あっちへふらふら、こっちへふらふら。
私は不思議なきのみを食べてから、根無し草になった。
場所も時間も関係なく、あちこちに飛ばされる。
それでも平気なのは、帰る場所があるからだ。
靴底が甲板に当たる。
馴染みの船、レッドフォースだ。
見渡す限り水平線、船はどこかに向かって航海中である。
停泊中の彼らに会うことはよくあっても、船の上で会うのは久しぶりかもしれないな。
船の中からにぎやかな声が聞こえてくるあたり、彼ら宴会でもやってんのかな。
相変わらず隙あらば宴をやる男たちだ。
私の方もある意味相変わらずだ。今日はちょっとお腹に小さな穴が開いていて、酒を飲める状況でもない。
もう少し彼らのテンションが下がってから挨拶しに行くか……二日酔い以外で下がることがあるかな。
船べりに腰かけて波を眺めていると、とたとた足音がして小さな影が近づいてきた。
私は一瞬それをクラバウターマンかと思ったが、しっかり目をこすって確認すると、妖精にしては輪郭がしっかりしている。
「おねえさん、だれ?」
私は瞬時にその子供を優しく抱え上げ、船の中を走った。
そのままの勢いで、人が集まる部屋の扉を蹴り破って叫ぶ。
「おい誰だ幼児を誘拐してきたのはァ!」
ギャハハと大爆笑が起きる。私は女の子を片手で支え直して、一番怪しい男を指さした。
「ベックマンの隠し子か!?」
「だーっはっは! 疑われてるぞベック!」
「髪色からして、いちばんにお頭を疑うもんだと思うがな」
改めてよく見れば、女児の髪色は赤と白のツートンカラーだった。
そりゃあこの海賊団の名前は赤髪海賊団なのだから、その船に乗っている半分赤髪の女の子は、シャンクスの子と思うのが普通なのだろう。だが私はないないと首を横に振った。
「シャンクスには似てなさすぎる。ちょっとかわいすぎるから」
「なんだと!? おれに似てかわいいだろうが、ウタは!?」
「誰との子供だよ、ちゃんと慰謝料払ったのか?」
「お頭、信用ねェーッ! ぎゃははは!」
全員のノリからいって、船員の誰とも血のつながりはないのだろう。
誰の娘、というか、みんなの娘という感じか。
船に乗ることになった経緯は不明だが、この子の馴染みようからして、一時的に乗っているわけでもない。
こいつらにまともな子育てができるのか。
私は腕の中のウタを下ろして立たせ、自分も屈んで目線を合わせる。彼女はきょとんと私の目を見た。
「大丈夫? ここでの暮らしに不自由はない? ……ちょっと色んな人との年齢差とか、生きる時代が変わっていいんだったら、私と一緒に里親見つけに行こうか?」
「信用ないのは全員だったな」
ホンゴウが呟いたが、まさにそうである。彼には自覚があるだけマシだった。
戦闘能力だの生存力だのに関しては彼らほどの信用のある男はいないが、それ以外に関してはよろしくない。適当過ぎるからだ。
子供、しかも女の子だ。こんな男くさい連中と一緒にまともに育つことができるだろうか。
ウタからの返事を真剣に待つ。ちょっとでも不満が出たら私はこの子を攫って行くからな。
やはりきょとんとウタは私を見上げ、こう聞いた。
「おねえさん、ウタのママ?」
「だぁーっははは! おい、認知してやれよ!」
「こいつらロクでもねえな」
腹を抱えて笑う連中をじっとり睨む。デリカシーのなさは海賊なだけある。
私はできる限り優しい顔を意識して――今は意識しないと怖い顔になるからだ――ウタに言った。
「ママじゃないよ。だが友人が面倒を見ている子として、きみのことを心配している。この船に乗っているのが嫌になったらいつでも言ってくれ、私が連れ出そう」
ウタが返事をする前にシャンクスが割り込んできて、背中にウタを隠した。
「ウタは嫁にやらねーぞ!」
「なんで嫁なんだよ」
「オメーにもやらねえ!」
「そっちを先に言え」
「ウタを奪うならおれを倒してからにしろー!」
私は少し考えた。シャンクスと戦ったことってないな。
ミホークと実力がトントンなのだとすれば、私にもちょっとしたチャンスくらいはあるかな。
斬るとすればどこか、シャンクスの体を目でなぞっていると、彼は自分の体を抱きしめた。
「こいつ目が本気だ……」
「ああ。私に寝首をかかれないようにウタの面倒を見なよ」
搦め手使っていいならもっと勝てると思う。シャンクスはかなりうっかりしているところがあるから。
友人の親切として事前に注意してあげた。いざというときは寝首もかくぞという宣言である。
それを聞いたライム・ジュースが、ジョッキを掲げて言った。
「お頭との冒険もここまでか。献杯」
「なんで諦めムードなんだよ! おれは負けねえぞ!」
「美女に弱いからなアンタ」
「それは否定しねえけど!」
否定しとけよ。ウタの前だろう。
この船でウタが幸せなのだったら、私だってなにもしないのだ。
大体四皇と進んで斬り結びたいわけなどない。私は剣豪を目指していないのだ。
まさか真面目にシャンクスを倒す方法を考える日が来るとは思っていなかった。
「シャンクスの弱点が色気だったとして、私も色仕掛けは苦手だからな。しょうがないからいざとなったらちゃんとやろう」
「何を!?」
私は剣を抜くジェスチャーをした。シャンクスはパン、と両手を打った。
「頼む、お色気の方で!」
「減点」
「卑怯だぞ! 父親だって男だろうが!」
「そうだな」
この感じだと他の船員がシャンクスを助太刀することはないだろうし、まあ……勝てるか。
里親に出せそうな町を脳内でピックアップする。
ウタの将来の夢が何かによるな……医者ならあのへんだし、料理人ならあのへんだし……。
「今日のところは見逃すが、次来たときウタが笑ってなかったら覚悟しろよ」
私には、友人が最低な親にならないように見張る責任がある。