あっちへふらふら、こっちへふらふら。
私は不思議なきのみを食べてから、根無し草になった。
場所も時間も関係なく、あちこちに飛ばされる。
それでも平気なのは、帰る場所があるからだ。
近くにあった出店に並んでいるものが、骨董品だったので、私はそこの店主に声をかけた。
「ちょうどよかった。買取やってる?」
「ものによるなぁ」
「超いい感じのオルゴールだよ、ほら」
ねじを巻いて、オルゴールのふたを開ければ、素敵な音楽が流れ出した。
出店の男は腕を組んで、しばらく音楽を聴いた。
「ま、悪くねえなあ」
「でしょう」
もっとよく見せてくれと言われたので、店主に渡そうとすれば、そこに男が割って入ってきた。
走ってきたのか息が切れたまま、私に尋ねてくる。
「おい、お前それどこで手に入れた!?」
「ん? なんだお兄さん、きみも買い取りやってんの?」
「どこで手に入れたかって聞いてんだ!」
男があまりに必死だったので、冗談はやめて答える。
「ねじ巻き島。お兄さん行ったことある? いいとこだよ。私が前に行った時にはね、島の超高いところに超デカい時計ができたばっかりで。その時計から鳴る音楽が、このオルゴールと同じなんだな」
前に行った、というか、ついさっきまでいた、が正しいのだが。
時間軸はズレ、あの時よりもそこそこ未来にいそうだ。
前の時代ではないだろうと踏んだから、私はこれを売ろうとした。
私の話を聞いた男は、より真剣な顔になった。
「いくらだ? こいつより高い金で買う」
「大事にしてくれるのならタダでも構わないよ」
「タダだぁ? 当然大事にはするが……」
私は最初に買取を持ち掛けた店主に「悪いね、これも縁というやつだ」と謝った。
店主は大して気にした様子もなく、しっしと手を振った。
店の前をいつまでも占領するわけにはいかないので、男の手を引いて退散することにした。
「タダじゃ不安ならお茶でも奢ってくれよ。ねじ巻き島のこと知ってるなら昔話もできるだろ」
カフェのテラス席に座り、私はボロードと名乗った男にオルゴールを渡す。
彼はすぐにねじを巻いて、オルゴールの音楽を聴いた。
私の方から昔話を始めることにした。
なにしろ昔といいつつついさっきの出来事だから、記憶に新しい。
「でっかい時計……ダイヤモンドクロックだっけ? が完成したお祝いにお祭りがあってさ、そこに行ったんだよね。その場でできた友達に、土産として持って行けと渡された」
「それを売ろうとしてたのかよ」
「売って良いと言われてたから」
私は常に身軽でいなければならない。
両手がふさがっていては、とっさに剣を握れないからだ。
荷物は持てない旅だからと断ったのだが、すぐに売って構わない、むしろ売ってこの音楽をいろんなところに広めてくれと頼まれたので、私は少々主義を曲げて一時的にオルゴールという荷物を手にしたのだ。
次に飛ばされた場所のすぐ近くに、骨董品の出店があったのは偶然ではないだろう。
こうして望む場所に行けることも稀にあるのだ。なにより、このオルゴールを欲しがる男に出会えた。
ボロードはオルゴールのふたを閉めて、大事そうに懐にしまった。
「ここでこの音楽が聞けるとは思ってなかったぜ。ダイヤモンドクロックはぶっ壊れちまったしな」
「ぶっこわれたぁ!?」
「ああ。知らねえのか? ねじ巻き島ごとぶっこわれた」
「ねじ巻き島ごとォ!?」
ついさっきまでいた島が崩壊した話を聞かされ、さすがの私も仰天した。
「ダイヤモンドクロックができたのは9年も前だし、島がぶっ壊れてから2年は経ってるが、知らなかったのか?」
「ああ、まあ10年なんていうのは瞬きしたら過ぎるからね」
「言いすぎだろ」
それがそうでもないのだ。まさに言葉通りなのである。
「ってなると、ねじ巻き島が海賊に占拠されてたって話も知らねえのか?」
「知らないな、なにそれ大丈夫なのか……って大丈夫だったら島崩壊してないな!」
ついさっきできたばかりの友人たちは、もしかしてすでに……と眉を寄せると、ボロードは肩をすくめた。
「ま、結果的に大丈夫にはなった。島を占拠してた海賊は、別の海賊にぶっとばされたからな」
「良かったと言っていいのかな?」
「島の再建はかなり進んだと聞いてるぜ」
「ああ、それはよかったね……」
望んだ場所にいけることもあるが、いつもではない。
海賊に占拠されている間のねじ巻き島には、私はたどり着くことができないのだろう。
その占拠していた海賊を倒した海賊というのが、麦わらの一味でもない限り。
そうだったとしても、私がその場にいるかはまた別の話だしなあ。
「これと似たようなオルゴールを弟が持ってるんだ。最初はアンタが盗んだのかと思ったが……」
「不名誉だな。泥棒ってのはもっとスマートだろう?」
「あ?」
「私の知る泥棒というのは、もっとカッコいい」
「……そうかよ」
なぜかボロードは照れたように鼻の下をこすった。
なぜか、という理由は、別行動していた彼の弟が合流したときにわかった。
世界一の泥棒を目指す泥棒兄弟・ボロードとアキース、とご丁寧に名乗りを上げてくれたからだ。
しっかり決めポーズがあったので、思わず拍手してしまったが、私の思うカッコいい泥棒のイメージとは結構違うかもしれない。
私にとっての泥棒というのは、