あっちへふらふら、こっちへふらふら。
私は不思議なきのみを食べてから、根無し草になった。
場所も時間も関係なく、あちこちに飛ばされる。
そういう生活に、もう少しで戻ってしまうことを直感で理解していた。
「じいちゃんが来るーッ!」
「きみの祖父はなにかそういう、怪物的なものなのか?」
泣きながら恐怖に震えるルフィに思わず尋ねると、鼻水を垂らしながら「う゛ん!」と答えたので、彼の祖父は怪物らしい。ルフィは不思議な魅力を持った子供なので、怪物から生まれていても不思議ではない。
「私はどうすればいい? 倒せばいいのか?」
「倒せるのか!?」
「やってみないことにはわからないが……私も万全ではないので、相打ち覚悟でいいか?」
「だめだ!」
だめだった。
死ぬ気で戦えないとなると、ルフィを抱えて逃走くらいしかできることはないだろうか。
今は足元が覚束ないので、ルフィを逃がしている間の時間稼ぎの方が自信あるのだがな。
「なんじゃお前は」
ルフィの言った通り、彼の祖父はやってきた。予想外に海軍の制服を着ている。
やや震えながら私の後ろに隠れているルフィをそのままに、私は言った。
「ルフィの友人で、船員だ」
「船員じゃと?」
ルフィは私の背中から顔だけ出して叫んだ。
「おれはこいつと海賊やるんだ!」
「まだそんなことを言っとるんか! お前は海兵になるんじゃ!」
私はそれを聞いて、おおよその事情を把握した。
海賊に憧れる孫、海軍になることを強要する祖父。
見た瞬間に強者であることがわかることからして、彼は海軍の中でも相当上の地位にいるだろう。
「いくら家族だろうが、人の未来を決めることはできない。仕方ない、玉砕覚悟でも厳しい戦いになるだろうが……」
「だからだめだーっ!」
ルフィは船員想いの良い船長のようで、勝てない戦いに挑む私を必死で止めた。
私はそれを嬉しく思いながらも、尚更止まることはできないと腹を決めた。
彼のために立ち向かおう。ルフィの祖父の瞳をまっすぐに見つめ返す。
「お孫さんの命は私が守ろう。だから厳しい道を進むことを許可してほしい」
「孫が犯罪者になることを見過ごすじいちゃんがいるか!?」
確かにそうだ。もう負けそうになった。
パワータイプに見えて弁も立つらしい。今のは私の論が弱すぎたというのもある。
ルフィの祖父は、握りこぶしを作って私を睨みつける。
「孫を誑かす奴は近くにおけん……!」
「すまないが、私からルフィをとらないでくれ」
今の私にとって、彼が生きる糧なのだ。
……
結局拳で語り合うことになり、私は優に10回は死んだと思った。
ルフィが祖父を恐ろしく思うのも当然だろう。一応私も死にかけの大怪我人なのだが容赦がなかった。
かといって殺す気でもなかったようなのがもっと怖い。殺す気がないにしてはやりすぎだからだ。
「お前……おれのためにそんなになるまで……!」
ボコボコにされて地面の上で大の字になり、青い空を眺めていると、ルフィは涙声で言った。
「私のためでもある。海賊は船長のために戦うものだろう」
「……おれ、ぜったい海賊になるからな!」
「うん」
それにしても強かったな、ガープ。ちょっとキレそうだ。
あんな理不尽な強さが横行してるのかこの世界。いやだな……。
「なあ……前に言ったことを覚えているか? 私、本当はいつでもふらふらしていて、同じ場所にいられないんだ」
「ん? なんか言ってたような気がするな」
もう死にたいという気持ちはなかった。
前向きに、これからできるかもしれない友人たちのことを思えたし、この世界のいろんなところを見るのも悪くないと思えていた。
それもこれも、ルフィたちとの生活が楽しかったからだ。
「怪我が治ってきて、気持ちも立ち直ってきた。そのせいか、
「……? おう!」
ルフィの返事は良かったが、たぶんわかっていなかったので、私は簡単に言い直した。
「私はここからいなくなる」
「え!? おれと海賊になる話はどうなるんだ!?」
「きみは初めて会ったとき、私にこう言った。私を待っていてくれると」
「それは覚えてるぞ!」
私はほっとした。それを忘れられていては、また生きる目的を失いそうだ。
「きみを私の帰る場所にしてもいいだろうか。私はいつだってどこかに消えてしまうけれど、必ずいつかは、ルフィのもとに帰ってくると誓うよ」
「おう、それならわかった! 船出の時はゼッタイ来いよ!」
「うーん、それすらも約束はできないな」
「えーッ!」
出航の時に立ち会いたいのは私も同じだが、私の能力はそれほど都合がよくない。
そんなに思うようにいくのなら、私は生きる気力を失うこともなかっただろう。
「でも、気づいたらきみの船に乗ってるよ、いつだって。きみも、そう願っていてくれるのなら」
「わかった! お前はいつでもおれの船に乗ってるかもしれない不思議人間ってことだな!」
「うん。完全にあっている」
さすが、ルフィは自分が体の伸びる不思議人間なので、理解が早かった。
「船員が不思議人間でも構わないか?」
「いいに決まってるだろ!」
にしし、と笑ったルフィに、私も笑い返した。
まだ船さえない、旗も名前もないこの海賊団が、私の終の棲家だ。