あっちへふらふら、こっちへふらふら。
私は不思議なきのみを食べてから、根無し草になった。
場所も時間も関係なく、あちこちに飛ばされる。
それでも平気なのは、帰る場所があるからだ。
なんか寒い。
また冬島か、と思えばそうでもないようで、少々遠い場所にいた男と目が合った。
男は私を認識すると目をかっぴらき、口を大きく開け、顔を青ざめさせガタガタと震え始めた。
「ば、バケモノだァーッ! パンクハザードのバケモノが来たぞォーッ!」
「誰がバケモノだーッ! そんな見た目のやつらに言われたくねーぞーッ!!」
馬っぽいキメラの男に悲鳴をあげられたので、私は怒鳴り返した。
私に怒鳴られた男は、情けない声で叫びながら一目散に逃げて行った。
失礼だな、私は基本的に実験体にされている側には優しくしているはずだ。
暴れまくっている最中にはよく狙いを外すので、うっかりで犠牲になった人もいるかもしれない。
振り向けばローがいた。しっかりとコートを着込んでいて偉い。
対する私はまた薄着だ。やっぱりコートの一枚くらいは持っておいた方が良いのだろうか。
しかし、身軽でないとこの能力とはうまく付き合えないのだよな。
ローが私に聞く。
「なんでバケモノ呼ばわりされてる」
「知らないよ。ここに来るたびに大暴れして設備バカスカぶっ壊して目についた人間ボッコボコにするくらいのことしかしてないのに」
「それだろ」
パンクハザードではいつも最悪の実験が行われているので、ここがパンクハザードだと認識した瞬間に暴れるようにしている。
そういう意味では、私を見て誰かが「パンクハザードのバケモノ」と呼んで場所をすぐ確かめられるようにしてくれるのは暴れる合図になるのでありがたいことだが、どこでなんという噂が立っているのかは気になるな。
私の見た目はそれほど特徴的でないと思うのだが、何を目印にバケモノ呼ばわりされているんだ。
知らない女がいたら自動的に化け物扱いなのだろうか。他の女性たちに申し訳ないな。
「なんでそんなことしてやがる」
「きみ、私と出会ったときのことを覚えていないのか? 病院をそこそこ風通しよくしたと思うけど」
私は病人には優しくしているし、実験体にも優しくしている。
そして奴隷制度の推進と人体実験をやる輩には鬼のように厳しくしている。
ホワイトモンスターと呼んだ医者のいる病院を破壊した私を見ているローなら、私がパンクハザードで暴れていても納得すると思ったのだが。
「……覚えてねェのはお前だろ」
「あー……?」
ローが苦々しく呟いたので、私は逡巡した。
この感じは……相手は知っていて、私はまだ知らない思い出がある時の、あるあるというやつだ。
コラソンに連れられたロー、が私と初めて出会った彼だと思ったのだが、このリアクションを見ると違うらしい。
だというのなら、困ったことに、私は未だにローと初対面を済ませていないらしかった。
なんだよ、だったらあのとき久しぶりとか言ってくれればよかったのに。
しかし事情を知らぬローにとって、初対面を覚えていない私が全面的に悪いな。
誤魔化すのは難しそうだったので、私は正直に謝った。
「ごめん。そのうち思い出す」
「期待しねェ」
ごめんて……。今の私にはどうしようもない。
いつかたどりつく、ローとの思い出の日を楽しみにするくらいしかできない。
楽しみというか、ちょっと怖いかな。私、なにか変なことしてないだろうかと不安だ……。
気持ちを切り替えて、目の前のことを考える。
私がいるのはパンクハザードなのだ。
「ともかく、施設を破壊しても根本的な解決にはならないからな。いつも時間がなくて完全には潰せないんだ……シーザーもあいつわかってて逃げ回るし……」
ここが灼熱の地と極寒の地にわかれているということは、まず間違いなく今ここを管理しているのはシーザー・クラウンである。
キメラのような実験体がうろうろしていることについては詳しくはないが、シーザーが管理者ならばまともなことは行われていないだろう。
あわよくば彼らをこの土地から解放してやれれば良いが、私をバケモノと呼んで怖がっている時点で難しそうだな。
この地で私をバケモノと呼ぶのは世界政府側の人間かシーザーの配下だろう。
私にはタイムリミットがある。
同じ場所に居続けることのできる時間は常に限られている。
それが戦場であったり、友人のいる場であったりすればなおさら短い。
誰もいない無人島とかに飛ばされたときは比較的長くいられる傾向がある。
私がいつのまにかいなくなることをシーザーは学びやがったため、暴れ回る私から本気で逃げ隠れするのだ。
「でもローが来てくれたなら安心だね。私の代わりにここをぶっ潰しといてくれ」
「おれは……」
ローが言いよどんだのであまりいい予感はしなかったが、それより私にはやらなければならないことがある。
ここに来るといつも時間との戦いなのだ。
ああそうだ、ローに会えたのがうれしくてつい話し込んでしまったが、こんなことをしている場合ではないのだ。
「ごめんローちょっと刀借りる!」
「おい!?」
ローが鞘を握ったままの刀の柄を握り、そのまま抜刀する――勝手な協力プレイでの居合。
「毎回毎回ぶっ潰しても新しい施設を建ててんじゃねェー!!」
目の前の建物を
いつもよりは狙いが正確だ。パンクハザードの施設には斬ってはならない場所がある。
主に子供の被験者が集められているところだ。でもシーザーのやつそれを逆手にとって自分もその近くに逃げ込んだりするからマジで腹立つぜ。
納刀しようとしたらその前にローに刀をとられた。元は彼のものなので文句はない。
「めっちゃ斬れたな。良い刀だね」
「勝手に使うな」
斬ってわかったが、ローの刀は妖刀だった。
それなりに使用者を選ぶ部類の刀だ。ローが大人しく私に抜かせたのは、抜けないと思ったからか。
だとすれば、使わせてくれるからだと思って無遠慮に抜いて悪かったな。
「もうちょっと借りようと思ったのに……」
「貸さねェ」
借りたまま私がどこかに飛ばされたら返す機会を失ってしまうかもしれないし、実際そんなことはしない。というかさっきちょっと借りただけでも危ない橋を渡ったのだが、シーザーに腹が立ちすぎてつい……。