あっちへふらふら、こっちへふらふら。
私は不思議なきのみを食べてから、根無し草になった。
場所も時間も関係なく、あちこちに飛ばされる。
それでも平気なのは、帰る場所があるからだ。
……やばい、寝てた!
目を覚ましてすぐ手ごろな細長いものを探して、適当に掴む。
なんとなく剣のように構えてから、なぜそんなことをしたのだっけと首を傾げた。
「お前、そんな傷で起き上がるな!」
怒号が飛んできて、ようやく人がいたことに気がついた。
というかよく見たらチョッパーだったので、人ではなくトナカイだった。
私は持っていたものを下ろして、それがようやくモップであったことを知る。
「あれだけの失血があって、生きてる方が不思議なんだぞ!」
ああ、全然頭が回らないのはそれが原因か。
チョッパーからモップをもぎ取られ、私はさっきまで寝ていたらしいベッドに腰かけた。
意識を失う直前まで戦場にいたので、つい今もまだ戦わなければならないと思ってしまった。
チョッパーがここにいるというのなら、私は今安全なのだな。
「ありゃ」
気を抜くと、そのまま後ろに倒れてしまった。
腰かけていたのがベッドだったので、変な角度でマットレスに沈んだだけで済んだが、それでもチョッパーが慌てる。
私を正しい位置でベッドに寝かせ、傷口が開いていないか確認しながら、チョッパーが言った。
「とにかく動くな。なにがあったらこんな傷ができるんだ」
「それはね……」
「安静にしろ、喋るな!」
聞かれたから答えようとしたのだが、ドクターストップがかかったために押し黙る。
部屋の扉が開いて、女性がひとり顔をのぞかせた。ああ、ここってあそこで、まだそういう時間軸。
「ヒーッヒッヒッヒ、ハッピーかい?」
くれはの質問に、私は無言で、右の親指を立てた。
「まったくアンタは相変わらずだねェ」
ピースして健康をアピールしたが、くれはが言いたかったのは私のしぶとさについてではなかったようだ。
「ほら、受け取んな」
くれはが投げてきたものをキャッチすると、コイン一枚だった。
「治療費の
「ああ。毎度手持ちが少なくてごめんね」
これはさすがに申し訳なくて、半笑いで謝る。
世界最高峰の医療を受けておいて、ジュース一本買えるかどうかの金額で済ませてしまうとは。
たまたま手持ちが少なかったのだな――まあ持ってない時の方が多いので、たまたまと言うには厳しいか。
荷物が多いと手がふさがる。大金も私の足を引っ張るだけだ。
しかしこうして医療費をぼったくることになるのなら、もうちょっと持っておいたほうが良いのかな。
特に大戦乱の前には……といっても、私はいつ大きな戦争に巻き込まれるのかわからない。
「若さの秘訣かい?」
「聞いてないよ」
くれはとチョッパーのやり取りも慣れたものだ。
「ドクトリーヌの知り合いなのか?」
「常連だよ」
チョッパーの質問に、私が答える前にくれはが答えた。
私は肩をすくめて、コインをポケットにしまう。
「大親友って紹介してくれよ」
「バカだね。だったら怪我してくるんじゃないよ!」
「したくてしているわけではないんだからな、本当に」
怪我をしているときに安心できる場所に移動しがちなのはいつでもそうだが、その中でも特に重症だとくれはのところに飛びやすい。
そうしなければ死ぬということが、悪魔の実にもわかっているのだろう。
この能力によって死にかけているのと同じくらいの頻度で、この能力に命を助けられている。
まあこの能力がなければそもそもこれほどの高頻度で死にかけることはないので、やっぱりこの能力嫌いだ、私。
くれははチョッパーを顎で示した。
「こいつに会うのは初めてだったかい?」
「いや。いつもお世話になっているさ……」
万感の想いをこめて呟くと、くれははヒッヒと笑って酒をあおった。
彼女は私の能力について、なんとなく知っている数少ない友人だ。
流石に100年を超える付き合いをしていれば何も言わなくてもわかられてしまう。
言葉にしないことで甘えているのは私の方だな。
秘密を話さずとも察してくれて、いつも感謝している。
くれはがチョッパーと共にいる時間軸にやってくるのは、今日が初めてのことである。
私は青鼻のトナカイを見て、親しげに言った。
「きみのことは知ってるよ。トニートニー・チョッパーくんだろう」
「は? な、なんでおれの名前……」
「私は時に、知っているはずのことを知らない忘れっぽさがあるが、知らないはずのことを知っている物知りなときがある。今日は後者だったということだ」
今日がチョッパーにとって、私との初対面だったのか。
私にとって、チョッパーとの初対面のときを思い出す――彼がはじめての主治医だ。くれはでさえ、そうではない。私の帰る場所にいてくれる医者は、これからもチョッパーだけだ。
「私はいつか、きみの名前を尋ねるだろう。そのときは、何も考えずにひとまず教えてくれると助かるよ」
「……脳機能障害か?」
「うーん! 似たようなもんだと思っといてくれ!」
私の