あっちへふらふら、こっちへふらふら。
私は不思議なきのみを食べてから、根無し草になった。
場所も時間も関係なく、あちこちに飛ばされる。
それでも平気なのは、帰る場所があるからだ。
ドン・クリークを倒した後。
ナミがゴーイング・メリー号を盗んで行ったので、それをウソップたちが追いかけていった。
そして我々はさらにそれを追いかけているわけだ。
「チョコレートラテです、マドモアゼル」
「おおー」
人並みに甘いものが好きなので、喜んで受け取った。
どっからその材料持ってきて、どこで加熱したのかとかはこの際いいや。
「おいおれのは!?」
「レディ専用だ」
「ええーっ!」
文句を言うルフィを笑って見ながら飲むチョコレートラテはうまいなあ。
カップを傾けていると、ルフィがあまりにも熱心にラテを見てくるので、やっぱり私は笑った。
「飲む?」
「飲む!」
聞いた瞬間腕が伸びてきて、私のカップを奪っていった。
それから「うっめェ!」と聞こえるまでも早かったので、私はまた笑った。
「あっテメェ! 何飲んでんだ!」
「私が良いよって言ったからね」
「間接キスとか羨ましいことをしてんじゃねえ!」
「そっちかー」
サンジはひとしきりルフィを追いかけまわし、満足したのか私のところに戻ってきた。
「不躾な質問かもしれないけど、聞いてもいいかな」
「いいよー」
「天使ちゃんのお母上は……」
「ごめんちょっと待って天使ちゃんってなんだ?」
「空から降ってきたラブリー・エンジェル! 翼を失って痛くありませんでしたか? ああ、落ちてくるときおれが受け止められれば良かったのに……!」
サンジが目をハートにしながらトルネード状になった。
なん……何を言っているかわからないが私もわからないぞ。
天使ちゃんは私のことらしい。
真珠の男――鉄壁のパールさんという名前だったのを後から知った――の真上に落ちてきたときのことを言っているのだろう。
空島にはもっと天使ちゃんっぽい人たちがいるんだけどな。まあいいか。
「話を遮ってごめんね。なんだって?」
「天使ちゃんは母親似?」
「母の顔は知らないな」
「失礼なことを聞いてしまって……」
「いや全然」
母や祖母、親戚がいるかと聞かれるのは、そのくらい昔や、変な場所で会ったことがある人なんだなこれが。
私と似ている人にかつて出会ったことがあるけれど、私本人なわけがないと思い込んでいる人からされる質問だ。本人なんだなこれが。
私の方に心当たりがあれば、的確な誤魔化し、あるいは開き直って私だよ〜んと言ってやることができるが、今回は覚えがない。未来の私がうまくやってくれるよう祈るしかないか。
「それ、いい人だった?」
「……ええ。初めて料理を食べてくれた人でしたから」
……めちゃくちゃ思い出的にデカいことしてるな。
コックの人生で初めて作った料理食うっておい。恥を知れ私。やっていいことと悪いことがあるだろ。サンジのママにそこは譲れよ。
「サンジの料理食べて、なんて言ったか当てようか」
罪悪感が湧いた私は、普段あまりやらないことをやった。
「こんなにおいしい料理、食べたことないよ」
「……!」
「あってた?」
さて、これで私は昔のサンジに会って初めて料理を食べさせてもらったら、そう言わなければならなくなった。
手にメモっとこうかな。絶対忘れないようにしなきゃいけない。
こんなおいしい料理……食べたことないよ……初めて食べるよだっけ? もう既にやばい。
私は相手の言ったことは覚えてられるが、自分が言ったことはすぐ忘れてしまうのだ。
自分の発言に責任を持ちたくないからな。だから普段こんなことはやらないのだが。
うまい飯の恩はでかいので……。
「サンジの料理がこれからずっと食べられるなんてしあわせだなー。船乗ってくれてありがとね」
「あなたのためなら地の果てまで駆けつけて作りましょう! 天国の楽園にだって、届けてみせる!」
「いやいいよ。私が行くから、サンジのとこに」
仲間のためならば、得意なことでも苦手なことでもやってみせよう。
どこにでも行くのは得意だが、自分の発言を覚えておくのは苦手だ。
初めて食べるよ……うん。ちょっとてにをはが違っても、ニュアンスがあっていればオッケーだろう。
「いつでもお待ちしております」
サンジはいつものようにキザに笑った。
名前を付けるのが苦手なので、ネームレスで執筆する技巧ばかり上がっていくのだが、女性の個人名を呼ばないサンジが解釈違い過ぎたため、愛称を設定
この人書くの難しい、対女性の対応がわからん、男主人公にすればよかった(後悔)