あっちへふらふら、こっちへふらふら。
私は不思議なきのみを食べてから、根無し草になった。
場所も時間も関係なく、あちこちに飛ばされる。
それでも平気なのは、帰る場所があるからだ。
彼らは、ドレスローザのコリーダコロシアムで行われた大会に参加したメンバーだという。
治療の名目で連れて行かれた部屋から地下に落とされ、今ここにいる。
ドフラミンゴの目的は不明だが、ロクなことではないのだろう。
助けを請われても、脱出口が上しかないのなら、彼らを連れて行くのは私には難しい。
巨人と一緒に飛ぶのは、やったことがないが、たぶん無理だ。
ひとりで上に行って、ロープを探して来て垂らすとか?
地上までどれだけの高さかもわからない。
焦りだけを覚える。この状況を私はどうすればいい。
落ち着こうと、深呼吸をする。焦ってもいいことはない。
知己に気を取られていたが、私はこの場の2人を知らないのだ。
「きみらの名前を聞くの忘れてた。足の長いお兄さん、きみの名前は?」
「こんなときに自己紹介か?」
「おれはイデオ。そっちはブルーギリーだ」
「ヒューイ、勝手に名乗るなァ」
私の問いに、手長のイデオがかわりに答えてくれた。
青い髪のブルーギリーは覚えやすくて助かる。そして親切なイデオね、わかった。
「おれの村じゃ、突然現れた女には親切にしろ、幸運を運んでくるから、というジンクスがある」
イデオが私に親切な理由が明らかになった。
手長族に伝わるジンクスに感謝だ。
「おれの地元じゃ、ぽっと出の女には心を許すなっつーことわざがあるぜ」
ブルーギリーが不機嫌な理由もわかった。
私は本当にぽっと出てきたため、ことわざがなくとも怪しまれて当然だろう。それにしても。
「正反対の言い伝えがあるなんて
手長族と足長族は、種族間で長いこと戦争をしている。彼らは仲が悪い。
だから文化も真逆なのかと笑ってから、ふと思い出すことがあった。
私はかつて、どこぞの手長の一族に一宿一飯の恩を返すため、足長の集落との抗争に手を貸したことがなかっただろうか?
そのあと、どれだけの時を経てか不明だが、手長族だけを贔屓したら悪いかと、足長族に手を貸して戦に参加したこともある。
結局最終的には、手長と足長の抗争があったら、喧嘩両成敗ということで全員殴って止めるのが
「危ない!」
私はハッとして、エリザベローII世を足蹴にした。
蹴られた衝撃でごろごろ転がった彼は、おもちゃの山に突っ込むことになった。
当然文句が飛んでくる。
「王を蹴るのはお前くらいだぞ!」
「ごめん、ジュニア! 矢とか銃弾なら代わりに受けてあげるけど!」
私は上の穴から降ってきた、ネバネバする何かを指さした。
「これは気持ち悪くて触りたくない! だからみんな各自で避けろよ!」
全員が即座に臨戦態勢に入る。戦える者しかいないというのはこういうとき楽だ。
ネバネバは誰も捕らえられなかったからか、穴へと戻って行った――かと見せかけて、再び飛びかかってきた。今度の狙いはハイルディンだ。
彼は避けたが、ネバネバは蛇のように柔軟な軌道を描き、避けた先のハイルディンに張り付いた。
き、気持ち悪い!
一瞬しり込みしたが、私は何とか手を出した。
「ウワーッ、ハイルディン、きみ、重過ぎる!」
「クッ……!」
ネバネバに捕らえられ、上に連れていかれようとするハイルディンの足を、なんとか掴むことができた。
彼はさっき埋まっていた私を助けてくれたのだ。恩は返さなければならない。
しかしこのネバネバ、かなりの怪力だ。
私もそれなりに力があるはずだが、ハイルディンの骨をうっかり握りつぶさないよう配慮していることもあって、分が悪い。
私ごと持って行かれそうになり、かかとがちょっと浮いた。
「なんなんだ、これは!」
私の肩を、エリザベローII世が押さえてくれる。かかとは再び地面に着いた。
くそう、私だって本気を出せばこの綱引きに勝てるはずだ。
しかし綱であるハイルディンがちぎれてしまっては元も子もない。もどかしい。
私はハッとした。ハイルディンについたベタベタが垂れて、私の手元につきそうになっている。
――私は反射的に手を放してしまった。
ハイルディンは上に引っ張られ、見えなくなる。私は涙目だ。
「生理的に無理すぎるだろ! こんな攻撃初めてだよッ!」
ハイルディン、ごめーんと穴に向かって叫ぶ。
少しの間彼の声が聞こえたが、すぐに聞こえなくなった。
どうしよう。
私は腰に手をやって考える。あれを斬れるか?
素手で触るのは無理だ。剣なら……愛刀があの粘液まみれになるのを、私は耐えることができるのか?
ためらった。ためらっては剣を抜けない。
クッ、すさまじい精神攻撃だ。これは手ごわい相手だぞ。
皆がしばらく天井の穴を警戒していると、ふとイデオが言った。
「……おれたち、なぜ臨戦態勢を取っているんだったか?」
「たしかに。一度勝負はついたんだ、今更お前らと戦ったりしねえ。体力の無駄だ」
ブルーギリーがそう言って、再びおもちゃの山に座った。
他の皆も不思議そうな顔をしながら、それに続く。
おおよそわかった。
やはり、彼らの記憶の欠落は意図的に引き起こされたものだ。
もはや彼らの記憶の中に、ハイルディンは存在しない。
手ごわい相手だ。私は、ここにとどまっていてはいけないと理解した。
上に行けば接敵するか、あるいはルフィたちと合流できるかもしれない。
だが私が今一番にやるべきことはそれではない。何が起きているか、正確に把握することだ。
そのためには、この時間ではいけない。この場所ではいけない。
目を閉じて、心を落ち着ける。
未練を断ち切る。古くからの友と、新しい知己らと、まだ一緒にいたいという気持ちを捨てる。
ハイルディンを助けられなかった申し訳のなさも、今は忘れる。
彼らを助けるためには、私はここにいてはいけない。
さようならも言わずに、私はこの場から
台詞があったらサブタイトルに記載する方式だけど、クッ……! しか言わせてあげられなかった