あっちへふらふら、こっちへふらふら。
私は不思議なきのみを食べてから、根無し草になった。
場所も時間も関係なく、あちこちに飛ばされる。
それでも平気なのは、帰る場所があるからだ。
「この日にあんたさ会えたのはやっぱし運命……!」
見知った男を見つけたので声をかけると、なにやら目をキラキラさせて私を見てきた。
彼はバルトロメオ、暗黒街をまとめるリーダーにして麦わらのルフィの大ファンだ。
この日、と言われても、時間軸を不規則に移動している私にはいつだか不明だ。
現在地点は港。バルトロメオの友人たちが、船に荷物を運び込んでいる。
というかすごい船だな! 船首にルフィついてるんだけど!
「なにか特別な日だった? ルフィの誕生日?」
「それは喉から手が出るほど知りてえ情報だけんども!」
ああ、そもそもルフィの誕生日を知らないか。私も知らない。
誕生日いつなんだろ、今度ルフィに聞いておいてあげよう。
本人も知らない可能性があるな。聞くならガープかドラゴンかもしれない。
バルトロメオは直角にお辞儀して、握手を求めるように私に手を差し出した。
「バルトクラブに入ってけろっ!!」
「いいよー」
「ンな簡単にィ!?」
後ろで聞いていたバルトロメオの友人たちも驚愕していた。
あれ? 私なにか変なことを言ったのか?
バルトロメオとその友人たちは麦わらのルフィたちのファンだ。
私も当然麦わらの一味のことが大好きなわけで、それで気が合って友達になったのである。
駄菓子食って遊んでると忘れてしまうが、彼らは暗黒街を仕切るギャングなのだよな。
「え、ものすごく過酷な入団試験があったりする? 体に麦わらの一味の名前か顔のタトゥーを入れなきゃいけないとか?」
「そういうわけでねェけども、それはそれでアリだな」
あまり良くないアイディアを与えてしまったか? 本気でやりそうで困る。
「おれたちゃ決死の思いで海に出ようとしてんだ。んでもアンタは既に旅人だもんな、覚悟が違ェか」
「海?」
「んだ! 海賊団バルトクラブ、今日が船出の日だべ!」
それを聞いて私はぽかんと口を開けた。
「……海賊か! ごめん、さっきのやっぱナシ!」
私が手でバッテンをつくると、バルトロメオたちが一斉にズコーッとコケた。
忙しいところすまない。船に荷物を運び込んでいるのは航海の準備だったのだな。
そんなに好きなら追いかけて海に出たらいいのに、とか雑談をした記憶がある。
やっぱり彼らは思い立ったらやる男たちだな。タトゥーは入れないでくれ。
「海賊団には既に所属済みだ。悪い、ファンクラブの話かと思って……」
「何ィ!? アンタ海賊だっただべか!?」
「あれ? 言ってなかったっけ?」
そうか、言ってたらバルトロメオが私を海賊団に誘うことはないか。
うっかりしてしまった。てっきり初対面のときに言っていたのかと……そういえば彼とは初対面をまだやっていないかもしれない。
私側の初対面は記憶にあるが、彼にとって私と初めて会った日を、私はまだ知らない。
バルトロメオと会うときは大体駄菓子屋だからな……初対面もきっとそこだろうと思っているが、不明だ。
酒場以外の場所で盛り上がれる友人というのはこの歳になってくると貴重なのだ。
大人になると羽目を外すのに酒が必要になってくる。これは私も例外ではない。
「見かけるときいつもひとりっきりなもんで、てっきり一人旅だと思ってたべ」
「今日もここへはひとりできているし、勘違いして当然だよな」
「海賊っぽくねェべ」
「え? 荒事と縁遠い美人お姉さん?」
「そこまでは言ってねェ」
私が海賊ということを知らないのなら、当然彼は私が麦わらの一味であることも知らないのだ。
しまったなァ……これは結構大変なミスかもしれない。
私にとってバルトロメオは、仲間のことをものすごく褒めてくれる好青年、という認識だったわけだが……バルトロメオは私を麦わらの一味と思わずあれらの話をしていたわけだよな……やっちまったかも……。
「そうか、残念だが仕方ねっぺな。最初っからおれらのテンションさついてこれたんは、今までアンタだけだったっぺ。一番話のうまいガンビアが、新しくルフィ先輩のファンを連れてくることはあったけんども……」
バルトロメオの後方でガンビアが親指を立てる。
彼は話がうまいというか、永遠に話していられるというだけのような気もするな。
私も彼と「練り飴は1時間以上練った方がうまいんだよ!」とか言いながら永遠に飴を練り、永遠にルフィの話をしたことがある。
「……ちなみにバルトロメオ、これから麦わらの一味にメンバーが増えたらどう思う?」
「そりゃルフィ先輩が認めたお方なら最高の方々に決まってるべ!」
言いにくいなァ……私も一味だって言える雰囲気ではないなァ……。
言ったとして冗談を言うな、と信じてもらえないかもしれない。
まあいいや。私はいつも問題を後回しにする。
彼らの運が良ければ麦わらの一味に出会うだろうし、そのときバレればバレる。
たぶん彼らも仲の良い私が麦わらの一味だったら嬉しいはずだ。なっ。
私を海に誘うくらいだ。友人と認められている。
ルフィがいっしょにいるときに暴露して、その衝撃で諸々を誤魔化そう。
「ちなみにきみら、航海術は持ってるのか?」
「困ったらばーちゃんに聞くべさ」
彼らの言うばーちゃんとは、駄菓子屋の店主のことだ。
そうか、ただの駄菓子屋のおばあちゃんではなく、海に出た経験があったのか。
やはり人には人生があるなぁ……。