あっちへふらふら、こっちへふらふら。
私は不思議なきのみを食べてから、根無し草になった。
場所も時間も関係なく、あちこちに飛ばされる。
それでも平気なのは、帰る場所があるからだ。
ついさっきまでと違う土地を踏んだ瞬間、目の前に馴染みの顔があったので私は嬉しくなった。
「あなたは『久しぶりだねカタクリくん、随分大きくなって』と言う」
「久しぶりだねカタクリくん、随分大きくなって……ハッ!」
大きくなったどころか、私よりはるかに見聞色の覇気を使いこなすようになって……。
今となっては、私より余程未来予知が上手いだろう。私のは過去が勝手に未来になったりするだけだ。それも記憶力がないので、未来の出来事として覚えておくことがあまりできない。
ペロスペローよりよほど大きい彼は、わざわざしゃがんで目線を合わせ、私の首をいたわってくれた。
「ママが会いたがっていた。できれば今すぐ行ってやってくれ」
「親孝行まで……」
なんとできた息子なのだろう。
甘い空気からしてここは万国だが街のはずれで、リンリンの住む城は随分遠くに見える。
もしかすると未来を見たカタクリくんは、私のためにこのあたりで待っていてくれたのかもしれない。
「リンリン怒ってなかった?」
「……」
無言やめてよ。怒ってんじゃんかよ。
これは
この時間にいるリンリンの、直前に会った私がリンリンの機嫌を損ねてはいないか、という確認と、これから会いに行くリンリンは怒らないか、という確認である。
リンリンの癇癪はいつものことなのだが、私がひどく怒らせてしまうこともあるのでそう尋ねたのだ。
会って嬉しいと言ってくれるときと、いなくなるくらいならと殺そうとしてくるときがあって困る。
まあその、殺したいほど好きだということとしてポジティブに受け取っているが、これから彼女に会いに行って、行われるのがお茶会なのか殺し合いなのかでこちらも心の準備が随分違ってくる。
「五分五分だ」
「五分五分か~」
私の対応次第でどちらの未来にもなり得る、というカタクリくんのお墨付きであった。
「じゃあ会いに行こう」
「いいのか」
「いいとも」
五分でお茶会ができるのなら十分だ。
別に殺し合いになったところで、元気であることが確認できるのならそれでよい。
私は友人が生きているのがいちばん嬉しいのだ。たとえその友人に私の死を望まれていようがな。
リンリンのところに向かう道中、私はカタクリくんに念を押した。
ちなみにカタクリくんと私の歩幅は約5倍ほど違うが、彼はきちんと私に合わせてくれる。様々な男たちに見習ってほしい紳士っぷりである。弟や妹に大人気な理由がわかるというものだ。
「私がリンリンを殺すことはないから、リンリンに加勢しないでね。きみも一緒に相手するってなったら私負けちゃうよ」
「……ママ次第だ」
「ええ? 嘘、リンリンそんなガチでかかってくることある?」
ビッグマム海賊団において、リンリンの次に懸賞金の高い男を私に差し向けてくることがあるだろうか。それほど本気で私を殺しにかかってくるとすれば、癇癪にしては計画性がありすぎるのだけれど。
カタクリくんは指を一本立てた。
「1%くらいあるってことか!?」
「一割だ」
結構あるな!!
「あなたの勝率に限ってはよく見えない」
「どうせ決着つく前に逃げることになっちゃうだろうしな」
私が友人とその子供にまともに手を出せないとなると、ずっとジリ貧の戦いになるだろう。そういううじうじした戦場には、経験上あまり長くいられない。
悪魔の実的にテンションの上がる戦いではないのかもしれないな。私も早めに脱出したいしそれで良い。
カタクリくんは頷いて、私の逃走を肯定した。
「ああ。ぜひそうしてくれ」
「いいの? 癇癪起こしたリンリンを置いてっちゃうかもしれないが」
私は癇癪を起こすリンリンの相手に慣れているが、それは必ずなだめられるという意味ではない。
暴れていてもかわいいねと言えるだけだ。
目の前で誰かが殺されそうになっているのでもなければ、わざわざリンリンを止めずに眺めることもある。私にとってはお菓子の家を壊すリンリン、メルヘンだなァで済ませてしまうことでも、この国で暮らす人々にとってはもっと重大だろう。お菓子の家で暮らしているのだから。
「暴れるママが残るか、機嫌のいいママが残るか、それも五分五分だ。どちらにせよ、おれはママの友人を殺したくはない」
「ほんとリンリンったらいい息子を持って……」
息子褒めちぎるモードでリンリンに会ったら、リンリンは殺戮モードに入ってしまったので殺し合いになった。いや、私は彼女を殺そうと思っていないので殺し合いではないのだが。
ごめん、息子より自分を見てほしいという乙女心をわかってあげられなくて。
ママになろうがいつまでもリンリンは変わらなくて、いいんだか悪いんだか……当然好きではあるとも。
欠点含めて愛おしい友人だ。