あっちへふらふら、こっちへふらふら。
私は不思議なきのみを食べてから、根無し草になった。
場所も時間も関係なく、あちこちに飛ばされる。
それでも平気なのは、帰る場所があるからだ。
圧迫感を感じて目を覚ます。
体全体が押しつぶされるかのような圧力――あ、これやばい。
「いたたたたた!」
「! なんだ、人か?」
命の危機を感じてとにかく叫ぶと、誰かの声がした。
目を開いても暗闇だ。体には、たくさんの、なにか硬いものが当たっている。
寝ている間にどこかに転移してしまったという事態は即座に把握したが、かといってここがどこなのかはまだわからない。
なにかの山に埋まっている? 上から声がしたから、私は誰かに潰されそうになっている?
寝起きで頭がうまく働かない中、とにかく手を伸ばした。
自分が何に埋もれているかもわからないまま、硬いなにかをかきわける。ガラガラと崩れる音がする。
どちらが上かもわからぬままもがくのを続けると、少しの光が差し込んだ。
私がそこへ伸ばした手は、巨大な手につままれ、ひっぱりあげられた。
つままれていない方の手で、目をこすった。寝起きなので目があまり開かない。
ひとまずこの大きな人にお礼を言わなければと、目を開ける前に口を開く。
「ありがとうね……」
「……なぜこんなところに?」
「うん、まずここどこ?」
尋ねると、別の場所から違う声もした。
「そんな女、闘技場で見た覚えはないぞ」
まだしょぼしょぼとする目をこらして、そちらを見る。
青い髪の、足長族の男だ。うーん、見た記憶があるような、ないような。
これくらいうろ覚えとなると、直接会話したことはなさそうだ。見たのは手配書かなにかかな。
「そりゃあ、この人が参加していたら、負けるはずがない」
「何の話してるかわかんないけど、ありがとう……?」
事態を掴めず困惑していると、私をつまんだままの男が、足長族の男に答えた。
褒められていることだけはわかるので、また礼だけ言っておいた。
ようやく焦点があってきたので、しっかり見ると、私をつまんでいる巨人族の男にはしっかりと覚えがあった。
「……あ、ハイルディン!? おっきくなったね~!」
「巨人族に言うにしちゃ愉快なセリフだ」
「そう? きみにも小さい頃があったじゃないか、あのときから大きかったけど」
ハイルディンは私をそっと降ろしてくれた。降り立ったのは地面ではない。
私が埋まっていたのはどうやら、おもちゃの山だった。
……何ここ? おもちゃ工場のゴミ捨て場?
だとしたら巨人族と足長族がいる意味がわからなくないか?
結局場所がよくわからない。
薄暗く、人が到底暮らしているような場所ではないということはわかった。
壊れかけのおもちゃばかりだが、生きた人間もいる。
ハイルディン、足長族の男、それから手長族の男もいるし、頭頂部の長い男も……あ、知り合いだ。
「チンジャオ、どうした? 腕の良い外科医でも見つけたのか」
年老いた彼が全盛期のように、錐のように尖った頭部をしているのを見て、質問する。
彼は八宝水軍を率いる大海賊であったが、かつてガープのゲンコツにより尖った頭を平らにされ、隠居の身となったはずだ。私が時系列を間違って覚えていなければ。
さすがにチンジャオが白髪になっているので、ガープにぶん殴られる前ではないことがわかる。
チンジャオは首を横に振り答えた。
「ガープの孫だ」
「……ルフィ!? あー、えーと、それって結構前?」
「何を言う。ついさっきだ」
「じゃあルフィが今、近くにいる!?」
となると話は変わってくる。
近くにいるというのなら、できる限り麦わらの一味と合流したい。
出口が特に見えず、上に穴が開いているだけのこの空間で、わざわざ出る手段を探さなくとも――次にどこかへ飛ばされるのをのんびり待とうかな、と思っていたがそれはやめだ。
「ルーシーの知り合いか? それにしちゃ、他の知り合いも多いようだが……」
手長族の男に聞かれて、私はどう答えるか迷った。
どういう状況で彼らが集まっているのかわからないので、私が立場を明らかにしていいものか悩ましい。もう説明を放棄して逃げてしまおうかな。私の能力のことを考えると、常に時間はない。
上に穴が開いているのなら、そこから出れるだろう。
足に力を入れて飛び上がろうとすれば、それを阻む声がした。
「おれには挨拶なしか?」
私は随分気が急いていたが、覚えのある声だったので留まることができた。
巨人と、いろんなものが長い男たちに気を取られていたため気づかなかったが、これもまた知己であった。
「ジュニアじゃん! パンチは健在?」
「さすがにこの壁は崩せんがな」
私に声をかけてきたのは、エリザベローII世だ。
相変わらず、王族としてそれでいいのかと思う、半裸の姿である。
彼はパンチンググローブとマント、王冠といういつも通りの姿で、おもちゃの山に座っていた。
見たところ、周りの壁は海楼石ではなさそうだ。
薄暗さから考えると、ここは地下か。
パンチで掘削をするのは難しいだろう。それはまた別の技術だ。
「随分あちこちからいろんな人が集まっているみたいだね」
万国かと思うほどの、他種族の集いっぷりだ。
共通点があるとすれば、皆戦いのプロフェッショナルである。
となると、直近に行われたイベントの内容を想像できる。
皆がボロボロの姿であることと、ハイルディンの発言を考えるに、ここは敗者の控室――よりもう少し悪い場所な気がするね。
私は出ていくのをもう少し後にして、周囲をよく見ることにした。
まだ知り合いがいたので、私は眉を寄せながら尋ねる。
「なんかまだいまいち状況がわかってないんだけど――リク王、ここはきみの国か?」
たしかにドレスローザには、コロシアムがあったはずだ。
あちこちから凄腕の戦士を集め、戦わせるだけの舞台はあるだろう。
しかしこういう雰囲気のイベントが起こるような雰囲気の国ではなかったはずだ。
剣闘士の格好をしたリク王は、私の質問に苦々しい顔で答える。
「とっくに私のものではない……」
「うわ、なんか、私すんごい情報が遅れているかもしれないな。ドレスローザの今の王は誰だ? キュロス?」
「キュロス? ……いや、ドフラミンゴだ」
私はリク王の顔をまじまじと見た。
今の疑問符は、ありえない話を聞かされた時のはてなでもなければ、見当違いの話を聞かされた時のはてなでもなかった。
「きみ、偽物だったりするか?」
「この方以外にリク王がおられるかッ!」
王軍兵士らしき男にそう怒鳴られたので、じゃあ本物なのか。
本物なのだとすれば、キュロスのことを知らぬはずがない。
この違和感の正体はなんだ? 私はリク王に質問を続けた。
「レベッカはどこに?」
「まだ闘技場にいるはずだ」
リク王がレベッカのことは知っていたので、私は余計に混乱した。
父親なしに娘が生まれるわけがないだろう? なんなんだ?
質問する相手を変える。私はチンジャオに聞いた。
「チンジャオ、ここへはひとりで来たのか。隠居したと言っていなかったか」
「ああ、そうだ。しかし花ノ国から八宝水軍への依頼でな。孫でも生まれていれば、後を任せられたんだが」
私は次に、エリザベローII世に質問した。
「ジュニア、きみはここへひとりで来たのか。キング・パンチを撃つには準備がいるのに?」
「そうだ。優秀な軍師でもいれば、おれも負けずに済んだだろう」
その言葉について、目を閉じてよく考える。
私が間違っているのか、
あるいは記憶の喪失、事実の改ざん、人間自体の消去、そういった世界規模の能力か?
なんにせよ、犯人の特定は容易だ。
ミホークと共に七武海の会議に出席したあのとき、やはりドフラミンゴに舌を出しておいて正解だったらしい。
――私、きっと彼のことが嫌いだ。
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