あっちへふらふら、こっちへふらふら。
私は不思議なきのみを食べてから、根無し草になった。
場所も時間も関係なく、あちこちに飛ばされる。
それでも平気なのは、帰る場所があるからだ。
どっかの街の路地だ。
薄暗く、空の酒瓶が転がっている。それをなんとなくつま先で蹴って転がして、明るい方へと歩き始めた。
次の角からひょいと顔を出して様子を確認すると、まだまだ治安は悪そうだ。はやいとこ大通りっぽいところに出ないと、めんどくさいのに絡まれそうである。
そう思った矢先、とてつもなく目つきの悪い長身の男とがっつり目が合った。
「お前……! 生きてたのか!」
やべえ。知り合いだ。
しかもなんだかすごくシリアスに生存を確認されているが、私は彼に覚えがない。
厄介なタイプの初対面だ。私が死にかけた状態で最後に別れたのだろうか。
どうしようかな。とりあえず私はピースをした。
「生きてまーす」
「てめえ……」
キレさせてしまった。それもそうか。
死んだと思っていたやつが目の前に突然現れたかと思えば、へらへらしていたら、温厚な人間でも怒りたくなるだろう。
男は大きな手で私の両頬を掴むと、私の顔を上向きにし、目を覗きこみ、それから体の別の場所に視線を走らせた。
主に包帯の巻いてある場所だ――この視線には覚えがある。診察だ。彼は医者だろうか。
「医者になった?」
「……まあな」
やったぜ正解。
しかも私は結構際どい所をついた――医者だっけ? ではなく、医者になった? と聞いたのだ。
私が以前彼に会ったときには、未だ医者ではなかった、という決め打ち。
これは長年浮浪者をやっていないとなかなかできない芸当である。
私を見て、生きてたのかと驚愕されることは多いので、パターンの蓄積があるのだ。
驚き具合を見て、私が死んだと思ってから数日なのか、数年なのか、数十年なのか、なんとなくわかる。
私以外には必要のない観察力だ。
つまり彼はたぶん、私を死んだと思って、
申し訳ない。でも十年あったら医者になるだけの時間はあるかなと思って。
張ったヤマが当たったことを、にこっと笑って喜ぶと、男は私の顔を掴むのをやめた。
医者、というワードで私も思い出した。会ったことはないが、彼自体は知っている。
手配書で顔と名前を見た。死の外科医トラファルガー・ローである。
裏になんとメモがあったか……いっぱい細かく書いてあって読むのがだるくなったという記憶だけはあるな……。つまり彼とはよく会うということである。
マメにメモをしても、読まなかったら意味がないな。書くのは好きだが読むのは嫌いなのだ。
「今まで何してた」
「すごい大雑把な質問だな。頑張って生きてたよ」
今度は頭を掴まれた。万力のようにメリメリと力を込められていく。
「いたたたた! ごめんて! ふざけてないって!」
それ以上は! それ以上はさすがにこちらも武装色を使わないと頭破裂するって!
「相変わらずふらふらしてんのか」
「うん」
「おれの船に乗るか」
「おお。勧誘だ」
船に乗せてやってもいいと思うくらいの関係性を、彼とは築けるらしい。
ほんとか? いきなり頭部を二度掴まれているが、本当か?
でも船に乗せていいと思ったうえで彼は私の頭部を鷲掴みにしているな……? 何?
まあ、喜んでおこう。仲間になってもいいよと思ってくれている人がいることは嬉しい。
「誘ってくれてありがと。でももう別の船に乗ってんだー」
「……海軍じゃねえだろうな」
「ええ? あはは。いや、無理だよ、あんな真面目な人ばっかのとこ」
彼は海軍のことが嫌いらしい。そりゃ海賊ならそうか。
それにしても、海軍かと疑われるのは初めてだな。
そんな品行方正な雰囲気を出せたことがないからだ。
えーと。確か後々最悪の世代とか言われて、あのへんの賞金首は大体みんな同じタイミングで会うんだったっけな。
多分まだそこまで旅路は進んでいないだろう、と望みをかけて私は言った。
「シャボンディでまた会えるよ。仲間も紹介するね。愉快な人たちだからきみも気にいるよ」
「お前みたいなとんちんかんの集団なのか」
「……ふ、あはは、と、とんちんかん、やべえ、そうだね」
あんまりな言い方にツボってしまった。
とんちんかん集団。ふふ。面白い。
「ま、私が受け入れられてる船だから、みんな変だよ。あ! きみんとこクマいるよね!? 今度紹介してよ!」
ローの手配書の裏に書いてあったメモを急に思い出した。
「仲間にもふもふのクマ」だ。もふもふのクマ!
それがローの帽子の隠語とかでもないなら乗っているはずだ、クマが!
「クマって言うと凹むぞ」
「なんで!? クマじゃなかった?」
「クマだ」
「クマなのに……?」
尚、この後現れた噂のローの仲間が、ただのクマではなくシロクマだったため、私はつい「シロクマじゃん!」と叫んでしまい、「シロクマですいません……」と凹ませてしまった。
思ってもみないことにシロクマが喋ったので私はつい「喋った!」と叫び、「喋ってすいません……」と凹ませた上で、彼がミンク族であることに気づいた。そりゃ喋る。
謝ってガルチューしたら許してくれた。