ふらふら   作:九条空

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テゾーロ

 あっちへふらふら、こっちへふらふら。

 私は不思議なきのみを食べてから、根無し草になった。

 

 場所も時間も関係なく、あちこちに飛ばされる。

 それでも平気なのは、帰る場所があるからだ。

 

 テゾーロは呆れたようにため息をつきながらも笑っていた。

 

「まったくあなたときたら、いつでも突然現れる」

「そういう私は嫌いかな」

「いいや。燃えるね」

 

 なにがどう燃えているのか? 詳細を尋ねるのはやめた。ロクな答えが返ってこなさそうである。

 お金持ちや権力者ほど、暇を持て余して変なゲームに熱中する傾向があるのだよな。

 私で遊ばれても困るよ。それほど付き合いが良くないのだ、私の悪魔の実の能力は。

 

「何度黄金で着飾っても、あなたはいつの間にかこの手をすり抜けていく」

「なんだテゾーロくん、まだ私を掴んでもないのに諦めるのか?」

 

 ……いっけねえ! つい反射的に煽ってしまった。

 これで困るのは私である。

 

「私にも私をひとところに留めておくことができないのだから、きみにも無理だろうね」

 

 できるもんならやってみてくれ、といつもの私なら言うだろうが、本当にやられたら困るので黙った。

 もしかしたらできるかもしれないと思わせるだけの力が彼にはある。

 

 何度かこのグラン・テゾーロを訪れたが、ここはカジノではなく、カジノを内包する、とてつもなく大きな船らしい。

 そしてただの船どころか、船の上にある国家なのだった。

 カジノ経営者という意味で彼を一国の主と称したが、本当に国を持っていたらしい。すごいね。

 ここでは海軍ですら海賊に手を出せない、世界政府公認の中立地帯であるという。そのコンセプトは非常に好みだ。

 海兵と仲良くできるチャンスだと思ってうろうろしていたのだが、その前にうっかりタナカさんに捕まってしまった。

 

 タナカさんはヌケヌケの実の能力者で、壁などをすり抜けることができる。

 グラン・テゾーロのVIPルームにはそもそも入口が存在しておらず、彼の手を借りなければ誰も入ることができない。うん、前回私はそんな場所にしれっと紛れ込んでしまったのである。

 

 タナカさんに触れていると、その人間も壁をすり抜けることができるので――その体験が面白くてはしゃぎながらついて行ってしまったら、こうしてテゾーロくんの前まで来てしまった。

 流石警備担当とはいえ、世界有数のエンターテイメント都市でスタッフをやっているだけあるタナカさんだ。うっかり楽しんでしまったぜ。

 

 最近のテゾーロくんは支配が趣味らしい。人も黄金も、すべて自分のものにしたいようだ。

 それが意外とできてしまっているというのがすごい。世界ってそう都合よくいかないからな。

 そして現時点で順風満帆な彼は、私をものにできないのが不満なようである。

 あまりわがままを言わないで欲しい。

 充分持っている側の人間なのだから、私ひとりくらい持っていなくたって平気だろ。

 

「できるならやってくれて構わないよ。リンリンには無理だったからね」

 

 できるもんならやってみろ、とやっぱり言うことにした。

 彼のようなタイプは、一回やってみて失敗しないと納得しないと思ったからだ。

 

「四皇に狙われてその余裕とは! 恐れ入るよ」

「四皇以前に友人だから」

 

 何番目の息子だったかはあいかわらず記憶にないが、ブクブクの実の書籍人間、モンドールに本の中に入れてもらったことがある。

 リンリンの珍獣好きに付き合い、モンドールは本の中に様々な生き物を閉じ込めている。当然人間も含まれるそのコレクションの一環として、私もお邪魔させてもらえるかと、思ったのだがなあ。

 たまに友達とその子供たちが会いに来てくれるのなら、ずっとそこで暮らすのも悪くないと、正直思っていたのだけれど――私の悪魔の実の方が、一枚上手であったようだ。

 本の中の異空間だが、私は空間ごと飛び越えてしまうことができるので、やっぱりいつも通り、気がつけば本の中ではない別の場所に飛んでいた。

 

 モンドールは本の中を居心地のいい空間にしてくれていたので、また入りたいなあとは思うけれど。

 でもやっぱり、私には帰る場所がある。

 そう思うと、ページの中でゆっくりするわけにはいかなかった。

 あれからリンリンが癇癪を起していなければいいな。無理そう。

 次に会えたら、モンドールくんに菓子折り渡して謝るべきかもしれない。

 しかし、万国出身者に渡す菓子折りはハードルが高すぎる。万国で調達するしかない?

 

「きみも一国の主である以前に友人だ。できるだけ長く一緒にいたいと思ってくれるのは嬉しいことさ……」

 

 私だってそう思っている。友達と離れるのはつらい。

 次にいつ会えるかわからないことも、友人が危機に陥ったとして助けに行けるかわからないことも。

 私は両腕を上げて、降参のポーズを取った。

 

「だからわざわざ手錠とかつけなくていいと思わないか? 正直あまり意味はないよ」

 

 前と同じように、私は黄金で手を縛られていた。

 私の獲物は主に剣だし、戦力を封じるという意味では正しいことだが、友達に斬りかかったりは、本人の希望がない限りしないのだけれどな。

 前回は私があまりにも早く別の場所に飛んでしまったため、なぜ手錠をつけられたのか理由を聞くことができなかった。だからこうして尋ねてみたのだが、テゾーロくんからの返答はこうである。

 

「足枷の方がお好みかね」

「ウーン、まあ足枷の方が困るな」

 

 私が正直に答えると、黄金が伸びて私の全身をぐるぐると縛った。

 あ、ちゃんと困るかもしれない。この状態で私が変なところに飛ばされたら――特に海の上なんかに飛ばされたら、そのまま死んでしまうかも。

 足首なら動かせるから、ギリギリ跳べるか……? 変な体勢でビチビチ跳ねることになりそうだな。無様すぎるかも。

 しかし、この状態で友人に助けを求めることになった場合、ミホークならいいけどエースとかだったらかなりつらいんだよな。黄金を融かす高熱で私が苦しむことになる。

 もうすでに一回やってる。武装色でなんとかしたけどもうやりたくないぞ。

 

「一応尋ねるが、殺す気ないよね? 先に正解を言うと、殺されてはく製になったら私、確かにきみといっしょにいられると思うよ。でもとても困る」

「黄金の像ならどうだ?」

「いやです」

 

 死んだ後の見た目の問題ではない。

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