あっちへふらふら、こっちへふらふら。
私は不思議なきのみを食べてから、根無し草になった。
場所も時間も関係なく、あちこちに飛ばされる。
それでも平気なのは、帰る場所があるからだ。
「頼も〜」
門は開ける前に既に開放されていたため、声をかけて城の中に入る。
ドラムロックを登ってくるまでの間に、すっかり寒さは麻痺してしまった。
城内だというのに雪の積もるドラム城で、人の気配のする方を辿っていけば、診察室の中でくれはが医療器具をメンテナンスしていた。
「なんだい、今日は客が多いね」
「くれは、先に来てるのは私の仲間だ」
ピースしてそう言うと、くれはは「ヒーッヒッヒ!」といつもより声高に笑った。
「だからとんでもないバカどもなのかい!」
「うわはは、そうかも」
先に来たルフィたちが何をしたのだかわからないが、くれはの言うバカは褒め言葉であることの方が多い。
「アンタもふらふら歩いてんじゃないよォ! とっととベッドに入りな死にかけがァ!!」
「すんません!」
くれはの強烈な蹴りでそのまま診察室のベッドに叩き込まれた私は、くれはにぶっとい注射を打たれてそのまま気を失った。
「うわごめん寝てた!」
「寝かせてたんだよ、大バカもんが」
起きた瞬間に近くに人の気配があると、つい謝ってしまう癖ができてしまった。
なんというか、せっかく人がいるのに目の前で寝てしまった申し訳なさを感じる。
直前まで起きていなければと思いながら寝てしまったときは尚更だ。
くれはの言ったこのバカは、きちんと罵倒の方のバカだったので、私はへらへら笑って誤魔化した。
頭がくらくらするような感覚はあるが、毒によるものではなく麻酔によるものだろう。
「熊用の麻酔でさえ10分も寝てられないのかい?」
「あ、ハイキングベア用?」
ドルトンくんから聞いた熊の名前を言ってみせると、くれはは返事をせず酒をあおった。つれない。
「ったく、どっからそんな毒もらってくるんだい」
「そりゃあ、世界で一番毒に詳しい男だ」
ドクドクの実なんてものを食べているのだから、彼が世界一の毒の権威だろう。
医者も科学者も様々いるし、毒を仕込んでいるものも大勢いるが、やはり毒といえばマゼランだ。
なんというかマゼランに毒を食らった場合は許してしまうな。そりゃ食らうよな~という諦めの方が正しいか。マゼランと戦ってる時点で私が悪い、という法則が身に染みているというのもある。
「今、バカが来てるよ」
「どのバカだ?」
「元王さ」
ああ、ワポル。このバカも、ちゃんと罵倒の方のバカだった。
……やっぱりくれはがバカというとき、大体罵倒か?
私の船長はくれはに、なにか失礼なことをしたかな。全然やりそうだから困る。
「無駄遣い先として、船というのは悪くなかったと思うよ。出てってくれた方が助かるだろう?」
「戻ってこれないボロ船の方が助かったよ」
「それは造船技術もしっかり持ってた国民の責任感のせいかもね……」
手を抜くことができず、しっかり要塞船を完成させた真面目な気質というか……。
しばらく城の外や屋根でドタバタやっていたかと思うと、喧騒が城の中にまで入ってきた気配がしたので、私はベッドから起きた。
「きみは自分の身を守れるな? 私は行くよ」
「ついさっきまで死にかけてたんだ。無茶するんじゃないよ」
「世界一の医者に診てもらったから、もうすっかり元気さ」
私はピースして、扉を開けた。部屋を出る直前に、くれはが言う。
「アイツらが仲間だってんなら、治療費はそっちからもらっていいんだね」
「……そこをなんとかできませんか?」
「0は半分にできないねえ」
ついに私は無一文でくれはに治療されてしまったらしい。
荷物を持たないようにしているとはいえ、金すら一銭も持っていない時は、さすがに珍しいんだけどな。
麦わらの一味にまったく関係のないところでもらった毒に対する治療費を、彼らに払わせるのは申し訳がなさすぎる。主にナミの顔をもう見れなくなる。
「わかった、今来てるのは
「何をかは聞かないよ」
私もわざわざ言いはしない。
……
「おい」
許せないものを見て、私は乱暴に声をかけた。
「おい、きみ。私の航海士になにしてる?」
入口の扉が開けっ放しになっていることで、城内は常に極寒だ。
寒い廊下の中で、裸足のナミと、ナミに襲いかかるワポルの姿を見た。
「死にたいのか?」
返事も聞きたくなくて、私はワポルの首根っこを掴み、適当に放り投げた。
城の壁をぶち抜いて、ゴロゴロと転がっていく。
壁の穴からはさらに冷気が吹き込んできて、私はハッとした。
「……しまった。これじゃ冷えるね。ナミ、きみははやくベッドに戻らなきゃ」
病み上がりの、あるいは未だ闘病中のナミをそっと抱えて、彼女の病室へと運ぶ。
腕の中のナミは私を見上げて尋ねた。
「私の航海士、って言った?」
「……言った? すまない、言葉の綾だよ。きみは私たち麦わら海賊団の航海士だから、つまり私の航海士でもあるだろう?」
ナミが「ええ、そうね」と愉快そうに笑うので、私はどことなく居心地が悪くなった。
間違ったことは言っていないはずだが、なんというかその、ちょっと照れる。
ルフィを私の船長と呼ぶときはなんとも思わないのだが、不思議なものだ。
まだ嬉しさが新鮮だからかな。彼女が私の仲間になったということが、嬉しくてたまらないから、言葉にすると溢れてしまう。
「盗みをやるにしても、もっと自分を大事にね、ナミ」
「は〜い」
くすくす笑いながら、ナミはワポルからスった鍵を手のひらでくるくる回し、そっと懐にしまった。
……私の方はそんな余裕がなかったな。やはり彼女ほど泥棒の才能はないらしい。治療費どうしようね。