ふらふら   作:九条空

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スモーカー/たしぎ

 あっちへふらふら、こっちへふらふら。

 私は不思議なきのみを食べてから、根無し草になった。

 

 場所も時間も関係なく、あちこちに飛ばされる。

 それでも平気なのは、帰る場所があるからだ。

 

 飛ばされた先はギリギリ船の上だった。

 ともすれば落ちそうだったが、船べりにつま先を乗せてなんとか耐える。

 危ない危ない、と冷や汗をぬぐっていると、この船の乗組員とばっちり目が合った。

 

「侵入者だァ~!」

「うわあごめん、海軍の船に無断で乗ってしまった」

 

 突然飛ばされた先がどこかの船だったとき、それが知り合いでもなければ皆一様に警戒して怒る。

 無断乗船は殺されても当然な罪だからだ。それが海軍の船となれば、お縄にかけられるのが当たり前である。海軍船への不法侵入は、どれくらいの罪になるのかな。

 参ったな、たまたまガープとかクザンの船じゃないかな、と船の責任者の姿を探すと、これが知り合いだった。改めて自分の顔の広さを実感する。

 

「てめェ、よくものこのこと……」

 

 相手はスモーカーくんだったが、私がよく知る彼よりちょっとばかし歳を重ねていた。

 なんだかワイルドさがマシマシになっている。

 彼はずっと海軍にいるはずだけれど、ガラがどんどん悪くなっていくね、どうして?

 というか、よく見ればこの船の乗組員は皆、海軍の服装をしているだけで、随分ガラの悪い男たちばかりだ。海賊が海軍の変装をしていると言われた方が納得できるほどである。

 

「スモやんの知り合い!?」

「……スモやん!?」

 

 スモーカーの部下であろう男が口にした言葉を、私は口元を覆って復唱した。

 スモやん、スモやん!? 口の中で何度か繰り返す。

 

「良過ぎるだろ……! 私もそう呼んでいいか、スモやん」

「いいわけねェ」

 

 情け容赦なしだった。

 これほどすっぱり言われてしまっては、私も諦めがつく。

 

「仕方ないか、私はきみの部下じゃないし……上司と部下の素敵な絆を壊すわけにはいかない」

「呼ばせてねェ」

 

 なんだ、部下だけが呼べる特別な名前なのかと思ったのに。

 

「しかし呼ぶことは許しているんだろう?」

「許してねェ」

「規律大丈夫か?」

 

 スモーカーくんのことだから、部下にはさぞ厳しく指導していると思っていたのだが、意外だ。

 でも海軍には似つかわしくないほどの荒くれどもをまとめているのは、意外でも何でもない。

 なるほど、こうしてガラの悪さがうつっていくのだな。……この場合どっちからうつってる?

 船縁に腰かけようとすると、スモーカーくんに睨まれた。

 

「おい、くつろごうとするな。ここは海軍の船だ。お前は海賊だろう」

 

 あ、海賊だとバレていた。

 彼とのモラトリアム期間は終わってしまったのだな。ちょっとしんみり。

 しかしその程度のことを気にする私でもない。手をひらひら振って、話を続けた。

 

「まあまあ、私ときみとの仲じゃん。少しばかり雑談するくらいいいだろ。今はなにしてたの?」

「麦わらの船を張ってる」

「うわ~!」

 

 狙いが我が船だったため、とっさに語彙力を失ってしまった。

 私が思わず両手を上げて叫んだのを見て、スモーカーは煙と共にため息をついた。

 

「スモやん、この人海賊なのか!?」

「えーっ、スモやん海賊に恋人がいるのかよ!?」

「禁断の恋……!?」

 

 騒ぎ出したのは、ガラの悪いスモーカーの部下たちである。

 スモーカーは「うるせェ!」と一喝すると、部下たちを下がらせた。

 

「いいか、こいつ相手にてめェらじゃ手も足も出ねェ。すっこんでろ」

「ヒューッ!」

 

 なぜか口笛を吹いて盛り上がりながら、スモーカーの部下たちは下がって行った。

 こそこそしている割には声が大きかったので、彼らの雑談は容易に私の耳に入ってきた。

 

「たぶんアレだぜ、恋人がいつのまにか海賊になってて、スモやんは泣く泣く戦わなきゃいけねェんだ……」

「えーっ! なにそれ悲劇!!」

「おれたちが代わりにやってやったほうがいいんじゃねェの!?」

「バカ、愛するものはせめてこの手で……ってやつだろ!」

「おれ涙がとまらねェよ……!!」

「スモやーん!!」

 

 号泣するスモーカーの部下たちを指さし、私はスモーカーに尋ねた。

 

「訂正してこようか?」

「いらねェ。どうせお前は余計なことをして事態を悪化させる」

「なんだよ信用がないな。私がなにをしたというんだ……」

 

 心当たりはまったくないが、スモーカーにとっては確信のあることらしい。

 えーっ、これから何かやらかすのかな……なんだろう……。

 私が悩んでいると「あなたたち、静かにしなさいっ!」とたしぎが部下たちを叱り飛ばしつつ、スモーカーの方へとやってきた。神妙な顔をして、刀に手をかける。

 

「スモーカーさん、つらいなら私が……」

「てめェもかたしぎ」

 

 なんて愉快な船なんだ。

 

「ったく、てめェがここにいるってことは、やはり連中も近くにいるんだな」

「いやごめん、私しょっちゅう単独行動するからね、そのあたり信用しないで欲しいが……」

 

 私が単独行動ばかりしていることは、スモーカーも知っているだろう。

 そうでなければアラバスタで、単独彼と出会っていない。

 

 しかし、ここは海域的に新世界の入り口にほど近く、魚人島から目指す次の島のひとつ、ライジン島。

 遠目で見るだけでわかるのだ、来たことがあるから。

 雷の降る島は珍しく、あまり記憶力の良くない私でも覚えていられた。

 

 すなわち、ここはパンクハザードの近くだ。

 となるとその……いるかもしれない。

 あのときのパンクハザード、たしかスモーカーたちもいたはずだ。

 ウソップのホラ話の独創性があまりにも豊かでなければの話であるが。

 確信を持てるほどではないので、私はあいまいに笑った。

 

「近くにいると良いね」

「チッ、情報源として役に立たねェ……」

「あー! 私から情報を抜きだそうと!? ひどいぜスモやん!」

「呼ぶな」

 

 本当に良い呼び名だから、やはり惜しくなってきた。私も言いたい。

 しかしこれ以上嫌われたくもないので、大人しく話を戻した。

 

「麦わら海賊団のところに行くなら目的地が一緒だから、乗ったままでいい?」

「海楼石の手錠をかけていいならな」

「よくないな……」

 

 かつては一人乗りのバイクに二人乗りした仲だというのに、冷たいぜ。

 彼が海賊に厳しいことはわかっていたからこの未来も見えていたが、事実目の前にしてみるとやはり寂しいものだ。

 向こうから「暇だから捕虜燃やそうぜ!」というスモーカーの部下たちの声が聞こえて、あまりノスタルジーに浸ることもできないが……スモーカーが止めようともしないので、代わりにたしぎが叱り飛ばしている。

 

「スモーカーくん。言っちゃなんだがこの船の雰囲気、ほぼ海賊船だぜ」

 

 それもかなり態度が悪い方の。海賊でもあんまり自分の船の上で面白半分に捕虜燃やしたりしないよ、火は危ないし。

 彼は否定も肯定もせず、煙草をふかした。まあそりゃ、彼が一番実感しているか。

 これ以上の滞在はスモーカーくんも職務に勤しまなければならなくなってしまうし、退散するとしよう。

 船から降りてパンクハザードに向かおうとして、私の向かう場所で麦わら海賊団の所在地のネタバレになるか? と首を傾げた。

 まあいいや。これから行われる暴力は麦わらの一味に関係しない、ただの私情である。

 

「私はちょっと殴りたい男がいるので離脱するが、引き続きお仕事頑張ってくれ」

「海賊なのに、海軍を応援するんですか?」

 

 たしぎは私の殴りたい発言より、彼らを応援したことの方が疑問だったようである。

 

「海賊だろうが海軍だろうが、友達だからね」

 

 否定も肯定も聞く前に、私は船から飛び降りた。

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