ふらふら   作:九条空

83 / 144
ココロ/チムニー

 あっちへふらふら、こっちへふらふら。

 私は不思議なきのみを食べてから、根無し草になった。

 

 場所も時間も関係なく、あちこちに飛ばされる。

 それでも平気なのは、帰る場所があるからだ。

 

 ヨコヅナは、何度も海列車を止めようとする。

 

 成功したことは一度もない。

 彼は何度も海列車に轢かれ、どれだけの傷を体に刻もうとも、あきらめることがない。

 

 その理由を我々は知っている。

 だから止めもしなければ、チムニーのように迷惑なんだからと怒ることもない。

 

「一度試していいだろうか」

「なにがらい?」

 

 ココロさんにぽつりとこぼすと、酔っぱらって呂律の回らない返事が返ってきた。

 

「ヨコヅナの代わりに、私が海列車を止めてみてもいいだろうか。完全に止まったら、彼も満足しないかな」

「どうらろうねェ……」

「まずそんなことできないでしょ!」

 

 チムニーに言われ、私は目を細めた。

 

「できるとも。死ぬ気でやれば、なんでもね」

「死なねェならやってみな」

 

 ココロさんに後押しされたので、私は立ち上がった。

 死にはしない。海列車の乗客も殺さないし、ヨコヅナも傷つけさせない。

 チムニーが慌てて私の足元に駆け寄ってくる。

 

「え、え! ホントにやるの!?」

「やるよ。私も大概人のことは言えないが……友の傷が増えていくのをただ黙って見ているのは、落ち着かない」

 

 カエルだろうが私の友だ。

 かといって私も、自分の体に傷を作るのを止める気はない。

 自分の体を大事にしろとヨコヅナに言ったとて、どの口が、という顔をされて終わりだ。

 

 だが、私だって、時には己の愚行を止めて欲しいと思うことがある。

 彼の気持ちもよく分かった。しかし私は彼を止めたい。言葉では無理だ。

 意地には意地でぶつかるものだ。

 

 海列車は、海の上を走る。

 泳ぎの得意なヨコヅナと違って、私は海列車の線路の上に泳いでいくわけにはいかない。

 

 どうしようかな。

 私は空を跳んで移動できるが、同じ場所でホバリングするのは疲れる。

 そもそも海列車に乗る人が空飛ぶ人間を見るのは不都合が多い。

 

「ブルでも借りようかな」

 

 万が一があった場合ブルが危ないかな。

 ブルなしの船でいいか――それ船だな。

 

「ヨコヅナってどすこいって感じで、手で止めてるんだっけ? じゃあ私は足で蹴ろうかな……あ、でも足骨折したら歩けなくて困るな……」

「ねえ、大丈夫なの!? そんな感じでいいの!?」

「私も張り合って、どすこい方式で行くか……」

「ねえ!?」

 

 チムニーの声を無視して、イメージトレーニングをする。

 どすこいと海列車に張り手……ダメだ。

 

「ココロさん、海列車が一番人乗ってない時間教えてくれる?」

「死傷者減らす気なのら?」

「出していいなら確実に止められるけど……」

 

 チムニーが慌てて両手を振り回した。

 

「ダメだよ! ダメ、ダメ!」

「うん、ダメだよね~」

 

 とてつもないスピードで走る、重量のある鉄の塊だ。

 いきなり止めては、その衝撃で車体がつぶれるかもしれない。

 もっとゆっくり止めなければ……足場がないというのがネックなのだよな。

 

「……あ! 縄ひっかけてさ、後ろから止めるってのはどうだろう?」

 

 引きずられる形になるが、正面から受け止めるよりはよほど止めるのが簡単そうだ。

 

「ヨコヅナは納得しないらろうねェ」

「あー、そうか。そうだよな、真っ向勝負か……」

 

 しょうがない、真っ向からやるか。

 ヨコヅナに見せてやろう。自分が周りからどう見えているかを。

 友人がこれから自分の身を少しでも大切にしてくれるのなら、両腕が粉砕骨折くらいしても構わないとも。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。