あっちへふらふら、こっちへふらふら。
私は不思議なきのみを食べてから、根無し草になった。
場所も時間も関係なく、あちこちに飛ばされる。
それでも平気なのは、帰る場所があるからだ。
随分と騒がしい場所だ。
チップの飛び交う賭博場。
人の笑い声、嘆く声、ジャラジャラと金属がぶつかり合う音。
聴覚だけでなく視覚も騒がしい。どこもかしこも黄金色だ。
色というより、これは本当に黄金かな。とんでもなくピカピカしていて、少しまぶしい。
周りの皆はしっかり礼装を身にまとっていて、ドレスコードがありそうだ。
どう見ても私は浮いている。困ったなあ。
目立つ前に退散しようと出口を探したが、とっくに手遅れであったらしい。
一人の男が近づいてきて、私に親し気に声をかけた。
「久しぶりだな、お嬢さん」
「……うん? んー……」
とても強そうな男だったので、一度見たら忘れそうもないのだが、未来の私の知り合いだろうか?
私の煮え切らない返事を聞き、男は色眼鏡の奥で目を細めた。
「おいおい、まさか忘れたとは言わないだろうな」
「……言ったら怒りますか?」
思わず敬語になってしまった。怒られそうな雰囲気だったからだ。
未だ出会ったことのない人に忘れてしまったのかと問い詰められるとき、私は大抵へらへらして誤魔化すのだが、今回はどうしてか正直に申し訳なさそうにしてしまった。
緑色の髪をオールバックにしたピンクのスーツの男、うーん素晴らしく特徴がある。
会っていたら絶対忘れないだろうと思うのだが、心当たりがない。
「このグラン・テゾーロの地に立っておきながらギルド・テゾーロを知らないとは、面白いジョークだ」
「え、テゾーロくん? デカくな……本当にデカくなったな?」
何のことはない。未来の私の知り合いではなく、今の私もすでに彼を知っているが、しかし今よりとっても若い頃に出会っていたから、成長した姿ではちょっとわからなかっただけであった。
私が思わず敬語を使ってしまった原因もそこにある。
ちゃんと忘れかけていたから気まずかったのだ……忘れていたのではなく変わりすぎていて気づかなかったんだけれど、ほぼ同じことだ。
街で出会ったときには一般的な青年だと思っていたのだが、いつのまにか見上げるほどの大男にまで大きくなっていたとは。でもまあ、人間って成人後でも急にデカくなることあるしなあ、ラッキールウみたいに。あれは食べ過ぎなのだろうか。
グラン・テゾーロはカジノの名前だろうか。名前からして絶対に彼が責任者だろう。
いつのまにか一国の主になって、立派になったなあ。
古くからの友人が、こうして歳を取っているのを見るのは嬉しい。会っていない間に死んでいないことが証明されるから。
「あなたはずっと変わらないな」
「うん。若作りが得意でね」
私の変わらない年齢についてはいつも適当に誤魔化している。詳しく話せることもないし、世の中には不思議がたくさんあるから、ちょっと見た目の変わらない人間がひとりいたところで大騒ぎにはならない。
ああ、サングラスをとってもらえると、しっかり彼だとわかる。
私の感覚では1年ぶりくらいだが、彼の記憶だとどのくらいぶりになるのだろう。
もしこれからの私が、青年期と今の彼の間に会うことがないのだとすれば、彼にとっては私と会うのは20年ぶりとかそのくらいになるだろうか?
時の流れは難しい。どう数えていいかわからないからだ。
私の記憶では、街の賭博場でヤンチャにギャンブルしてたなあ、ってくらいなのだけれど。
経営側の才能もあったのだな。喜ばしいことである。
どれだけの懐かしさをこめればいいのか不明なので、ひとまずのんきに「久しぶり~」と手を振れば、テゾーロは肩をすくめた。
「まったく水臭い。来ると言ってくれれば、最大級のもてなしができたというのに」
「ああ、アポをとるとかそういうのが一番苦手なんだ。ごめんね、このカジノは予約制だった?」
「飛び入り大歓迎だとも」
しかし私はこの場で、どう見ても浮いているのだよな。
飛び入りといっても、私のように
「食事でもどうだ。ここに来るまで何をしていたのか、話を聞かせてくれ」
「……本当に怒ってない? ここって勝手に入っちゃいけない感じだった?」
事前招待制かな。一見様お断り的な、招待状がなければ入れない感じ?
招待客しかいないのならば、そりゃあ私がここにいるだけで怒られてしかるべきことだ。
無断乗船は斬って捨てられてしかたのない罪だが、カジノへの無断参加も似たものかもしれない。
テゾーロは身長差をものともせず私と肩を組んだ。
「怒ってなどいるものか。会いたかった人が自ら会いに来てくれて、喜ばない男はいない」
私はテゾーロが怒っていなさそうなことにほっと胸をなでおろした。
途端肩に置かれた手に、ぐっと力がこめられる。
「どうやってすべての警備を欺いてVIPルームに来たのか、興味はあるがね」
やはり怒っているのでは?