あっちへふらふら、こっちへふらふら。
私は不思議なきのみを食べてから、根無し草になった。
場所も時間も関係なく、あちこちに飛ばされる。
それでも平気なのは、帰る場所があるからだ。
上空に飛ばされたらしい。
私はのんきに両手をぽっけにつっこみながら落下した。
しかしそこまでの高度はなく、すぐ地面にたどり着きそうだ――地面というか船かあれは?
甲板らしき場所で、でっかい鉄を纏った男が、でっかい鉄を打ち鳴らし、それを火打石にして放火しているのが下に見える――どういう状況!?
着地地点があまりにもちょうどその男の真上だったので、「キケーン!」と叫んでいる頭にかかと落とししてしまった。
甲板にひび割れが入るほどの衝撃で男が沈んだ後、私はその男の上に無事着地した。
上のボタンを押して音を止める目覚まし時計みたいだったな今――とか考えてからハッとした。
ルフィの気配がする。そういう時間軸だった。
「……しまった、反射的に蹴ってしまったがこれは敵か!?」
ここは相変わらず不思議な海で、我が船長は誰とでも仲良くなる。
頭頂部に真珠をつけた男と親友になっていても不思議ではないのにうっかりしていた。
「敵だ~!」
「よかった~!」
遠くで戦っているルフィから、大声で返事が返ってきた。
私も大きな声で安堵の気持ちを伝える。
「おれの見間違えじゃなかったらあの女、空から降ってこなかったか……!?」
「おれにもそう見えたぜ……」
コック2人が目を擦りながら私を見ている。大丈夫だ、幻覚ではない。
燃え広がりそうな炎を、蹴りで生み出した風で消火した。
普通風を送り込んだら火はより燃えるものだが、そういうのを超越した風速なら消えるのだ。
そういうものなのだ、誕生日のケーキに立つロウソクの火と同じ原理だ。
「ここがどこかは一旦置くか。どれが敵だ~! 逆か~? 敵じゃない人は、どれだ~!」
「コック帽被ってんのは敵じゃねえぞ~!」
「了解した~!」
ルフィにコックと言われて思い出した、ここは海上レストランバラティエだ。
随分崩壊しかけているので一瞬わからなかった。壊れる前に飛ばしてくれれば良いのに。
「麦わらの一味の私が相手になるぞ~! 死にたいやつだけ、かかってこ〜い!」
船長との大声会話の名残で、私にしては珍しく、大声で啖呵をきってみせた。
しかし意外と敵はかかってこなかった。みんな生きたくてなにより。
「お。いたか死にたいやつ」
トンファーの先に鉄球が付いたような不思議な武器を持った男だ。
目の下にとても濃いクマがある。寝不足かな。
悪魔の実の能力者ではなさそうだから海の上に蹴っ飛ばしても問題ないかな、と思ったところで、間に入ってきたのはサンジだ。
「レディの手を煩わせる訳にはいきません」
「おお〜」
一応私は彼を知っているが、彼は私を知っているのだったっけな。
私は一応聞いておいた。
「コック帽被ってないけど敵?」
「女性に手を上げることは、死んでもしません」
「じゃあ私が男だった場合は敵?」
「ごたごた言ってんじゃねえ!」
私とサンジがのんきなやりとりをしていると、しびれを切らした男が殴りかかってきた。
鉄球が降りかかってきたので、後方に跳んで避ける。
「ここは危ないので避難を!」
「まあ、戦ってくれるってんならありがたく任せよう。気をつけてね」
「心配してくださるとは、なんてお優しい方なんだ!」
サンジの女性への甘々対応も、会って間もない頃だからかなんだか調子が違うような気がする。
さて、こう見えて私は今回も重症だ。
なぜ真珠の男を蹴り倒し、蹴りの風圧で消火を行ったかといえば――両腕を骨折しているからである。
しかもこれは未処置だ。ここに飛ばされてくるまで、医者にかかっている時間もなかったのだ。
両腕が変な方向にぷらぷらしているのがバレないよう、両手をポケットにつっこんでいるのだ。
その態度がなめていると思われるのもなんだかなだし。
ここは大人しくサンジに任せよう。
他にやれそうなことあるかな、と周囲を見渡す。
味方を守ることくらいだろうか。
甲板をタンッと踏み込んで、一歩でコック帽をかぶった人たちのところまで跳んだ。
「敵と戦うのはあっちに任せたから、みんなを守るねー」
なにか危ないことが起きるまではルフィとサンジの動向を見守るか、と眺めようとしたところ制止された。
ゼフだ。赫足の――もう義足だが、私は彼が両足で立っていた頃を知っている。
「ガキ、手ェ出しな」
「え、嫌だ」
彼はたぶん私を覚えている。ここからそうだな――たぶん20年くらい前にも、ガキと呼ばれた。
20年間もガキで居続けられる人間は早々いないというのに、やっぱり今でも彼は私をそう呼ぶのだな。
私の拒否を無視して、ゼフは勝手に私の両腕を掴んでポケットから出した。
「いたたたたた! 容赦ねえ! バカ!」
骨という支えを失った腕が、重力に従ってぷらぷらと頼りなく揺れている。
あんまり揺らすと折れた骨の尖った先端が、肉を内側から傷つけるんだよなこれ。
「ひえーっ。バキバキに折れてやがる」
ほら、あまりの骨折具合に引かれてるじゃん。
恨めし気にゼフを見るが、彼は気にせずコック2人を叱りつけた。
「なにぼさっとしてやがる。とっとと救急箱と添え木になるもん持ってこい!」
「「はい!」」
ゼフは私の折れた腕を持ったまま、呆れたようにため息をついた。
「まだこんな無茶してやがるのか」
「ゼフに言われたくないなー」
足をうんたら……した男に言われたくねえ。お前の無茶を超えられねえよ。
相変わらずゼフは応急処置が上手で、折れた椅子の足と一緒に腕を包帯でぐるぐる巻かれた。
見た目が悪いが仕方あるまい。怪我をした私が悪いのだ。
「なにしたらこうなる」
「高速で突っ込んでくるすっごいでっかい鉄の塊を両手で止めようとして……?」
人生長いといろいろあるからね、高速で突っ込んでくるすっごいでっかい鉄の塊を両手で止めようとすることの一度や二度あるものなのだ。