あっちへふらふら、こっちへふらふら。
私は不思議なきのみを食べてから、根無し草になった。
場所も時間も関係なく、あちこちに飛ばされる。
それでも平気なのは、帰る場所があるからだ。
寒い。
吹雪に身を凍らされないよう腕をさすりながら周囲を見渡す。
目立つ山が見えたので、ここがドラム王国であることがわかった。
ああ、もう王国ではないかもしれないんだったな。
名前は何になったのだっけ、ドラム共和国?
人里の気配をたどって歩いていると、そこにたどり着く前に向こうから人がやってくるのが見えた。
一瞬ラパーンかと思ったが、あのオレンジのハットには覚えがある。
両手を振って「おーい」と声をかけると向こうもこちらに気づき、ぎょっとした。
「うおっ、そんな薄着じゃ死ぬぞ!?」
「ええ? エースに言われたくないが」
「おれでも一応着てんだぞ?」
「たしかに」
ぺらぺらのマント一枚だったが、普段上半身裸の男なので充分着込んでいると言えよう。
対する私は、普段から夏にも冬にも対応するために厚着でも薄着でもない。
そのうえ、今日はついさっきまでの戦いのおかげで、服が結構ビリビリ破れてへそ出しスタイルだ。
不本意ながらいつもより薄着である。冬島に飛ばされたのは運が悪かったな。
エースがマントを貸してくれようとするのでそれを手で制する。
「いやいいよ、見てるこっちが寒いて」
「それはお前に言われたくねえよ。じゃあこうするか」
エースは燃えた。周囲の雪がみるみるとけていく。
私はエースに手をかざして暖を取った。
「あったけ~」
今ものすごくメラメラの実がうらやましい。超最高の能力じゃん。
ふと、エースが真剣な顔で私に尋ねた。
「お前がいつ見てもボロボロなのって花嫁修業か?」
意味がわからなかったので、私は聞き返した。
「もう1回言ってくれるか?」
「花嫁修業してんのか?」
いちばん意味のわからなかった部分だけを復唱された。
「なぜそう思ったのだろうか?」
「だからよ、昔言ってただろ、好みのタイプ」
「……なんと言ったかなあ」
「覚えてねえのかよ!」
覚えてなかった。
私は時間軸を右往左往しているせいで記憶が非常にあいまいだし、自分の発言については特に覚えていないのだ。自分がなんと言ったかより、友人がなんと言ったかを覚えておきたい。
エースは頭を抱えつつ、かつての私の発言を教えてくれた。
「自分のことボコボコにする男が好きって」
「本当に私が言ったのか? すごい趣味じゃん」
「いや、ボコボコにできる男だったか?」
「自分に勝てることを結婚の条件にする戦闘民族でもないが……」
エースと共に、うーん? と首を傾げる。
真偽は不明だ。両者記憶があいまいだからである。
エースにとっても昔のことだし、私にとっても昔のことだ。
大事なのは今のことだな、と切り替えた私が言う。
「男女に関わらず強い方が好きだね。死んでほしくないから」
恋愛は関係なくそう思っている。仲の良い人には死んでほしくない。
「だが結婚する気はないな。夫と離れ離れになるのは悲しいだろう」
「離れ離れになる前提なのかよ」
「そりゃあ……一秒も離れないか、ずうっと離れているかの二択になるな。前者は愛が重すぎるし私も嫌だ」
「極端だなァ」
私は触れているものなら一緒に
そうでないなら、いつでも全裸でどこかに登場する羽目になっているだろう。
生きた人間と一緒に飛ぶと不都合が多すぎるのでやらないし、そうならないように人と触れ合う時間は短くあるように気をつけている。
生きた人間を連れて行ってしまうと、その人を元いた時間に戻すのが、途方に暮れるほど大変なのだ。
もう二度とやらんと思ったので、やらない。
「でも今ボロボロなのとは全く関係ないよ。これは普通にガープと殴り合いの喧嘩になっただけだ」
「なにやってんだよいい歳して」
それは私に言っているのか、ガープに言っているのかどっちだ。