あっちへふらふら、こっちへふらふら。
私は不思議なきのみを食べてから、根無し草になった。
場所も時間も関係なく、あちこちに飛ばされる。
それでも平気なのは、帰る場所があるからだ。
私は現在地を確認して飛び上がった。
「カジノッ!」
思わず身構えるが、しばらく待っても何も起こらない。
急に叫んだ私を、不思議そうな目で見て行く客はいた。
ちょっと恥ずかしい。私は髪を耳にかけてはにかんだ。
ここがどこのカジノかはわからないが、少なくともグラン・テゾーロではないらしい。
焦った……最近もう、あそこに行った瞬間黄金が襲ってくるようなもんで……。
ホント私なんであんなにテゾーロくんに怒られてるんだろう、はやくそのあたりの思い出を補完する時代に飛びたいものだが、未だその願いは通じない。
カジノにいても、賭け事で遊びたい気分ではない。
店を出るか、と出口を探そうと周囲を見渡すと、スーツを着たスタッフらしき男が近づいてきて、私に言った。
「支配人がお呼びです」
やっぱこういう感じなの……!?
私は一瞬逃げようかと思ったが、しかし相手が誰なのかも確認しないで逃亡しては、モヤモヤが残ってしまう。
ドキドキしながら案内された部屋に入ると、私はそこで知った顔を見た。
「きみかよ!」
「随分なご挨拶だな。てめェで来たんじゃなかったのか」
「そうですね! こんにちはクロコダイル!」
事を構えたいわけではない。そして挨拶はコミュニケーションの基本だ。
私は元気に挨拶をして、クロコダイルの眉間にしわをつくった。声がでかすぎたらしい。
彼自身とはさほど仲がいいわけではない……と思う。
少なくとも現段階で、私には彼との思い出はそんなにない。
ただ彼は私のともだちの敵で、かつ私のともだちのともだちでもあるのだ。
非常に微妙な立ち位置で、私も敵対すればよいのか友好的にいけばよいのか迷っている。
麦わらの一味基準でいったらきっと敵だから、敵対していいのかなァ……?
ルフィなら……ルフィなら私の好きにしろと言うだろう。
「別に用事というわけでもないけど……ああ、むしろきみが私に会いたかったのか?」
「どうだかな。そのうち来るとは思ってたが」
「……マジ?」
会う約束でもしただろうか。
えーと、彼に最後に会ったのはいつだったかな。七武海になる直前?
「リトルガーデンでおれと話したろう」
「……?」
数秒思い返すと、私は「ああ!」と言って手をポンと打った。
「……ハッ! いやあれは私ではなく……」
あの時の私、ミスゴールデンウィークのフリをしたのだった。
もう手遅れか。そもそも電話したのが私だとクロコダイルが知っている時点で、何を言っても無駄だ。
どこでバレたかな、私のせいだったら皆に申し訳ない。
「クハハハハ。興味のねェヤツの声は覚えてねェが、てめェは別だ」
「なに? 私のこと好きなの?」
嘘は最初からバレていたらしい。うーん、サンジに全部任せていた方が良かったのか。
クロコダイルは私の言葉を無視し、葉巻をふかした。
「てめェに絆されておれに嘘をつくようなやつはいらねェ。Mr.3にはすでに抹殺命令を出してある。残念だったか?」
「いや、そこまででは……」
本当に声の区別はついていないらしい。
リトルガーデンでの通話、あれはサンジであってMr.3ではない。
ちょっととばっちりか? いや、Mr.3は麦わらの一味の抹殺に失敗しているため、順当な措置といえばそうなのかもしれない。
Mr.3は私よりよほどクロコダイルと付き合いが長いだろうに、声も喋り方も覚えてもらっていないのは可哀想だ。電伝虫の模倣機能を考えると、顔も覚えてもらっていないのかもしれない。
むしろ、私だけ覚えられている方がおかしいのかな。
頭に3が乗っている男より特徴的である自信はない。
逆? 頭の3だけで認識されているから声も顔も覚えてもらってないのか?
もっと逆か? クロコダイルに覚えてもらうために頭に3を乗っけだしたのか?
「私、どうしてきみにそれほど覚えてもらっているのだろう」
「てめェは写真だけで億の価値がつくと言われてる女だ」
「そんなこと言われてんの……!?」
どこの誰がそんなことを言っているのだろう。
世界政府か? 彼らにはそんなことをするメリットがなさそうだ。
私の写真など既に持っているはずだ。あるいは私の写真を手に入れた人間を抹殺するために金でおびき寄せている、というのならありえるだろうけど最悪過ぎて想像したくない。
もしくはモルガンズ? 非常に可能性が高そう。一回殴ってこようかな。
意味ないか。彼の新聞にかける情熱は本物だ。
「まあいいけど。払うのは私じゃないし」
どちらにせよ、私は今まで通りにするだけだ。
「きみは億程度で満足する男じゃないと思っていたが?」
「クハハハハ……そうだな。おれが欲しいもんはそれっぽっちじゃねェ」
「だったら
私はそう言って、部屋の壁を殴って崩した。
壁の中にはカメコが隠されていた。睨みつけて恐怖で目を回させる。
これで現像は不可能なはずだ。もっと可哀想なことをしなければならずに済んでよかった。
カメコを設置した人間が悪いのであって、カメコが悪いわけではないし。
まあ悪いのは運だな、カメコにとって。
クロコダイルは悪びれずに肩をすくめた。
「その写真で、金よりいいモンが手に入ると思ったんだがな」
それが何かはわからないが、私にとってあんまりいいことではなさそうだ。
「まったく、本人が目の前にいるんだからそれで満足しなさい」
「無欲な海賊がいるか?」
「それもそうだな……」
論破された。頭の良い人とレスバをするものではないな。
ともかく、クロコダイルと戦うのは私の役目ではない。
じゃあこの場で何をすればよいかと言ったら……雑談?
「この国を盗ったあとの展望とか、聞いてあげようか?」
「クハハハハ。てめェはその目で見ることになるだろうよ」
「あ〜どうかな。一部という意味なら?」
クロスギルド設立以降のやつなら、確かに私も目にしている。
あれはなかなか秀逸なシステムだった。賞金首の海兵版。
海賊だけでなく市民をも海兵への脅威に変え、海兵の士気を下げる海軍へのカウンター。
だれがいつどう死ぬかにベットできるようにしてあるギャンブルでの資金繰り。
金額の提示を財宝で行うことで、貨幣経済を握っている世界政府への対策も行ってある。
海兵にも友人が多いので心配ではあるが、海賊の友人たちはずっとその状況で生きてきたわけだし、まあなんとかなるだろう。