ふらふら   作:九条空

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ロビン

 あっちへふらふら、こっちへふらふら。

 私は不思議なきのみを食べてから、根無し草になった。

 

 場所も時間も関係なく、あちこちに飛ばされる。

 それでも平気なのは、帰る場所があるからだ。

 

 やけに人が多く、そしてにぎやかだった。

 皆が楽しそうにしていて、たくさんの屋台が出ている。

 私は屋台のひとつに近づいて、忙しそうに働く男に尋ねた。

 

「なんのお祭り?」

「決まってるだろ、デービーバックファイトだ!」

 

 デービー・ジョーンズにちなんで行われる海賊同士のゲーム、デービーバックファイト。

 昔は随分流行っていた気がするが、大海賊時代になってからはそれほど見かけない。

 もっと血なまぐさい海賊が多いからだ。暴力ですべてを解決するのが海賊のスタンダードといえる。

 

「われらフォクシー海賊団、船長は最終ラウンドで920戦無敗だぜ!」

「そりゃすごい」

 

 ゲームで諸々の勝敗を決め、誰も死なないというのなら良いことだ。

 ドレスローザのコロシアムは血なまぐさくて観戦できなかったが、ここでなら私も客として観戦できるかもしれないな。

 

「今回の相手は超大物、なんと麦わらの一味だぜ」

 

 むせた。

 

「大丈夫か? ジュース飲むか、ココナツジュース」

「ありがとう……」

 

 手渡されたそれを受け取って、ひとまず飲んだ。おいしい。ちゃんとココナツの殻に穴をあけてストローを刺す本格仕様だ。

 

 ……まさか、ゲームの対戦相手が私の海賊団とは。まったく他人事ではなかった。

 デービーバックファイトは殺し合いではないという時点で私の好みだが、参加するとなると船員や船の旗を奪われるリスクがあるのでいただけない。

 なにしろ私も船員だ。参加していなかったとしても奪われる可能性があるわけで。私自身がとられなかったとしても、皆がいなくなってしまうかもしれない。

 のんびり遊んでいるわけにはいかなくなってしまったな。

 

 私はココナツジュースを飲みながら皆を探した。

 いちばんに見つけたのはロビンだ。手を振りながら近寄る。

 

「あ、いたいた。今どうなってる? 仲間はみんないるか?」

「チョッパーが取られたわ」

「……」

 

 私は思わず無言になってしまった。

 チョッパーが私の最初で最後の主治医だと思っていたが、こんな形で失うことになるかもしれないのか?

 私はくれはから大事なチョッパーを任されたというのに、ここでその責任を果たすことができなくなるというのか?

 ふと、手が濡れていることに気づく。ジュースの入っていたココナツの殻を、うっかり握りつぶしてしまったようだ。

 ほとんど飲んでしまっていてよかった。全身甘い臭いになるところだ。

 手についたジュースをなめとりながら、少々冷静になる。こうなってしまったのはもう仕方がない。これから私に何ができるかを考えるしかないのだ。

 

「デービーバックファイトは人死にが出ないから良いゲームだと思っていたが、主張を変更するよ。……もし最後まで戦って仲間が欠けたままなら、私大暴れするぞ。海賊同士の殺し合いで敵の海賊船から捕虜をとっても、海賊だから問題ないよな?」

 

 結論としては非常に野蛮だが、私にできることは暴れることくらいだ。

 デービーバックファイトに参加するメンバーはもう決定済みで、私が介入する隙はない。

 必然的に、やれることは場外戦闘になる。一応神聖なゲームというし、終わるまでは待とうかな。

 

「船長がどう言うかはわからないわね」

 

 ロビンがそう言うので、私は考えた。

 たしかに、真剣勝負で負けたのならば、ルフィは結果をそのまま受け取るかもしれない。

 なにか騙されて、とか、ルールの穴をつかれて、とかいう展開があれば不服だし、私が暴れても問題はないだろう。そもそも搦手を使われないのならば、ルフィが負けるわけはない、と信じられるが。

 たとえ相手が920戦無敗の男であっても、ルフィなら勝てると。

 でもルフィは催眠とかには弱いし、素直なので詐欺にも弱いし。負ける未来も良く見える。

 

「……よし。じゃあルフィの言葉を聞く前に全員ぶっ倒そう。ちょっと離れたところにいるから、そういう感じになったら合図くれるか? こう、横なぎに全部斬る」

「フフフ。心配性ね」

 

 私が手のひらを地面と平行にして、横に大きくチョップをしてみせると、ロビンは笑ったが「構わないわ」と快諾した。

 

「きみも心配性だ」

「初戦は私も参加したのよ」

 

 つまり、ロビンは負けてしまった責任を感じているということか。

 今戦っているゾロとサンジも負けてしまえばその時点で、最終戦でルフィが勝ったとしても、仲間は1人欠けたままということになる。今は彼らを信じるしかない。……しかないんだけれど、やっぱりそれだけだとそわそわしてしまうのだ。抜刀の準備くらいさせてくれ。

 

「船はどっちにある? 巻き込まないようにする」

「船員は巻き込んでもいいのかしら」

「なんとかするだろ。信じてるぜ」

 

 そういう間にも、ゾロとサンジが一時的に連携をとり、勝利を収めたのが見える。

 このままチョッパーを取り戻せるだろうが、最終戦でどうなるか不明だ。

 頼むから私の出番は回ってこないで欲しいし、もし回ってくることになるのならその時まではどこにも飛ばないでくれ、と願うしかない。

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