あっちへふらふら、こっちへふらふら。
私は不思議なきのみを食べてから、根無し草になった。
場所も時間も関係なく、あちこちに飛ばされる。
それでも平気なのは、帰る場所があるからだ。
ヨコヅナは、何度も海列車を止めようとする。
成功したことは一度もない。
彼は何度も海列車に轢かれ、どれだけの傷を体に刻もうとも、あきらめることがない。
その理由を我々は知っている。
だから止めもしなければ、チムニーのように迷惑なんだからと怒ることもない。
「一度試していいだろうか」
「なにがらい?」
ココロさんにぽつりとこぼすと、酔っぱらって呂律の回らない返事が返ってきた。
「ヨコヅナの代わりに、私が海列車を止めてみてもいいだろうか。完全に止まったら、彼も満足しないかな」
「どうらろうねェ……」
「まずそんなことできないでしょ!」
チムニーに言われ、私は目を細めた。
「できるとも。死ぬ気でやれば、なんでもね」
「死なねェならやってみな」
ココロさんに後押しされたので、私は立ち上がった。
死にはしない。海列車の乗客も殺さないし、ヨコヅナも傷つけさせない。
チムニーが慌てて私の足元に駆け寄ってくる。
「え、え! ホントにやるの!?」
「やるよ。私も大概人のことは言えないが……友の傷が増えていくのをただ黙って見ているのは、落ち着かない」
カエルだろうが私の友だ。
かといって私も、自分の体に傷を作るのを止める気はない。
自分の体を大事にしろとヨコヅナに言ったとて、どの口が、という顔をされて終わりだ。
だが、私だって、時には己の愚行を止めて欲しいと思うことがある。
彼の気持ちもよく分かった。しかし私は彼を止めたい。言葉では無理だ。
意地には意地でぶつかるものだ。
海列車は、海の上を走る。
泳ぎの得意なヨコヅナと違って、私は海列車の線路の上に泳いでいくわけにはいかない。
どうしようかな。
私は空を跳んで移動できるが、同じ場所でホバリングするのは疲れる。
そもそも海列車に乗る人が空飛ぶ人間を見るのは不都合が多い。
「ブルでも借りようかな」
万が一があった場合ブルが危ないかな。
ブルなしの船でいいか――それ船だな。
「ヨコヅナってどすこいって感じで、手で止めてるんだっけ? じゃあ私は足で蹴ろうかな……あ、でも足骨折したら歩けなくて困るな……」
「ねえ、大丈夫なの!? そんな感じでいいの!?」
「私も張り合って、どすこい方式で行くか……」
「ねえ!?」
チムニーの声を無視して、イメージトレーニングをする。
どすこいと海列車に張り手……ダメだ。
「ココロさん、海列車が一番人乗ってない時間教えてくれる?」
「死傷者減らす気なのら?」
「出していいなら確実に止められるけど……」
チムニーが慌てて両手を振り回した。
「ダメだよ! ダメ、ダメ!」
「うん、ダメだよね~」
とてつもないスピードで走る、重量のある鉄の塊だ。
いきなり止めては、その衝撃で車体がつぶれるかもしれない。
もっとゆっくり止めなければ……足場がないというのがネックなのだよな。
「……あ! 縄ひっかけてさ、後ろから止めるってのはどうだろう?」
引きずられる形になるが、正面から受け止めるよりはよほど止めるのが簡単そうだ。
「ヨコヅナは納得しないらろうねェ」
「あー、そうか。そうだよな、真っ向勝負か……」
しょうがない、真っ向からやるか。
ヨコヅナに見せてやろう。自分が周りからどう見えているかを。
友人がこれから自分の身を少しでも大切にしてくれるのなら、両腕が粉砕骨折くらいしても構わないとも。