舐められるかと思って男装してた意味はなかったかな」

「……は?」

 

 エースが私を頭の先からつま先まで眺める。

 私はそれが妙に面白かったので、ピースして「きゃは♡」と甲高い声で笑ってあげた。

 あまり詳しくないが、ギャルという人種はこういう感じらしい。

 女しかいないと聞くけど、九蛇みたいな民族なのだろうか。

 

「お、女ァーッ!?」

 

 男装というには非常にお粗末なものだったが、それでもこのリアクションを見るに、エースのことは完全に騙せていたらしい。

 ちょっと言葉遣いを硬くしていつもより低い声を出し、傷口を押さえるついでに胸を潰していたくらいのことなのだが。

 まあ、そのくらいのことだったので、エースも私を上から下まで改めて見たら女だとわかったのだろう。

 

「そんなに驚くことか? 私の演技がすごかったってこと?」

「だ、だっておまえ……そんな強いのに……女!?」

「やはり男装を続けた方が良かったかな。女山賊を見て女の強さを理解しているのかと思った」

 

 となればまあ、しかたがない。私が女ってもんを教えてやるか。

 

「女だからって舐めるなよ坊や。命張ったらなんだってできるのが()()だぜ」

「……!」

 

 男だろうが女だろうが、それ以前にひとりの人間だ。

 エースはバツの悪い顔をして、もごもごと小さい声で言った。

 

「……悪かった。舐めたわけじゃねえよ……」

「ああ。そんなことできるほど強くないもんな」

「舐めてんのはてめェじゃねェか!」

「かわいがってんだよ」

 

 子供の扱いは詳しくないが、徐々にわかってきた。

 つまり大人にやるには距離感がおかしいことでも、子供にならやっていいという……この理解はまずいのか?

 

「きみはすぐに私より強くなるさ。その短い間くらい楽しませてくれ」

「――ッ! ぜってえすぐボコボコにしてやる!」

 

 エースは頭を撫でる私の手を振り払って叫んだ。

 

「あーあ。女をボコボコにする男はモテないぞ」

「はあ!? 知らねえよ!」

「そうか。私は女だろうがボコボコにする男の方が好みだが……」

「もっと知らねえよッ!!!!」

「あっはっは」

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