あっちへふらふら、こっちへふらふら。
私は不思議なきのみを食べてから、根無し草になった。
場所も時間も関係なく、あちこちに飛ばされる。
それでも平気なのは、帰る場所があるからだ。
「元気かい、友よ」
「「「ギャアーッ! 出たぁーッ!!」」」
とんでもない大声で驚かれたので、私の方が驚いてしまう。
私は後ろから錦えもんの背中をポンと叩き、挨拶をしただけだ。
それなのに錦えもんどころか、一緒にいたナミ、チョッパー、ブルックまで腰を抜かすほど驚かせてしまうとは、これいかに。
「って、お主かーッ! ビビらすでないわッ!」
「勝手にビビっておいて、なんなんだ」
「お主こそ、血まみれなのに平然としておる場合か!」
こんなのはいつも通りなので、いちいち気にしていられない。
私が気にしなくともチョッパーが気にする。
チョッパーに手際よく止血され、ぐるぐると包帯を巻かれている間に質問する。
「記憶喪失気味なので、初歩的な質問をしてもいいか? きみたち、錦えもんと知り合いなんだっけ?」
「なに、記憶喪失!?」
驚いたのは錦えもんだけで、他の仲間たちは慣れた様子だった。
そんなにこのタイプの質問をした記憶がないのだが、仲間を慣れさせるほど、未来の私がこの質問をするのかな。
「パンクハザードで拾って以来、錦えもんはずっとサニーに乗ってるわよ、モモくんと一緒に」
「ここはワノ国だ! おれたちがホールケーキアイランドに行ってる間、ゾロとウソップ、ロビンとフランキーが先に潜入してるはずだけど、まだ合流できてねェ!」
「それどころか、ルフィさんが遭難しました。今、サンジさんが海の底を探しに行っています。ルフィさんが落としたビブルカードは見つかりましたよ、ヨホホホ」
完璧な状況報告だった。私はすべてを理解したような気持ちになった。
唯一、私の知る彼よりも錦えもんが若いという疑問だけは解消されていないが、それは追々尋ねることにしよう。事情が複雑そうだ。
それでルフィの遭難だっけ。サンジが海の底を探しているのなら、海難事故だ。
私は経験したことがないが、この時代のワノ国に入国するには、鯉で登らないといけないらしい。
どっかの拍子で落ちたのだろう。困った船長だ。
「そうか。ルフィなら大丈夫だろう。ワノ国は結構、漂着しやすい地形になっている。私も一回浜辺に打ち上げられたことがあるし」
「ルフィー! 心配だー!」
私の慰めむなしく、チョッパーは半泣きである。
彼らに今できることはすべてやっている。心配しても心をすり減らすだけだ。
別の話題に変えようと思い、私は質問を重ねた。
「で、私はさっき、なぜ叫ばれたんだ?」
「錦えもんが怖い話するからだ! 怖ェーッ!」
思い出したのか、チョッパーを余計に泣かせてしまった。
私は人を慰める才能がないらしい。しらほしも泣かせまくっているしな、自覚はある。
「この地には古くから伝わる怪談がある……!」
私が聞かずとも、錦えもんが話し始める。
「血濡れの女が目の前に突然現れ『友か?』と尋ねて来るのだ……」
「ごくり……」
「はいと答えれば問題はない。いいえと答えれば……」
「答えると……?」
「命はない……!」
「ヒエエーッ!」
悲鳴をあげたのはブルックだ。私は首を傾げる。
「……きみたちは一回聞いたんだよな?」
「何回聞いても恐ろしいです! 私おばけが本ッ当にダメで!」
怖い~! と身を寄せ合う3人を見て、少し悩む。
……こういうこと言うの嫌なんだが、彼らがあまりに怖がるので、私はため息をつきながらも口を開いた。
「それ私だよ」
「ええ、今回はそうだったわけよね」
「今回以外も、という話だ。ワノ国にはたまに来る。私が血まみれなのはいつものことだな?」
「そうだな」
「そうね」
「そうですね」
「そうなのか!?」
チョッパー、ナミ、ブルックが頷いたので、錦えもんが驚いた。
彼の前で、私はあまり血まみれじゃなかったのかな。
だとしたらそれは良いことだ。怪我なんて少なければ少ないほど良いのだから。
「ワノ国の治安は20年前から最悪だ。だから来るたび、友人以外は斬ってる。怪談は解決したか?」
「怪談というのは解決するものではなくてだな……」
錦えもんが説明しようとするが、チョッパーには関係なかった。
「なーんだ。だったら怖くねェぞ!」
「斬られてしまったご友人以外の方が気の毒ですが……」
「悪党しか斬らないよ」
「なら問題ありませんね、ヨホホホ!」
解決した。
ナミもなーんだと安心している。
納得しなかったのは錦えもんだ。
「だ、だがこれは20年どころではなく、数百年と伝わる昔話だぞ」
「錦えもん、せっかく彼らが怖がらなくなったんだから、それでいいだろう」
「しかしだな……」
「錦えもん」
私は再び彼の名を呼んだ。
「数百年前のも私だと言ったら、どうする?」
錦えもんが私を見た。
私は微笑んだ――彼と初めて出会った
私は40年前も、数百年前も、血濡れのままあちこちを放浪しているだけだ。
ワノ国の治安が大きく悪化したのはオロチの悪政がためだが、ゴロツキ程度ならばどの時代にもいる。
悪いことをしているやつは斬ろう、と思うのは、いつの私でも変わらない。
錦えもんは顔を青くしたまま、私に尋ねた。
「せ、拙者たち……友であるな……!?」
「もちろん」
冷や汗を流しながらぎこちなく笑う錦えもんに、私はひとつアドバイスをした。
「怪談は、話す側が怖がってはいけない」
怪談をして人を怖がらせてやろうと思ったのなら、己も同じように怖がらせられる覚悟をしろよ――という話である。