あっちへふらふら、こっちへふらふら。
私は不思議なきのみを食べてから、根無し草になった。
場所も時間も関係なく、あちこちに飛ばされる。
それでも平気なのは、帰る場所があるからだ。
仲間を見つけたので嬉しくなって手をぶんぶん振りながら「おーい」と呼びかけると、大層警戒された。
「お前本物か!?」
「え、なに? 私の偽物がいる?」
乾燥しきった空気を吸って、ようやくここがアラバスタだと気づいた。
ウソップがいるということは麦わらの一味がいるということで、それはつまり絶賛バロックワークスと敵対中という意味である。
だとすれば、ウソップが私を本物か疑う理由にも思い当たる。
「ああ、Mr.2がいるのか。ええと……私はMr.2に触れられていないから、私をコピーすることはできないよ」
「本当かァ!? 嘘っぽいぞ!」
「嘘っぽいかァ」
嘘の専門家であるウソップが言うのなら、そうなのだろう。
ボンクレーの能力を知っているのに触れさせるほど愚かではないからそう言ったが、未来の私が迂闊なことをしていないとも限らない。私友達にはとても甘いからな。ウソップの言にも一理ある。
私は手をチョップの形にして、ウソップに謝った。
「じゃあ証明できん! ワリッ!」
「適当すぎる、本物っぽいな……」
「判断基準どこ?」
怪我をしているわけでもないウソップが、手首に包帯を巻いているのを見た。
十中八九それが味方であることを証明する手がかりなのだろうが、私の記憶には存在しない。
ため息をついて、私は自分の、何にもない手首を撫でた。
「偽物を見破る方法を決めたのなら、私にも教えてくれたら良かったのに」
「決めた時お前もいただろ」
「じゃあ私が全部悪い」
未来の私がその場にいても、今の私にとっては役に立たないのだった。
その時の私はどうするのだろう。もう
これだから私という人間は信用ならないんだ。自分自身にはどれだけ負荷をかけてもいいと思っている。
ウソップは少し引いた様子だった。
「おま……忘れっぽいとは言ってたが、ここまでとは」
「ああ。できる限り誤魔化しているだけで、実はここまで忘れっぽいんだ」
知ったかぶりをし続けている人生だ。
知っているような知らないようなあいまいな態度で、できる限り誰をも傷つけないように振る舞っている。あるいは自分自身が傷つかぬように。
失望させたかな、と悲しい気持ちになったが、それも笑ってごまかした。
「いいよ。悩ませて悪いね。会えて嬉しかったが、今の私ではきみを困らせてしまう。出直そう。次会うときまでに、自分を証明する方法についてよく考えてくるとも」
「いやそこまで考えんでいい」
ウソップは言ったが、そうもいかない。
ボンちゃんはいずれ友達になることのできるおと……オカマだが、毎回そうとも限らないのだ。
なにがしかの能力による私の偽物が現れれば、皆を混乱させることになるだろう。
私なんていつも突然現れるのだから、その突然現れる私に敵が化け、ふと船に潜入でもしていたらたまったものではない。
「お前が本物だってんなら、あのときのことを覚えているよな?」
「だから、忘れっぽいから覚えてないかもしれないんだって……」
事前に決めておいた、本物の仲間であることを示す合図を知らない私を、偽物と簡単に切り捨てれば済む話だ。しかしウソップはそれをせず、自ら私を試している。
頼むから覚えていてくれよ、と天に祈っているとウソップが言った。
「ウイスキーピークでお前が巨人に踏まれても何ともなかった逸話を忘れたとは言わせねえ!」
「私そんな丈夫なの!? 嘘だろ!?」
「やっぱ本物だな」
「判断基準どこ?」
覚えていなかったのに本物認定されるとは、これいかに。
「ここで時間食ってるわけにいかねえんだ、あっちでチョッパーが戦ってるみたいだからよ! お前も行くぞ!」
「え、本当にあれで本人確認終わりでいいのか!? 私、巨人に踏まれたら痛がると思うけど大丈夫か!?」
「大丈夫だ!」
大丈夫なのか!? ウソップがいいならいいのか!?
カルガモに乗って走るウソップに並走する。
「さすがにそこまで人間離れしてると思ってねえ!」
私はウソップの言葉にしばらく考えて、言い訳をした。
「ちゃんと心の準備してたら巨人に踏まれても痛くないと思うけど、それはそれで大丈夫か!?」
「頼もしいからオッケーだ!」
……じゃあいいか!
あの、ちゃんと覇気とか使ったら踏まれても大丈夫だと思う。
人間離れと言われたらそれも当然だ。しかしウソップはオッケーと言ってくれた。
安心してついて行こう。彼ほど疑り深いやつは、敵も早々騙せないだろう。
私がウソップ流の本人確認を潜り抜けたのなら、大丈夫だと信じるとも。