あっちへふらふら、こっちへふらふら。
私は不思議なきのみを食べてから、根無し草になった。
場所も時間も関係なく、あちこちに飛ばされる。
それでも平気なのは、帰る場所があるからだ。
バドミントンのラケットを持ったところで、サニー号に乗っている客が、シーザーとローだけでないことに気づいた。
着物の男の子だ。お互いに顔を見ては、首をゆっくり傾けていった。
「どこか見覚えがある気がするでござる……」
「……私も見覚えがあるが、年齢が合わない気がするな」
知り合いのような気がするが、そうでもないような。
え、孫? もう? いや、年代としては、可能ではある……か?
名前を呼んで確かめてみればよいのだろうが、違ったときに困る。
気まずい雰囲気が流れかけるが、説明してくれそうな男は別にいた。
「これには深い事情があってな……」
もう一人いた客、着物の男は確実に彼とわかる。錦えもんだ。
どこかの未来で、パンクハザードで船に乗ったと聞いていたので、彼がいるのは納得だ。
そういえば、なんで錦えもんがサニーに乗ったのかは聞かなかったな。
そこが大事だったのかもしれない。
私はナミたちが、私の質問にためらいなく、簡潔かつ詳細に答えてくれたことに感動して、それ以上を聞かなかったのだ。
私はチョッパーがとりやすいように山なりサーブを打ち、シーザーは「ギャー!」と叫んだ。
チョッパーがシーザーの心臓を打ち返す前に、錦えもんに尋ねる。
「やあ錦えもん。久しいね。きみ海賊になったのか?」
「なるかァ!」
返ってきた心臓を打ち返す……気持ちとしてはもっと激しくラケットを叩きつけたいが、そうするとチョッパーが取れないだろう。
「じゃあ、捕虜になったのか?」
「捕虜になるくらいなら腹を切っておる!」
ラケットの面ではなく、フチで心臓を打って返した。
この方が痛そうだ。シーザーは「オギャーッ!」と悲鳴をあげた。先ほどまでとの違いがわからない。
「だよね~。心臓は入ってるか?」
「入っておる……先ほどまでロー殿にバラバラにされたが今は無事! モモの助も……奇妙な実を食って竜の姿に変身するようになってしまったが、こうして生きておる!」
なんだか、パンクハザードでとても大変なことがあったらしい。
結局、彼はモモの助で良いのか。
鎖国国家ワノ国では、出国するだけで罪のはずだ。
だからおでんに倣って海賊にでもなったのかと思ったが、そう単純な話でもなさそうだ。
ああ、頭がこんがらがりそうだ。
このあたりの複雑な事情について、答え合わせを得られる時と場所はどこにあるんだ?
今聞くにはちょっとローの目が気になるな、と彼に視線をやると、ローから質問される。
「侍と知り合いか?」
「友達、とその息子」
「!」
モモの助がハッとした顔をしたので、微笑んでおく。
錦えもんが「モモの助」と呼んだのだ。身分は隠しているということだろう。
私もそのくらいは察せるのだ。いつもなんとなくその場の雰囲気にあわせて生きてきているからな。
私ほどワノ国へ密入国を繰り返している者もいまい。
入国も出国も罪の国では、私はそこにいるというだけで犯罪者だ。
海外の者であるとバレれば追い回されるため、あまり行きたい場所ではないが、インペルダウンよりちょっとマシではある。
「なんだ、錦えもんとも友達かよ」
「なぜ知り合いなのか気にならねェのか」
ウソップがちょっと呆れるくらいで済ませたので、ローがつっこんで聞いてきた。
「ま、こいつがどいつとでも仲良くしてるのはいつものことだしな」
「私もこの船に乗る前からのお知り合いでしたしね、ヨホホホホ!」
「友達が多くて羨ましいわ」
ゾロ、ブルック、ロビンが言った。
「ケムリンと仲良かったのは驚いたけどなァ~」
「私も慣れたわ。敵味方関係なく顔見知りばっかりだものね」
ルフィとナミも、私の友達の多さにはもはや慣れっこのようだ。
私の顔の広さはそこそこ自慢だ。手配書に載ってない割には、という意味だが。
「敵側の方にあんまり友達はいないと思ってたが……あ、ローって敵になるのか?」
「同盟を組んだ」
「え。大丈夫? ローは真面目だから、ルフィのいい加減さに付き合うと疲れてしまうんじゃないか?」
「ああ」
ああて。疲れているということか。
すでにパンクハザードで振り回された後か?
今更遅いかもしれないが、友達として忠告はしておこう。
「ルフィに緻密な作戦の実行は無理だ。きみの計画が大雑把であることを祈る」
「SMILE工場の破壊。これくらいはやってもらわねェと同盟を組んだ意味がねェ」
「いいね! その工場なら私も壊したい! 気が合うな、ロー!」
ローを心配する気持ちから、ウキウキな気持ちに切り替わってしまった。
「そうかそうか、護衛とか暗殺じゃなくてよかった。破壊は比較的得意だ。お姉さんはりきっちゃうぞ~! 場所はどこだ?」
「ドレスローザ」
「……SMILEの工場ってそこにあるのか!?」
「知らねェのか」
ドレスローザにはしばらく行っていない。
私の感覚では、という話だが……一般的な時代感覚に合わせたとしても、10年ほどあの土地を踏んでいないかもしれない。嫌な予感がする。
「あ、手元が狂った」
バトミントンが下手だというのは真実なので、私はシーザーの心臓をチョッパーがとれそうもない方向に飛ばしてしまった。シーザーは「フンギャッ」と胸を押さえて転げ回った。
心臓が飛んでいった先にはフランキーがいた。
「おう、おれに任せろ! ストロングラケットォ!」
――という名前の張り手で、フランキーが打ち返してくれる。
「おいフランキー、そんな速い球とれねェよ!」
「悪ィ!」
シーザーの心臓は高速でサニー号の甲板に突き刺さり、シーザーは「ブベラッ!」と血を吐いた。
あのくらい強く叩いても死にはしないんだな。人間って私が思うより丈夫だ。
「天使ちゃん、深海魚で作った新作スイーツです♡」
「わーありがとうサンジ」
ちょうどよいので、ここらでバドミントンをやめることにする。
シーザーは黙ると言ったのに悲鳴はあげるのでうるさいし。
それなりに弄んで溜飲も下がった。私は拷問ってあんまり得意じゃないのだ。