あっちへふらふら、こっちへふらふら。
私は不思議なきのみを食べてから、根無し草になった。
場所も時間も関係なく、あちこちに飛ばされる。
それでも平気なのは、帰る場所があるからだ。
空気が薄い。空が広い。ここは空島だ。
島の端から端まで見渡せる。現在地がわかった。ここは空島の中でも穏やかな場所だ。
天候研究のパイオニア、人工島ウェザリア。
この島はおじいちゃんが多く、私を孫のごとく可愛がってくれるのだ。
もちろん、飛ぶ時代によっては、ここに住む人々はおじいちゃんでなく、中年だったり青年だったりするが、面子は変わらない。
ガキ扱いされるのは好まない私でも、彼らは特別だ。
たとえ実年齢で私が上回っていようが、彼らのおじいちゃん力には負ける。
彼らって若いときからこうなのだ。私にすぐお菓子を渡してくるタイプのかわいがりをしてくる。
いつも変わらないメンバーだから、客人に飢えているのだろう。
物資の調達や研究のために青海に降りることはあれど、青海から誰かが訪ねてくることなどめったになさそうだ。人が訪ねて来る手段がないからこそ、彼らは安全なのだが。
島雲の上を歩いて少しばかり散策した後、知己を探して声をかけた。
「ハレダス、遊びに来た!」
「おお、よく来たのう!」
今回はおじいちゃんのハレダスだった。
魔法使いのような帽子とローブが、いつものように似合っている。
ハレダスは研究資料を投げ出して、私をある部屋へと引っ張って行った。
「ちょうど良かった。今お前さんと同じくらいの歳の女の子が来とるんじゃ。仲良くなれるかもしれん」
「同じくらいの歳の女の子?」
新しい学者でも増えたのだろうか。
ウェザリアの高齢化が着々と進んでいるのは、何度かここに飛ばされて理解している。
男ばかりであるのも、いつ来ても変わらない。
誰か嫁でももらったのか、それか一足飛びで娘か孫か?
期待しながら部屋を覗き込むと、そこにいたのはナミだった。
私は驚いたが、ナミも私を見て目を見開いた。
「え!? どうしてここにいるのよ……って、聞いても意味なかったわ」
私の神出鬼没は、聞いても意味がないと思われるほどに諦められているようだ。
ナミは私を上から下までつぶさに観察したあと、私の肩を掴み、ぐるんと回転させた。
私の後ろ姿を確認して、ナミは頷いた。
「どこも欠けてないわね。一旦、良し」
「検品?」
きっとこれから心配をかけることになるのだろうな。
ナミを悲しませないため、そのときどこも欠けないよう、私は努力しなければならない。
ナミはもう一度私を回転させて正面を向かせると、ぎゅっと抱きしめた。
おぎゃあ。息が苦しい。ちょうど顔に胸が。
「心配させないでよ……」
暴れてナミの腕から逃れようとしたが、ナミの声を聞いて止まった。
息の苦しさは我慢した。代わりに申し訳なさでいっぱいになる。
「ごめんね、ナミ」
「なにが悪いか、わかってるのかしら」
痛いところを突かれ、押し黙る。私は未来を知らない。
ナミにとっての過去で、私がなにをしでかして彼女にこれほどまでの心配をかけるのか、理解しないままに謝った。それは不誠実だったろう。
ナミは私を抱きしめて窒息させるのを止めると、指を一本立ててビシリと言いつけた。
「いい? 私の許可なく死ぬんじゃないわよ!」
「おお、それならわかった」
これから私は死にかけるらしい。安請け合いに聞こえたかもしれないが、私は本心からナミに誓った。
私が死にかけるのなどいつものことだ。いつだって死なないよう努力している。そこに嘘偽りはない。
どんな場所とタイミングかは不明だが、ナミがウェザリアに滞在するような時間軸で、私は欠損を心配されるくらいの大怪我を負うのかな。それっていつだ?
どれだけ気配をたどっても、ここにはナミ以外の麦わら海賊団はいない。
そういえばゾロがミホークのところにいた時も彼一人だったな。
ゾロの場合はものすごい迷子、という選択肢が追加されるが、迷子のゾロは足を止めることがないのであれは望んであそこにいたように思う。
あまりいい予感がしない。
だからこそ私は未だに、彼らが分断されることになった原因を知らないのだろう。
ひとしきりナミとの再会を喜んでから、私はハレダスに言った。
「ハレダス、きみの願いは叶わなかった。彼女と私は既に仲間だからな」
仲良くなれるかも、と紹介してもらったが、私とナミは既に友人以上の関係だ。
ハレダスは立派なひげをなでながら言った。
「なんじゃ、そうと言ってくれればのう。だとしたら盗みの罪とはいえ、ナミちゃんを捕まえたりしなかったんじゃがの~」
「事情は詳しく知らないけど、それはたぶん捕まえていいやつだよ」
ナミがてへ、と舌を出しながらウインクした。
「泥棒猫はどこにいっても健在だね、ナミ」
「アンタこそ、相変わらず人脈どうなってるのよ? こんな小さな空島に住んでるおじいちゃんとも友達だなんて」
「世界は広く、人間も多い。しかし友達になりたいと思えるような人間は、きみたちが思うよりずっと少ないものさ。気の合う友人を探すためなら、どれだけ小さい島だろうがたどり着けるよ」
ハレダスたちはみんなそろって、照れたように鼻の下をこすった。
私はこの島、ウェザリアが好きだ。
彼らに会ったのはまだこの島ができる前だから、ウェザリアに来たときは、彼らと必ず友人の状態で出会えるのだという安心感も好ましい。
「そして、私が仲間と呼ぶのは麦わらの一味だけだ。今日はハレダスたちに紹介できてよかった! ナミは最高の航海士だよ」
「そうかそうか」
好きな人と好きな人が仲良くしてるのを見ると気分がいいな。
ハレダスたちとナミが出会ってくれて本当に良かった。
……あ。ちょっと前に会ったハレダスたちが、いつもと違う、格好いい服を着ていたのってこれか!?
ナミと知り合ったからちょっといい格好したくて……というやつか?
色気づくにしては全員同時すぎると思ったんだ。
おしゃれに興味が出たのならいいけれど、一人の女性を狙う修羅場とかになってないだろうなと、勝手に心配していたのだ。
新しくできた弟子なんて、彼らにとってかわいくて仕方がないだろうな。
ナミが相手ならば大丈夫だろう。
ナミは心を盗むけれど、良心的な泥棒だから、手遅れになる前に盗んだことを教えてくれる。