あっちへふらふら、こっちへふらふら。
私は不思議なきのみを食べてから、根無し草になった。
場所も時間も関係なく、あちこちに飛ばされる。
それでも平気なのは、帰る場所があるからだ。
着地した瞬間、大嫌いなヤツの顔が見えた。
「……うおりゃァーッ!!」
「ギャアアーッ!?」
甲板に男を背中から叩きつけた衝撃音で、皆が驚いて顔を出す。
「なんだ!?」
「……ごめん! 嫌いなヤツが目の前にいたから反射的に一本背負いしてしまった!」
場所はサウザンド・サニー号だ。
私がうっかり背負い投げをかましたのはシーザーで、その音に驚いて顔を出したのは私の仲間たちである。
なぜここにシーザーがいる?
大好きな船に大嫌いなヤツが乗っているのは、一秒だって許せないのだが。
シーザーの首を絞めながら、私は皆に尋ねた。
「海に捨てていいか?」
「よくねェ」
私を止めたのはローだ。
……なぜローがサニー号に乗っている?
混乱するばかりだ。このあたりの時間軸について、私はまだよく知らない。
私は色々、大事なことを知らないようだ。
「おいお前ら! 侵入者だぞ!? おれを助けてくれェ!」
シーザーは泣きながら私の仲間に助けを求めた。は? なんだこれ?
答えたのはルフィだ。
「侵入者じゃねェよ。そいつ仲間だ」
「なにィ!? 嘘だろ、てめェ麦わらの一味なのか!?」
「そうだよ、シーザー。きみとまともに会話なんてしたことないから、知らなくて当然だよな」
できるだけ冷静に言葉を返してから――私はやっぱり怒りを抑えられず、シーザーを怒鳴った。
「お前、よくも私に変な毒使ってくれたなァ! なんだあの毒ガス、気持ち悪ィ! なんで吐瀉物がピンクになるんだよ!」
シーザーの胸倉をつかみ上げ、ガクガク揺らしながら文句を言った。
頭をがっくんがっくん揺らしながらも、シーザーは己の舌を噛むことなく、声高らかに毒の自慢をする。
「シュロロロロロ! あの毒はなかなかの傑作だった! フラミンゴのSMILEから抽出した噴霧型の毒だ! 悪魔の実の能力者が2つ目の悪魔の実を食うと死ぬという話をもとに、対能力者用に調整した! だがSMILEはあくまで人工悪魔の実、てめェを死に至らしめるまではいかなかったようだな!」
私はそれを聞いて、シーザーを掴み上げる手を放し――甲板に落ちたシーザーは「ギャッ」と悲鳴を上げた――両手で顔を覆った。
あれ、能力者じゃないと効かないタイプの毒だったのか。
まさか海楼石以外でそんなものを作れるとは思っていなかった。
私は今、自分が能力者だということを、自分からゲロった形になってしまった。
いや、まだごまかせるか?
私は一縷の望みをかけて、手で顔を覆うのをやめ、シーザーに怒鳴った。
「あんな毒まったく効いてねーよッ! バァーッカッ!!」
「自分で効いたと言ったんだろうが!?」
い、い、言ってないし! 変な毒を使うなって言っただけだし!
マルコの再生の炎がなかったらたぶん死んでいたなんて、絶対に言ってやらない。
絶対にシーザーを褒めたくはないが、あの毒はなかなかの苦痛だった。
「それをドフラミンゴかカイドウにぶちこんだらいいじゃないか?」
「バカヤロウ、お前で死なねェなら無理だ! 大体、SMILEひとつ使って作るにはコスパが悪ィ! ジョーカーに卸したほうが得だ! シュロロロロ!」
私はキレながらシーザーを再び怒鳴ろうとしたが、周りの皆の目がおそろしく冷え込んでいるのに気づき、一旦口をつぐんだ。
よく考えてみれば、私、こんなドクズと知り合いというだけで信頼を失おうとしているのではないか?
決してこんな男とは友達ではないと表明しておかなければならない。
改めて、シーザーとの関係性を口にする。
「……こんな感じで、同意もなく、こいつにはいろんな致死毒の実験体にされていてな。本当に殺したいくらいの恨みがある」
「じゃあしょうがないわね。いいわよ、殺っちゃっても」
ナミがGOサインを出した。
「仲間にそんなひどいことをするなんて許せませんよ! 斬っちゃいましょうか!?」
「簀巻きにして海に捨てるか」
ブルックはぷんすこ怒っているし、ゾロは具体的な処刑方法を述べた。
意外に世論は私側にあるようだ。反対意見を述べたのはローだけだ。
「今は殺すな。計画に支障が出る」
どんな計画かは知らないが、ローが一時的にも仲間から離れ、この船に乗っているのだ。
彼も相応の覚悟で挑んでいるのだろう。
仕方がない、私も我慢するか……と納得しかけたところで、ローが「手を出せ」と言ってきた。
言われた通り手を出すと、ローはそこにひとつのキューブを乗せた。
「なにこれ?」
「シーザーの心臓だ。これをおもちゃにするので我慢しろ」
「オイッ! ひとの心臓をおもちゃにするなァ!」
試しにキューブを握ってみると、シーザーが胸を押さえて「ギャアア!」と悲鳴を上げて転がった。
本当に彼の心臓らしい。ローの能力は器用だ。応用が随分効くようで羨ましい。
「あはは。おもしろい。チョッパー、これでバドミントンしよう」
「いいぞ!」
「するなァ!」
シーザーが怒鳴ったが、私は呟いた。
「私、バドミントンはそんなに上手じゃないんだ……そんな風に怒鳴り声を聞きながらプレイしたら、手元が狂って羽根を海に落としてしまうかもしれないなぁ……」
「黙りまぁす」
宣言通り、シーザーは黙った。
シーザーのうるさい笑い声を聞かずに済むというのなら、もうちょっと我慢できるだろう。
私はしばしチョッパーとバドミントンに興じたが、すぐにやめた。
嫌いなヤツは笑い声だけでなく、悲鳴も耳障りなものなんだな。